第11話 魔王樹ファミリア 前編
顔がドロドロのヨダレまみれになった……
「エン……ト君で、良いのかな?? 大丈夫??」
うひょと呼ばれていた謎の生物を抱えていたのは、上から下まで薄緑色の可愛らしさを持つ美女だった。
胸は発展途上とだけ心のメモに……コホンコホン
それよりも今重要なのは、ふんわりした長い髪を耳にかけながら話すその女性は、身体の所々から葉っぱが出ていて、両足が木と同化? してるので間違いないく人じゃない事だ。
俺は必死に動揺を隠し答えた。
「はい、助かりました。貴方は……??」
「私はヒスイ、ドリアードのヒスイ。この子はうひょよ宜しくね」
「うひょぉおお!!」
うん、やはりどう見てもパッ○ンなフラワー似の魔物だ。
ヒスイさん絶対離さないで下さいね?? ね!?
《エントよ、ヒスイは皆の面倒をよぅ見てくれる儂の娘じゃ。何か困った事があったら聞くとえぇ》
「わかりました。ヒスイさん宜しくお願いします」
《ほっほっほ、ヒスイ姉さんと呼ぶんじゃよ??》
「すいません。ヒスイ……姉さん」
《爺……無理矢理言わすなんて最低ですね。減点!!》
《ぇえ!? ちょっと、ヒスイ待つんじゃ!! ゲホゲホ!! 年寄りには優しくするもんじゃと誰かが言うとったぞ!?》
そんなやり取りの後は、ヒスイ姉さんに案内され地面に降りる。
何故かうひょと呼ばれる謎の生物が、俺の肩にくっ付いているのは何故だろう。
舐めないで下さい。
意外に重……なんでもありません。
てか、何この生物、自分で移動も出来んの!?
正直、いつまた頭を丸呑みされるか心臓に悪いので可及的速やかに降りて欲しい。
ヒスイ姉さんは、俺でも登り降りが出来る窪みや枝を前もって調べてくれているみたいで、凄く親切に対応してくれる。
降りてから旅人さんの姿が見当たらないのに気付き、何処に行ったかヒスイさんに聞いてみれば、もう森の奥へ出かけた後だと言う。
魔王樹から離れ、ヒスイ姉さんに案内されたのは、上から見えていた湖で、そこでギトギトになった顔を洗うように言われた。
湖の水は冷たくて気持ちよく、顔を綺麗にすれば気分がスッキリとした。
少し頭が動くようになって、さて、これからどうなるんだろうかと、ぼぅと湖の水を覗きこんだ。
ん??
嘘だろ……
「な!! な!! なんじゃこりゃぁああああ!?」
水面に映った俺は……白髪になっていた。
さらに、右眼の色が赤くなっていて、これじゃまるで……
グッ!? 俺の邪○心眼が疼く!! ってあの……
「中二病じゃねぇかぁああああ!!」
「ちゅうに……?? エ、エント君、大丈夫かな?? ま、まぁ私は白髪も好きかも?? うん、カッコイイ、カッコイイ」
「うひょ!! うひょ!!」
「ヒスイさん、うひょさん……二回連続で使う言葉ってね。嘘っぽいですよね」
「「…………」」
「は!! いけない!! 旅人さんが帰って来そうよ!! エント君、急いで戻りましょう!!」
「……はい」
どうしてこんな痛い見た目になってしまったのかと、落ち込みながら重い足取りで魔王樹の元に戻ると、周りには沢山の魔物が集まっていた。
ぎょっとして、直ぐに危険だと判断した俺は、慌てて近くの木に隠れようとしたが、前を歩くヒスイ姉さんを見れば気にせずどんどん進んで行く。
(な、なんだあの数は、全部魔物なのか!? でも、ヒスイ姉さんはそのまま向かっている……)
「エント君、大丈夫よ。彼らは魔王樹ファミリア。私達の仲間よ。君の顔見せも兼ねて爺が集めたの」
(えぇ!? あれが全部家族!? 百じゃきかないぞ!?)
手招きするヒスイ姉さんに恐る恐る付いて行くと、魔物達の中に旅人さんを見つけたのでなんとか勇気を出して近寄った。
《おおお、戻って来たかの。さっそくじゃが、皆に紹介しようかの。ほっほっほ》
魔王樹を背にヒスイさんと並び、うひょさんを肩に乗せて魔物達の前に立たされた。
近くで魔物達を見ると、巨大な蟻や蜂がワラワラいるし、他にも違う種類の魔物も混じっているようだ。
《ほっほっほ、皆よう集まってくれた。今日から新しい家族を加える事になった。名は皆と考えたエントじゃ!! 宜しくのぉ!!》
その瞬間、魔物達の凄まじい鳴き声がまるで地震のように大地を震わせた。
その後、魔王樹から簡単な紹介の後に本人挨拶になった。
意外と人間ぽい流れだな。
正直、俺は一言も家族になりますなどと了承した記憶はないんだけど、もうどう考えても断れる状況ではなく「もうどうにでもなれ!!」と腹をくくった。
「はじめまして、私はエントって言います。異世界から来たばかりで、右も左もわかりませんがこれから家族の一員として宜しくお願い致します!」
「…………」
シーン……
何かまずいを失敗してしまったのか、まるで反応がなくて俺は冷や汗を流した。
《あ……すまん。殆どの者は木霊での会話は出来るんじゃが……ゲホゲホ!! ヒスイ!! 通訳頼むの!?》
《はぁ……爺、減点です》
(おぃいいいいいいい!! 台無しじゃねぇかぁああああ!!)
物凄くタイミングがずれて、再び、騒音喝采で挨拶は何とか無事に終わった。
と、思ったのだが続きがあった。
《エントよ、先程の魔物達はこの辺りのご近所さんや、ファミリアの子供達じゃ。残って貰ったこの者達が、お主の兄や姉になるからの》
この場に残っていたのは全員で六人、匹?? だ。
《長男はちょっと事情があって今はおらんからの、兄弟順で挨拶するように》
「改めまして長女のヒスイよ。エント君宜しくね。挨拶も終わったから、これからは兄弟らしくエントって呼ばせて貰うわね」
(えぇ!? ヒスイ姉さん一番年上なの!?)
「あぁ、エント。余計な事を知る必要はナイカラネ……」
「は、はいぃ!!」
次に前に進み出たのは、全長三メートルは有りそうな巨大カマキリだ。
一目で過去に激しい戦いをしたと分かるほどの傷跡があって、あちこちに古傷と左腕の鎌が途中から折れている。
「シュー! シュ、シュー!」と言っているが、もちろん俺は理解出来ない。
「キラーマンティスのキラだ。次男を務めさせて貰っている。宜しく頼む。と言っているわ」
絶妙なタイミングで、困難な通訳をしてくれるヒスイ姉さんマジスゴイ……それにちょっと雰囲気を真似ようとしてる所が、可笑しかったりする。
キラ兄さんが下がった後、次に出てきたのは巨大な次女だった。
《あらあらまぁまぁ、近くで見るとぷにぷにしてそうで、うちの子と同じで可愛いわねぇ》
木霊が使えるのか、頭に声が聞こえて来た。
見るからに巨大な女王蟻で、キラ兄さんよりも更に大きい。
《私は次女のリーフキラーアントクイーンのクインよ。皆にはクイン姉さんと呼ばれているわ。後ろにいる蟻達はみーんな私の子供達よ。凄く可愛いでしょぉ!? そうそう!! 私は身重だから中々出歩けないの。何かあったらお家に遊びにいらっしゃいな。何か相談くらいなら乗れるからね。そうだ、取っておきの物があってね、こないだ来た……》
そこから壊れたマシンガンのように話が止まらない。
(近所のおばちゃんに一人はいそうなタイプだな……)
結局ヒスイ姉さんの咳払いで、我に返ったクイン姉さんは、ようやく話を終えた。
やっと自己紹介が三男まで来た。
ズシン!!
ズシンィイン!!
(やばぃい!! これは、や、やばいぞぉおお!!)
ひと目で俺のテンションを最高潮にさせたそれは……
巨大カブトムシだった。
「ヒスイ姉さん、早く!! 一刻も早く伝えて下さい!! 途轍もなく大好きだって!!」
「えぇ!?」
《えぇ〜〜?? 僕の事〜〜?? エント君ありがと〜〜僕は〜〜三男の〜〜ジャイアントビートルの〜〜ジャイアンだよ〜〜》
(え?? ジャイアンて猫型のアレに出てくる……いや、名前など今はどうでもいい!!)
夢中になってジャイ兄さん(何となくそのままは駄目だと思った)を堪能し、静かに涙で頬を濡らした。
「ん゛っん゛っ!!」
咳払いされて我に返る。
後ろ髪を引かれる想いのまま、次は三女の番となり、大きな蜂がこちらに向かって来た。
が、突然、別の何かが現れた。
「ちっ、もう我慢ならねぇ!! 元人間だろうがそいつは!! そんな奴と家族なんてあたしゃ真っ平ごめんだね!!」
ジャイ兄さんの背中から突如現れたのは、上半身が女性で下半身が蜘蛛のナイスバディなお姉さんだった。
《アラ子や昨日ちゃんと説明したじゃろう。そんな事言わんでのぉ??》
「アラ子言うなっていつも言ってんだろこの糞爺がぁぁああああ!!」
そう言って、重い雰囲気だけを残し、森の奥に消えていった。
俺のアラ子姉さんへの第一印象は『嵐のような、姉』だった。




