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第16話 水心の儀


 魔法の授業で適性を調べる事になった。


 いわゆる魔法適正とは、その名の通りどんな属性が得意なのか不得意なのかを調べるという事だ。


 ヒスイ姉さんに「ちょっと待ってて」と言われしばらくすると、ヤシの実のような大きな殻を持ってきた。


『ウォーター』


 姉さんが右手を構え魔法を唱えると、ジャバジャバと水が勢いよく目の前の殻に水が溜まって行く。


「凄い、水の魔法初めて見ました!!」


 不意なタイミングで魔法を目にした俺は興奮しまくりだ。


「ふふふ、水魔法はとても使い勝手が良い魔法です。凄く便利なので適性関係無くエント君にも使えるようになって貰いますからね」


 おおお、直ぐには無理かもしれないけど、自分もいつか使えるんだと想像するだけで俄然やる気が出て来た。


 水がいよいよ一杯になると、姉さんは慎重に何処から取り出したのか、白い葉っぱを水面に浮かべた。


(あれ?? あんな白い葉っぱ畑には無かったと思うけど??)

 

「これが気になる?? これはさっき畑で育てていた魔力草よ。適期に取って保存していた物がこれよ」


「さっき森で言ってたのは、この事だったんですね」


「ええ、魔力草の収穫時期はここにある葉のように、白くなっている時期なんだけど凄く短くて栽培が難しい薬草なの。人族の国では魔力草が貴重な理由の一つね」


《ヒスイは毎日大切に育てとるからのぉ》


「うひょ!! うひょ!!」


「そうね、早速やりましょうか」


《ほっほっほ、そうじゃの》


(く!! 何故あんな短い言葉でうひょ語がわかるんだ!?)


「さて、これから行う方法は、古くから使われている【水心の儀】と呼ばれているものです。人族などではもう殆ど使っていないみたいだけど、とても良い方法なの。方法は簡単で、この殻を両手で持ち、自分の身体の一部として魔力を流す事が出来れば変化が起こります。その変化を見て適性を判断するのよ」


 説明を聞く限り、そんなに難しい感じはしないけど、実際やってみないと分からないな。


 逸る気持ちを抑えつつ、早速やってみる。


 ヒスイ先生曰く、瞑想と同じ姿勢でやってみると上手くいくと聞いてその通りにして殻を持って始めた。


 胡座をかいて両手で殻を持ち、ゆっくり息を鼻から吸って、ゆっくり口から吐き出して行く。


 意識は心臓付近にある魔核から……


(よし、感じるぞ)


 次に血が血管に流れているのを強くイメージしながら、同じ様に魔力の流れを意識する。


(分かる、分かるぞ)


 ここから持っている殻も、自分の身体と捉えて流すんだっけ。


 流す、流す!!


 何度も殻に魔力を流そうと挑戦してみるが、上手く行かない。


 たまに目を開けて殻の中を見てみても、何も変化は起こっていなかった。


 じぃちゃんと先生は何も言わず、ただ見守っているだけだ。


 色々自分で試してみろと言う事だな。


 さらに、何度も試行錯誤してはチャレンジしてみるが、やはり魔力を流す事が上手く出来なかった。


「ぷはぁ!! 駄目だぁああああ!! 魔力が流せない!!」


 汗だくになりながら、俺はその場で倒れ込んだ。


《ほっほっほ、頑張っとるのぉ。そんなエントにここでヒントじゃ……は!!……ギャグじゃ無いからの!? 魔力を物に流すというのは難しい。流すのではなく通す(・・)んじゃよ》


「エントにヒント……ですか。減点ですね」


《な!? ヒスイや、わざとじゃないじゃろ!?》


 二人のやり取りは、取り敢えずほうっておいて俺は続けとしよう。


(通すか……流すんじゃなくて、通す……)

 

 ふっとイメージが浮かび上がって、忘れない内にすぐさま試してみた。


 殻を持ち同じ様に呼吸から生み出る魔力、身体を流れる魔力を捉えて行く。


(ここからだ。流すのは難しい……通す。つまり、最初の通る部分を探して……ここか!?)


 その瞬間、魔力が滞って抵抗していたような部分が和らぎ、魔力がゆっくりだが確実に通って行く感覚がする。


(落ち着け、まだ殻を通しただけ……さらに水へ…………葉へ……)


 ……


 ………


(出来た……はず!!)


《見事じゃぁああああああ!!》


「おめでとう!!」


 ゆっくり目を開けて、葉っぱを見る。


 葉っぱ……!? 


 殻の中で浮かぶ葉は、なんと、大きくなっていた。


 葉は殆ど水面を隠す程に拡がり、さらに葉の形が微妙に、丸っぽい。


 姉さんは「ふむふむ」と言いながら、指を水に浸して舐めたり、殻の中を覗いたりした後、結果を解説してくれた。


「エント君の適性がわかりました」




 ドックン ドックン




 鼓動が早くなるのを感じる。


「エント君の適性は、木、次いで無が高く、水が普通で火も少しあるかな。風と土はさらに低めですね」


《おおお!! 儂によう似とるの!!》


「解説していくわね。まず、葉が大きく成長したのは、木属性の魔力の影響です。さらに、形が丸く変わっているのは無属性の影響。水は殻から溢れた量で判断して、火は水の温度で適性があると分かったわ」


 やはり木属性が高かったのは、予想してた通りだった。


 だけど無属性って中々イメージ出来ないけどどんな魔法なんだろうか??


 ただ、水と火も使えるのは素直に嬉しい。


 風と地の属性がほとんど無かったのは少し残念だったけど、憧れの火の玉とか撃てるなら全然我慢出来る。


「正直、無属性の適性があったのは予想外だったけれど、そのおかげで水と火の適性も使う事が可能なレベルになっていて、運が良かったわね」


 先生が言うには、水と火は相反する属性で、普通両方の適正を持つ事は少ないらしい。


 もし持っていたとしても、お互いが邪魔して使えない人が殆どらしい。


 ただ俺の場合は、水と火が中適性と小適性ではあるものの、木属性と無属性が作用して、相性の悪さを軽減したと考えられるらしい。


「エント君、属性の適性はあくまでも得意か、そうで無いかの違いでしかありません。得意でも本人が嫌いだと思えば伸びないし、不得意でも好きなら得意な適性に近付ける場合がある事を忘れないで下さいね」


「はい!! わかりました!!」


 あくまでも魔法の分野での得意と不得意を知っただけなのだと自分の中で繰り返した。


《ほっほっほ、『自分の専門家』にまた一つ近付いたのぉ》


 その後は残りの時間を使って、葉を普通の葉っぱに変えて、同じ様に魔力を通す練習を試みた。


 水心の儀で使っていた魔力草は、魔力を通しやすい葉だったようで、普通の葉に変えただけで難易度が段違いになった。


 普通の葉に変えて行う修行を【水心の業】と呼ぶらしく、毎日行う瞑想に加え、この修行も行う事になった。

 

 茜色の空になる頃、湖で身体を洗っていつもの食事を食べた。


 今日も夜だけあの黒いキノコが出てきた。


(美味しいんだが……色がなぁ)


 そんな事をぼんやり思いながらも、口をもぐもぐと動かし飲み込んでいく。


 今日も新しい体験がいっぱいだったけど、上手く言葉に出来ないが悪くないって思った。


 そして、明日はキラ兄さんのお手伝いだと思い出し、少し心配でもあり、それでいて少し楽しみでもあった。

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いつも読んで下さりありがとう御座います!

劣等魔族の成り上がり〜病弱なこの子の為にダンジョンで稼ぎます〜


こちらの新作も是非お楽しみ下さい!
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