第100話 何故
side パンドラ
私に初めての仲間が出来た。
とても可愛らしいその兄弟達だが、ただの初心者冒険者ではないとこっそりとじぃじが言っていたが、いざ伴に行動を始めると、なるほど確かにと思える場面が多々あった。
お兄さんのエント君といつもニコニコして可愛らしいナナちゃんは、身長はナナちゃんの方が高く、それを隠しきれず気にしているエント君は見ていて微笑ましいと思った。
ギルド職員として崖っぷちなこんな私が、知識や経験を得る為とは言え、ゴリ押してそんな兄弟達とパーティを組んで貰うのは、至極申し訳無い気持ちで私の心臓は弾けそうだった。
いけないいけない、落ち着け私。
私はいつもこうなる……この怪力と人見知りが相まって、頭の中でパニックを起こす。
自分で何を言ってるか分からなくなり、感情が昂ぶって辺りの物を壊してしまうので、周りの人々から距離を置かれるのは当たり前の事なのだ。
でも、彼等は違った。
彼はゆっくりとで良いからと私を落ち着かせ、物を壊しても怖がったりもせずに、いつも優しく接してくれた。
あの優しい顔で見詰められたら……い、いけないいけない。
兎にも角にも、金銭的には今日泊まれる宿代すら怪しい状況からのスタートではあったけれど、彼はパーティでの貯金と個人の貯金を提案して来た。
受付嬢として経験(隣で見ていただけ)した中で、そんな考え方を持った新人などまずいない。
そこからも彼等は驚くような行動を取る。
初心者定番のクエストである薬草採取では、異常なまでの採取量を初日から叩き出した。
(貢献するの!! と意気込んだけど、全然敵わなかったっけ……)
私が幼い頃からのトラウマで、森が怖いのだと分かると克服しようと、森で遊んでくれた。
こんな冒険者で良いのかとも思ったけれど、私の為に考え付き合ってくれる彼等がすぐに好きになっちゃうのは仕方ないと思う。
その後のゴブリン事件では、そういう場合での『普通』の対応を説明したら酷く取り乱したものの、それじゃあ助からないとまるで、御伽に出てくる英雄のように、残された人を探しに戻った。
私は急いでギルドに戻り、じぃじに言って緊急クエストを発注し、救援に向かった。
結果、助けられなかったと少し悲しく笑う彼を見て、抱き締めたいとその時思った。
もっと知りたい。
もっと仲良くなりたい。
そう強く思い、じぃじ以外の人に初めて私の過去を打ち明けた。
そうする事で、薄々何か隠し事をしている内容も引き出せるという打算も無かった訳ではない。
私の打算も分かっていそうだったけれど、彼もそれに答えてくれた。
彼は他の魔法との相性が悪い無属性魔法の使い手で、うひょと呼ばれるマンドラゴラの亜種と友達であると言った。
色々と突っ込みどころが満載だったけど、何より彼等に受け入れられたという実感が、私はとても嬉しくて仕方が無かった。
ちなみに、うひょさんとの素敵な出会いと想い出は、いつか本にするつもりなので割愛します。
その後もオーク狩りで資金を貯め、じぃじの友達?? であるシン・ザ・ブロウさん達の所で装備を整えたり、念願の休暇を満喫したりと楽しい時間が過ぎて言った。
か、彼とのキスはどうだったか!?
お、乙女に、な、な、な、何て事聞くんですか!!
ぎゅっとした、か、感触ですか!?
か、割愛です!! 割愛!!
そんなこんなで、あの護衛任務に向かいました。
王都ベルモントへは小さい頃に一度じぃじと行った事があり、ヘルメスでも指折りのパーティである灼熱の虎が同行するのもあって、心配性の私は珍しく楽観的に望んでいたんです。
でも……冒険はそんなに甘くは無かった。
前半は森からの正体不明の追尾から始まり、セピアでは司祭が不気味な死体で発見された。
ベルモントでは初日は平和に過ごせたが、次の日にはエント君から突然の協力要請を受け、不気味な地下を通ってナナちゃんとうひょさんで疲弊した人々の救出劇を手伝った。
それだけで済む筈もなく、彼等はベルモント王国から追われる身であるらしくて、気になるライチと呼ばれる魔族の少女も連れて夜間での大移動を行った。
度重なる状況変化に、私は困惑していた。
でも、現実は止まってなどくれるはずもなく、私を更に混乱させる。
大群の魔物を連れた、エント君とナナちゃんのジャックと呼ばれるお兄さんの登場。
世界が……終わる?? なんの事?? え??
再びセピアに付いた時には、もう私は私のモヤモヤが爆発しそうなのが分かった。
私を巻き込みたくなかったからだと彼等は言った。
衝動的に地面を殴ってしまったけれど、あの時は仕方なかったと思う。
一緒に冒険して、心の距離が縮まっていたのは、勘違いだったのだと気付いた時、恥ずかしい気持ちとふざけるなという怒りが沸き上がっていたから。
武器を構え、一触即発の状況にエント君が割って入り、真剣な顔で私に問う。
「引き返せないですよ?」
私は覚悟を決めて頷き、彼等から全てを聞いた。
彼は別の世界から来た転生者であり、来た時は人であった事や、人と魔物の間の存在になり、魔の森で生活してヘルメスにやって来た。
そして、死を司る女神様と時を司る女神様の使徒でもあると言う。
使徒になる際、そう遠くないこの世界の終焉を知り、今回の救出はその為に必要な行動だったのだと丁寧に説明してくれた。
私の小さな頭の中では、ほとんど理解が及ばなかったけれど、私の事を思って黙っていたと心から伝わるのが嬉しかった。
そう、それだけで良かった。
灼熱の虎が裏切る可能性がある事を、事前に聞いた時は流石にすぐには信じられなかったけれど、彼の言う通りになった。
彼が人を辞めた人を殺す考え方を私に説明してくれて、一生懸命に小さな頭の中で理解したつもりだった……
でも……私に武器を振り下ろす事は出来なかった。
私は私自身を理解出来ていない事が怖かった。
好意を持つ彼の教えも、結局無駄にしてしまったのが辛かった。
それなのに……それなのに今こうして私を私以上に理解して、励まし私をぎゅっと抱き締めてくれる彼が、同仕様もなく私は好き。
恥ずかしくって、思わず力を入れ過ぎちゃうのは許してね。
彼が部屋を後にしてから、私は恥ずかしい時用のピンクの箱に交換てから、ベッドに入った。
目を瞑ってエント君の温もりの余韻に浸りつつ、船を漕ぎ始めた。
グッ!?
突然息が出来なくなり、現実世界に引き返される。
何者かに、強靭な力で首を締め付けられているのに気付き、私は慌ててその腕を掴んで、吹き飛ばそうと力を込めた。
この緊急時、加減など必要ない。
ギシギシ!!
「な゛!?」
私の力で振り払えない者などいない……そう思っていた。
苦しさで歪む視界の隙間から、犯人は私がさっき使っていた黒い箱を被って、私に覆い被さり首を締め続けていた。
「こんばんわ」
箱の中で反響するせいか、少し声が変わって聞こえるが間違いない。
なぜ、何故、貴方が!?
「ナ゛……ナ゛……ちゃ……」