星を見に行くお話
「ほら、行こう」
妹に声を掛けて立ち上がる。
眼下には止まった時計台、歪んだ窓、枯れ落ちた樹木。
人類はあっけなく、ジャムをたっぷり塗ったパンを食べるように滅んだ。
まず老人が溶けて、大人たちが溶けて、次は私たち。
私はお姉ちゃんだから先に溶けていく。
ビルの化石たちを横目に歩く。
私の一歩は妹の一歩半だから、ゆっくり歩く。
窓のない自動ドアをくぐって、光を失った自動券売機にお金を入れる。
ピカピカ光る真新しいコインはお釣り入れに帰ってきてしまったので券売機の上へ。
「こども二人」
「しょうにんじゃないの、もしくは……こびと」
「こびとかもしれない」
明かりのない通路は暗いから二人で手を繋ぐ。
てくてくと私が歩き、とことことこと妹が歩く。
扉を開くと中世のコロッセオが広がっていて、サビの浮いたプラネタリウム・マシンはまるで宇宙人の様だった。
「ドーム壊れちゃってるね」
「ドームがあったら星が見えないよ」
「プラネタリウムなのに」
「私達が居る世界そのものが大きなプラネタリウムなのかもしれない」
「そっか」
「うん」
フカフカなはずの椅子は雨ざらしでガサガサだった。