第12話 魔王樹ファミリア 後編
(嵐のようなお姉さん……だったな)
物語の主人公ならば動じないのかもしれないが、例え魔物でも自分を嫌いだと面と向かって言われるのは悲しい。
《ほっほっほ、エントよすまんのぉ。あの娘もまた自分と向き合っておる最中なんじゃ。許してやっておくれ》
俺は「大丈夫です」と答え、コクリと頷いた。
そこに順番を飛ばされた魔物が飛んできた。
文字通り飛んで来た。
「アラ子めぇ!! 私の順番飛ばすなんてぇ絶対後でお仕置きなんだからねぇ!! 絶対刺しちゃうんだからねぇ!!」
目の前に現れたのは俺と同じ位のサイズをした可愛い女の娘なんだが、蜂っぽい黒と黄色の縞模様のお尻と、半透明な綺麗な羽を使ってぶんぶん音を立てて飛んでいる。
頭にはちっちゃな可愛い王冠がのっており、度々ズレそうなのを慌てて元に戻したしていて忙しそうに動いている。
な、何だこの可愛い魔物は……
「私はキラービープリンセス。兄弟の中ではプリンセスじゃなくて、ヒメって呼ばれてるわぁ!! 可愛いでしょ!? 私ね!! ずっと弟が欲しかったんだぁ!! 嬉しくて刺しちゃうぞぉ!!」
「いや刺さないで下さい!! とにかくその出たり入ったりしてる針を仕舞って下さい!!」
しばらく追いかけられて恐ろしい目にあったが、一先ず顔見せはお開きとなった。
《ほっほっほ、これで一通り挨拶も終わったの。エント以外はみんな解散じゃよ》
「うひょぉおお!! うひょぉおお!! うひょ!!」
《む?? おぉ、ふむふむ、わかったぞぃ!! ほっほっほ》
うひょが何か言ったのか兄弟達は笑って去っていったが、まるで分からない。
いつか俺にもうひょ語を理解できる時が来るんだろうか……いや、無理な気がする。
「そぅ、兄弟が沢山出来て良かったわね」
兄弟達と入れ替わるように、旅人さんが優しく微笑んでやって来た。
「思った以上に沢山過ぎて大変そうです。それに上手くやっていけるかちょっと不安ですね」
「そぅ、でもせっかく手に入れた人生。しっかり生きてみると自分で決めたのでしょう?? なら君は大丈夫よ」
そう言いって、抱えるサイズの皮袋を投げ渡して来た。
「これは??」
「最低限必要な物を想定して、一番近くの村で買って来たから使うといいわ」
何から何までして貰って申し訳無いとお礼を言い、紐を解いて中を覗くと前に着ていたのと同じような簡易的な服や下着が三セット、ナイフ、ロープ、火打ち石っぽい物も入っていた。
(助かった。昨日の手術で上半身まる裸のままで寒かったんだよ)
「何から何まで有り難う御座います。いつか必ずお返しします」
「そぅ、でも気にしないで。私も貴方と出会って沢山得るものがあったから」
ん?? 旅人さんが得たものっていったい何だろう。
《友よ、もう行くのかの??》
「え!?」
「えぇ、今度は北の方へ向うわ」
《……何度も聞くがここで共に生きていかんか?? お主はもう充分ーー》
「そぅ、有り難う。でも、私が自分で決めた事だから、最後までやり通すわ」
《そうか……気を付けるんじゃよ??》
彼女は魔王樹との話を終えて、突然過ぎる別れで唖然している俺の方に向き直った。
「エント……良い名前を貰ったわね」
「もう行くんですか!? 早過ぎるでしょ!? 昨日の今日でお別れなんて!! 折角これから色々教えて貰おうと思ったのに……」
「そぅ、経緯はどうあれ、貴方には魔物とはいえ家族が出来た。だから、何も問題無いわ。魔物達が理解し合い、共存するこの場所は貴方はまだ知らないだろうけど、世界中どこを探してもここしかない。人々は魔物達を束ねるエンシェントトレントの事を畏怖して【魔王樹】と呼ぶ。そして、偶然にも木霊を持ってしまった君にとっては一番安全な場所であり意味がある場所なのよ」
「また、また会えますか!?」
「そぅ、近くに来たら様子ぐらい見に来るわ。いつとは約束出来ないけれど、ね??」
「……わかりました」
「さて、もう行くわ。彼の事は任せたわよ。貴方は全てを知っているでしょうから上手く導けるでしょう」
《……知っておったか、相変わらず鋭いのぉ。勿論任された》
旅人さんはフードを被ると、ゆっくりと森の中に消えていった。
暫く一緒に生活して慣れた頃に、お別れだと勝手に思ってた自分が恥ずかしくも腹立たしくも感じていた。
直ぐ人に何かを期待したり頼ったりするこの考え方は、もう変えなきゃいけないと、そう思った。
《さて、エントやこれからの事を父さんと話すかの。ほっほっほ》
(いきなり、父さんとか言われても、心の整理というか恥ずかしくて簡単に呼べないよ!?)
「減点です」
その声は魔王樹の一部から出て来たヒスイ姉さんのものだった。
「爺、いきなり父さんなんて恥ずかしくて言えませんよ。それを強制っぽく言わせるなんて外道のする事ですよ??」
《ぐはぁ!! そんな優しい顔で酷い事言われると、心が捻じ切れるぅううううう!!》
「エント。私達もそうだけど、年が離れ過ぎているから、せめて爺とか爺ちゃんと呼んで上げてはどうかしら?? 爺なりに仲良くなりたいのよ」
《ヒ、ヒスイよ。そんな冷静に儂の心を赤裸々に……もぅ儂、穴に入りたい……》
「はいはい、根っこは入ってるでしょ??」
ヒスイ姉さんのアドバイスは確かに良案で、前の世界では俺が生まれた時にはすでに祖父は他界していたし、ちょっと憧れもあったから、何とか抵抗が無く呼べそうだ。
「それなら……じぃちゃんって呼んでいいですか??」
魔王樹なりに気を使ってくれているのは分かったし、ここで爺さんはちょっと距離があり過ぎる気もする。
恥ずかしいけど身体は少年なんだし、これ位の呼び方の方が良いだろう。
《ほっほっほ、まぁえぇかのぉ。いつか父さんと言ってくれると嬉しいのぉ。それと家族になったんじゃから、固い言葉は使わんでえぇ。儂みたいに硬くなってしまうぞぃ?? ふはははは!!》
《…………減点です》
《いやぁぁああああ!!》
そんな残念なやり取りの後、ようやく次の話題に入った。
《さて、これからの事じゃったの。エントは今日から家族じゃ。故に何かあったら皆でエントを助けよぅ。それが家族じゃからの。じゃがエントもまた家族を支えねばならん。さっき挨拶した兄弟達にもここに来た時に同じ事を伝えてある》
願ってもない話だと思った。
ただ飯を貰うのは気が引けるし、仕事があれば助かる。
《知っての通り、ここには色々な者がおる。故に得意な事や不得意な事、好きな事や嫌いな事、皆それぞれ違うんじゃ。お互い補い合ってファミリアは歩んで来たんじゃ。さて、エントよ、お主はどんな事が好きで何が得意なのかのぉ?? ほっほっほ》
改めてそう聞かれ考えると、さーーっと血の気が引いていく。
子供の身体になった今の体力は、どう考えても兄弟の中で最弱だ。
魔法なんてまるで使えないし、今後使えるのかも分からない。
あるのは前世の知識くらいだが、直ぐにファミリアに役立てる様な事も思い浮かばない。
何も出来ない自分はもしかして追い出されるんじゃ……
「爺!! 意地悪な言い方は減点ですよ??」
《これこれヒスイや、これもまた必要な事なんじゃよ》
「じ、じぃちゃんごめんなさい。……俺は何も得意な事が分からない。でも、何かお手伝いとかなら、出来るかもしれない」
《ほっほっほ、エントよ。意地悪な言い方をしてすまんのぉ。儂はお主が自分の事をどれだけ知っているかを試したかったんじゃよ》
自分の事をどれだけ知っているか??
《そうじゃな、隠しておる訳じゃないが、先に言うといた方がえぇじゃろう》
その後の話を聞いて、俺は驚愕する。
《儂はお主の│前世の記憶を持っておるんじゃ》




