第14話 修行のはじまり
人生初の魔法の授業を前に、俺は興奮していた。
巨大なじぃちゃんの幹を背に座り、魔法について座学から学ぶ事になった。
……なったんだがなんだこれは??
「コホン!! では、これより魔法の授業を始めます」
「宜しくお願いします!!」
(……ヒスイ姉さん。その眼鏡とビシッとしたスーツ姿はどうしたのかな??)
「エント君、何か言いたいコ・ト・デ・モ??」
「いえ!! 何でもありません!!」
あかん。
これはツッコミを入れたら駄目なパターンだ。
「では初めにエント君。君は魔法を見た事はありますか??」
「はい!! 『ヒール』はあります!!」
(ただ、あまり良い記憶ではないけどね)
「良いですね!! エント君は魔法とはどんなものだと思いますか??」
「この世界には『魔素』と呼ばれるものが大気中に存在し、それを身体で魔力に変換する事で現象を生み出す事でしょうか??」
旅人さんから前に少しだけ教えて貰った内容だとそういう事だったはずだ。
「…………」
それを聞いたヒスイ姉さんは、何故か目に涙を溜めぷるぷる震えている。
「い、良いでしょう!! そこまで分かってるなら、さっそく魔力を練ってみなさい!!」
「えぇ!? どう言う事ですか!?」
《これこれヒスイや、ちと飛ばし過ぎじゃよ。ほっほっほ》
「むーー」
《まず補足するかのぉ。エントの言ったように、この世界の大気には魔素と呼ばれるものがあるのぉ。それをお主の世界では肺? じゃったか、そこから取り込み、心臓付近にある魔核で魔力に変換させとるんじゃ》
じぃちゃんの補足は、俺が知っている知識も混ぜて表現してくれるのでイメージしやすい。
ヒスイ姉さんは端に行き、いじけて枝でお絵かきを始めたので、俺は慌てて質問を投げかけた。
「ヒスイ姉……先生!! 普段から魔素を取り入れているって事は、魔力も普段作られ続けているって事ですか??」
「え……ええ、そうです!! いつも無意識に行っているけど、魔素を取り込み、身体の必要最低限魔力に変えています」
立ち直ったようで、内心でほっと息を吐いた。
「じゃあ、魔素を取り込み、魔核で魔力に変え、魔法を使うと言う事ですか??」
「良い質問ですね!! その答えは半分正解で半分間違いですね」
俺は頭を撚って考えてみるが、答えは出て来ない。
「魔素は魔核で魔力になる。これは合っています。そして、魔力は身体のあちこちを流れて一定量溜めている状態でもあるんです。つまり、取り入れた魔素から作った魔力と、身体の中で溜まっている魔力があると言う事ですね」
「おおお!! なるほど!!」
「ふふふ、そうでしょう、そうでしょう!! 補足になりますが、魔核もまた、変換するだけでなく、普段の魔力を効率良く溜める働きもあるんですよ」
「えと、まとめると……外部からの魔力、身体にある魔力、魔核の魔力の三種類であってますか??」
「その通り、エント君正解です!!」
あ、この世界にもガッツポーズってあるんだ。
「有り難うございます!! それで、魔力を練るとはどうすれば良いんでしょう?」
「え……えっと……その……あれは」
《エントや、ヒスイは先程ちょっと先の事を言っておっての。まずは魔力を感じれるようになる事が先じゃの。ほっほっほ》
「エント君……ごめんなさい」
「いえいえ!! 僕も調子に乗っていましたから」
ヒスイ姉さんのお詫びの後、さっそく魔力を感じる練習を始めてみる。
教えて貰った方法はこうだ。
胡座をかき、肩の力を抜く。
頭を空から糸で引っ張られるイメージで、背筋を伸ばし目を閉じる。
鼻から息を吸い、口から吐き出す。
殆ど、過去の記憶にある瞑想に近い感じに思えたが、意識する場所が違った。
息を吸った後に、心臓付近の魔核で変化を感じる事に意識するのだそうだ。
暫くの間繰り返し繰り返しやってみたが、まるで感じとれない。
「焦らないで大丈夫。ゆっくり探しなさい」
ゆっくり吸い込み、ゆっくり吐き出す。
何度も何度も繰り返す。
焦らないで、考えないで、ただ……感じる。
全ての感覚を、心臓付近へ……
ん??
んん!?
なにか暖かく変わっていくものが……
おおお!!
僅かに感じるぞ!?
驚いて瞼を開けた時には、俺の服は汗びっしょりとなっていた。
「ふふ、感じたかな??」
《ほのかに暖かく感じるもの。それが自分の魔力じゃ》
「はい!! 確かに心臓の近くで感じました!! 凄い……これが魔力……」
《ほっほっほ、儂の子はやれば出来る子じゃ》
「おめでとう!! と言うのはまだ早いですが、まずは良いでしょう」
ヒスイ姉さん曰く、今感じ取ったのは自然に魔素から変化した魔力であって、それだけでは魔法は使えないと言われて、俺は少しがっかりもしたけど、確かな一歩だと思うとまた胸は弾んだ。
さらにその先の段階を聞いてみると、次は身体を巡る魔力を感じられる事が魔法を使う為の最低条件らしい。
やる気が出た俺は、再度瞑想を始め魔力を探しだした。
一度感じられたのが良かったのか、少しコツを掴んだ俺は自然と魔核から生み出されている魔力をさっきよりも早く感じとれる事が出来た。
でも、身体にある魔力は漠然としてるように感じ、意識する場所が定まらなくて上手く行かない。
何度かチャレンジしたものの、上手くいかず焦っていると、じぃちゃん先生がまたアドバイスをくれた。
《エントよ。魔力は絶えず流れておって捉えるのが難しいのじゃろう?? それならば、お主の知識にあった血管?? という管に流れる血をイメージするとえぇかものぉ》
なるほどと頷き、試しにイメージしてみた。
さっき感じた魔力は、心臓から太い血管を流れ徐々に体の中を流れていく。
何度も最初から繰り返す内に、太い血管を暖かい魔力が流れていくのを徐々に感じ取っていく。
魔力を感じる範囲が、徐々に拡がっていく度に嬉しいのをグッと堪え、さらにじっくりと細い血管部分も意識していった。
まだ行ける。
まだ…まだ……
「そこまで!!」
どれ程の時間が過ぎたのだろう。
ヒスイ先生の声で意識が外に戻る。
《ほっほっほ、お疲れ様じゃエント》
そう言われて目を開けると、驚く事に辺りは夕焼け色に染まっていた。
「エント君。明日から毎朝この瞑想をする事。これは基礎中の基礎ですが、非常に重要な修行です。いいですね??」
「はい!!」
「今日はここまでにしましょう。明日また午後からね」
「有り難う御座いました!!」
元気よく返事を返したものの、身体は長時間座っていたせいか、フラフラになった足取りで湖に向かい、汗を流してから晩御飯(昼食+焼きキノコ)を食べて、あの葉っぱ布団に入った。
今日は一日でほんと色んな事があったけど、凄く充実感のある一日だったとそう感じた。
今後の事を考えておこうと、頭の中で先を描き出すも、いつの間にか眠りに落ちていた。
こうして、この日、魔物の家族となった俺は、新しい家族との生活や修行が始まったのだった。