第13話 生き方を知る為に
《儂はお主の記憶を持っておるんじゃ》
彼が何を言っているのか分からなかった。
「え?? それは旅人さんに教えた俺の過去という意味??」
《そうではない。昨日お主は手術したじゃろぅ?? その際、儂の魔核を使った影響か、お主の生前の記憶が儂に流れて来たんじゃ。びっくりしたぞぃ》
(そんな馬鹿な……!?)
《すまんのぉ。事故とは言え、知ってしまった以上黙っておくのも悪いと思ってのぉ》
「それじゃあ……もしかして俺の子供の時の事も??」
「…………」
「答えてよ!!」
《……無論知っておる。お主があの時何を思い、何を感じたかもの》
誰でも、誰にも知られたくない事があるはずだ。
「…………」
《エントよ。お主はもう我が子じゃ。過去に別れを告げ、これからの人生を歩むんじゃ》
「誰にも言わないと……誓ってくれ!!」
ギリッと歯を噛みながら頼んだ。
《無論、誰かに教えたりせんよ。約束しよう》
「……わかった。怒鳴ってごめんなさい……」
《なんもじゃ。こうなると分かっていて、話したのじゃから》
じぃちゃんがそう約束してくれて、少し冷静になれた。
《話は変わるんじゃが、お主の記憶でお主のいた世界を見せられて、儂は非常に驚いたんじゃ。魔法が無い世界にも関わらず、文明は遥かに進み物も沢山あった。何より『法』というルールによって、争いも殆ど無いに等しい平和な世界じゃったのぉ。特にお主がいた国はのぉ》
確かにその通りだ。
世界では今だに内乱などの戦争もあるにはあったが、実際の生き死にの戦争よりも、経済的な戦争が中心になりつつあった。
特に日本なんかは法律や教育が行き届き、犯罪などはかなり少ない方だと思う。
《じゃがの……お主のいた国は何と言えばいいか……ふむ、そうじゃのぉ。とても不幸な国じゃと感じたのぉ》
「え……?? 不幸な国??」
俺は世界でも経済的、治安的にも高い日本は、幸福な国だとそう思っていた。
予想外の言葉の意味を知るべく、俺は静かに耳を傾け続けた。
《そうじゃのぉ、不幸な国じゃ。子供は遊ばず勉強や習い事の日々、大きくなって成体となれば食べる為に働き、老体になれば僅かな金を使って死んで逝く。幼体は少なく、老体は長寿でありながら孤独じゃった。無論、全てとは言えんじゃろうがのぉ。儂からすれば殆どの者は不幸じゃと思ったのぉ》
じぃちゃんが言っている事は分かる。
だけど、それが当たり前の事だし、社会がそうなっているんだから仕方ないんだよ。
《殆どの者が忘れておるのか……いや、分かっておらぬのか。そして、それはお主もじゃな。エントよ》
「分かってない?? 確かに今まで他人の人生を俺は歩いて来た気がするし、だからこれからは自分の人生を自分で歩むって事を、俺は旅人さんに教わったんだ。そういう事じゃないの??」
《否、それも大切な事じゃがの、もっと根本的な部分じゃ》
なぞなぞみたいだし、何処か哲学的な問題な気もするけどまるで正解が分からない。
《『生き方』を知らぬのじゃ》
じぃちゃんの言葉は分かるけど、意味が分からない。
《エントよ。まずは学ぶのじゃ。未だ生き方を知らぬお主を、儂が導こう》
じぃちゃんが、今何を言ってるのかが理解出来ないけれど、せっかく生まれ変わった人生、時間もある。
生き方を学ぶなんて、経験した事のない事も、この日以降じぃちゃんから沢山学ぶ事になる。
じぃちゃんはまず「自分の専門家になる事じゃ」と教えてくれた。
何が好きで、何が嫌いで、何が得意で、何が不得意かだ。
さっきの質問は、この事を確認する為に聞いてきたのだと分かった。
併せて今後の生活方針も決まる。
一つ目、午前中は上から順で兄弟の手伝いをする事。
自分を知る良い機会になると言われた。
大事な事は自分を知ろうとする自覚を忘れない事、らしい。
尚、兄弟のお手伝いが俺のお仕事なんだけど「本来、子供は遊びとお手伝いで充分なんじゃよ。ほっほっほ」とか言っていた。
俺的にお手伝いがあるだけまだ良いんだけど、自分に仕事がないと不安になるのはある種の病気かもしれないと苦笑する。
二つ目、午後の時間を使って木霊と木属性魔法を中心に魔法を学ぶようにと言われた。
指導役としてヒスイ姉さんとじぃちゃんが担当してくれるらしい。
おおお!! 来たよ魔法の授業が!!
なんでもこのエリア一帯はある程度安全とは言っても、自分の身は自分で守る事が基本で、さらに木霊においては他の魔物との重要な対話方法にもなる為、頑張るように言われた。
俺としては魔法が使いたくて仕方無いので、言われるまでも無く全力で頑張る所存だ。
その後、旅人さんから貰った荷物を昨日寝た布団近くの枝に置いて、昼食を食べた。
ヒスイ姉さんが作ってくれたお弁当? は、大きめの葉っぱで包まっていて、細く柔らかい蔓の紐を解き中を覗くと、沢山の木の実と果実が入っていた。
果実の名はププリと言う名の実で、皮は物凄く弾力性があって、ゴムのように伸びた。剥くのにかなり手こずったけど、中身の部分はめちゃくちゃ甘くて美味い。
マンゴーとモモを混ぜたような味と言えばわかりやすいだろうか??
だが、木の実は正直不味かった。
石で軽く割って中身を食べたんだけど、苦味とえぐ味が物凄く強い。
ちょっとキツくて残そうとしたら、ヒスイ姉さんが「栄養があるから残さずタベナサイ」と優しく……優しく? 言われて我慢しながらも全部食べ切った。
昼食が終わり、さっそく待ちに待った時間がやって来た。
そう!! いよいよ人生初めての魔法の授業が始まる!!




