表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希望の旗の物語(仮題)  作者: アレキサンドル スヴォーロフ
第一章
8/12

準備を

どうもアレキサンドル スヴォーロフです。

すみません、大幅なプロット変更の為、いつもより長くおまたせしてしまいました。

同様の理由で今回も長くなってしまったのを二つに分けて投稿します。

(次回の話は調整が終わっていないため、明日の投稿になります。)

では、拙作を楽しんでいただけると嬉しいです。


(5月21日 一部修正しました)

あの男は英雄になり得る卵であるのだろう、と私は薄々、感じていたのだと思う。長い戦争が終わり、世を平穏が満たしつつある今でもその考えは変わらなず、むしろ、なお強くなっているとさえ言える。しかし、それと同時に彼の死に場所はあそこしかなかったのでは、とも思うようになった、とはある半長耳族の談である。


ヘルマの後ろから来たクェウルさんと合流し、俺達三人は討伐したゴブリンの傍らに集まり、話し合う。

「取り敢えず、お疲れ様。」

「おう、お疲れ」「お疲れ様~」

「ゴブリンを三匹倒した訳だけどさっきの痕跡を見る限りは五匹はいたんだよな?」

「ああ、間違いない。俺と何よりクェウルさんが確認した。確実に五匹はいる。空を飛んでいて足跡が残らないなら別だけどな。」

それを聞き、俺は言う。

「なら、さっさとここからは離れた方がいいだろう。」

「私もそれがいいと思うよ。五匹もいたってことは間違いなくここはゴブリンの行動範囲の中だからね。」

「俺もいいぜ。あいつら基本的に長がいなくてもある程度まとまって行動するから、おそらくこれも少ししたらばれるしな。」

そうして俺達は来た道を戻り、森の別方向の調査に向かう。


「あれ、なんだ?」

別方向の調査中、ヘルマが森の中を指差す。

「何か見つけたのか?」

「あそこに、建物があるんだよ。見えないか?」

ヘルマが指差す方向を凝視してみてもただの森が広がるだけで俺には何かがあるようには見えない。

「わからん。クェウルさん、見える?」

クェウルさんはヘルマの指差す方向をじっと見つめる。

「ん~、あっ見えた、見えた。こっから大体二百マイト先になんかあるね。あれは多分、ゴブリンのすみかじゃないかな。ここからだとあんまりよく見えないけどね。」

「そうなのか。よく見えたな、ヘルマ。」

「伊達に狩人やってないぜ。」

「これでも、目も耳ほどじゃないけど自信あったんだけどなぁ。」

俺は剣を腰の剣帯から引き抜き、言う。

「それじゃあ、見に行ってみようか。」

「オーケー。」「わかったよ。」


俺達はゴブリンのすみかから七十マイトのところで止まり、しっかりと目視できる二人が声を潜めて、話し合う。

「随分小さいな。それに作りが普通のより雑だ。」

「でも、数は多いね。七はいるよ。」

「あれ、奥、少し窪んでるから奥の奴は見えねえな。潜入するか。クェウルさんも来る?」

「いや、私はいい。慣れてないし、近接はからっきしだから。」

「じゃあ、ヘルマ、頼むぞ。」

「オーケー。ばれても面倒だから、もう少し離れたところで待ってな。」

そう言うと、ヘルマはゴブリンのすみかに向かって行った。


風の流れに合わせて動き、木の陰に身を隠し進む。

日が傾き、闇の深くなる森と自身を溶け合わせ、相手の視界から外れるのではなく、相手の意識から自身を外す。

弓と違い誰かに習った訳ではない、いつの間にか身に付いていた感覚に身を任せ、ヘルマは進む。

(そろそろ、見えるな。)

ヘルマは森と同化したまま、窪みの先を見渡す。

そこには十数本の木が倒されてできた広場に洞穴型のゴブリンの巣が大きいものと小さいものの二つあった。

(あれはゴブリンどもの拠点に間違いないな。まず、外に7。)

巣の側には木を切るのに使ったと思われるボロボロの骨斧と二人用の鋸が転がっている。

(あれで木を切っていたのか。それにしてもお粗末な道具だ。あれじゃ武器にもならない。)

ヘルマが回りを見渡すと、奥の森からゴブリンの集団が広場に出てきた。

(五体…あれは、巡回に出ていたやつらか…。)

小さめの巣は拡張中のようで外に土が山積みになっており、大きい巣の中は暗くなっていて見えないがそこそこ大きく、入り口が崩落したのか随分大きくなっている。

(暗くて中は見えない。…ん、三体出てきたな。)

そこで空を見てみると、いつの間にか西の空が赤く染まっていた。

(早く戻らないと夜になる前に帰れなくなるな。)

ヘルマは暗い森の中を戻って行く。


ヘルマが帰って来たが、日も落ちて来ているのでまずは村に戻ることにした。

村についた頃には殆ど日は落ち、村の家の中からは美味しそうな食事の匂いや楽しそうな声が聞こえて来る。

俺達が村長の家に戻ると、居間に倒れ込んでいるアステルとコーブがいた。俺は倒れてる二人に尋ねる。

「どうしたの、二人とも?」

「お帰り、アレク、ヘルマ、クェウルさん…私はもう疲れたよ。」

「三人とも、お帰り。アステルは…ダメか。」

アステルは答えはするが、床に突っ伏した状態から動かず、コーブが体を起こして悲壮な顔をして言う。。

「アレク、頼む。次からこういうのやる時はせめてシレル+四人の体制でやってくれ…。」

「何があったの? 」

クェウルさんが尋ねる。

「診療自体は万事上手く行ったんだが、そのスピードがな…お前ら、シレルが三時間でこの村の患者百人近く捌いたって言ったら信じるか?」

「…まじで?」

ヘルマが驚愕の表情を浮かべ、尋ねる。それにコーブはひどく真面目な顔で答える。

「嘘ついてどうする、兄弟。いや元々そういう噂はあったんだよ。一ヶ月のうちに手伝いシスターが過労で十人倒れたとか、一日で五百人治療したとか、そういうのさ。まさか、本当だったとは…。」

「で、当のシレルは?」

「あんだけ捌いたのに元気に、教会の片付けをしてから帰って来るって言ってたからもう少しで帰って来るんじゃないかな。」

「まだ働けんのかよ…」

「ただいま戻りましたー!」

ヘルマがそう呟いたと同時に玄関から元気なシレルの声がする。

「シレルも帰って来たみたいだし、ご飯にしようか。」


俺達は村長の家の居間でクェウルさんと村長を交えて、晩飯を食べていた。

俺はスープを飲み干し、シレルに尋ねた。

「それで、シレル。今日、村の患者全部捌いたって本当?」

「ゴフッ!ゴホッ、ゴホゴホ。」

話を聞いていない驚いて村長が噎せる中、シレルは実に嬉しそうな顔をして答える。

「ええ、皆さん特別重い病気や怪我もなく健康で、思ってたよりも早く終わりました。」

「いやいや、怪我人だけで五十はおるし、病人含めたら百は下らないはずじゃぞ。どうやって捌いたのじゃ。」

「いえ、五十三人の怪我人の皆さんはゴブリンや獣にやられた比較的深くない裂傷が多かったのですが、その後の処置が良かったのか余りひどい状態にはなっていなかったので、光魔法の回復で十分でしたし、二十人の病気の方々も村にあるものを使った食事療法で十分に治ります。それに病気というより過労や精神的疲労による体調不良が四十五人と多かったですね。ゴブリンを追い払ったり、畑仕事で忙しいのはわかりますがしっかり休養は取らないとだめです。」

「わ、わかった。できる限りの休むように言っておこう。」

呆気にとられる村長。

「いくら軽い怪我ばかりだったとはいえそんだけの人数捌いたら、随分魔力も体力も使ったんじゃないか?」

俺は明日のこともあるので尋ねる。

「まあ、そこそこ使いましたが、ギフトがあるので、もう使った分の四分の一くらいは回復しましたし、大丈夫です、明日の冒険には影響ありません。」

「えっ、シレルってギフト持ちだったの?!」

アステルが驚く。

「はい。我らが主神たるオーディン様より『戻魔のルーン』と『快癒のルーン』をいただいております。」

「ならアステルと同じだな。アステルももらってたよなギフト。」

「うん。私は『細緻の祝福』と『円環の祝福』を隣のゼウス領域の神様のアルテミス様からもらってる。コーブはわからないけど、アレクとヘルマも、なにかしらのギフトは持ってるよ。」

「ほう、兄弟達はどんなものを持ってるんだ。」

「私も気になります。」

興味津々の二人にヘルマが答える。

「すまんがわからん。そうだよな、アステル。」

アステルは持っていたパンを机で置き、答える。

「ええ、そうよ。ギフトの有無を調べる魔法はそんなに難しくはないんだけど、その種類を調べる魔法ってなると教会とかでやらないと行けなかったり、調べる術式はでかいし、難しいしで面倒なのよ。」

「ほうほう、そうだったのか。教会に行けばすぐに調べられるから結構簡単なもんだと思ってたな。」

「まあ、一回ちゃんとしたのを作っとけば、十年単位で使い回せるくらいに丈夫な術式だからね。コーブはどうなの?何かもらってないの?」

術式の説明をし終えるとコーブにギフトの有無を尋ねるアステル。

「おう、俺ももらってるぞ。俺はオーディン神域の神様の一柱、トール様から『頑強のルーン』をもらってる。」

コーブが話終えると、俺はパンパンと手を鳴らす。

「雑談もほどほどに本題に入ろう。」

俺がそう切り出すと、この場にいる全員の顔から笑みが抜け、今まで雑談で緩んでいた食卓の空気が一気に引き締まる。

「じゃあ、まずクェウルさん。ゴブリンの生息地域は森のどの範囲と考えられる?」

「今までのことと森の様子を考えると、ゴブリン達はほとんどが森の中深度地域にいて、深度地域にもわずかにいるかもしれない、ってところかな。おそらく、拠点も私達の見つけたあれひとつだけだと思う。」

「次、ヘルマ。その拠点の状況は?」

「おう、俺の偵察の限りだと、ゴブリンの拠点に存在する住居は三、洞穴型二つ、テント型一つで片方の洞穴型は随分大きいようだったな。拠点内に確認したゴブリンは十だな。途中、巡回に出ていた奴らが五体、帰って来て十五に増えたけどな。他には…武器になりそうな斧や剣がない訳じゃなかったが、確認したものは例外なく、状態はかなり悪かったぜ。」

「アステル、魔力反応に変化は?」

「変化なし。探査は続けるけど、魔法、呪術使いはいない可能性が高いわ。」

「コーブ、どう攻略する?」

「そうだな、敵は二十、多くて二十五と想定する。基本的には昼間のうちは待ち伏せ、夜の明け方ごろに朝駆け、って形がいいだろう。取り敢えず、敵はただのゴブリンだけのようだから、昼のうち巡回の奴ら潰して、拠点内から残ったゴブリンを引っ張り出し、できるだけ数を減らしておく。日が傾き切った頃に、一旦森の浅いところに抜けて、俺達は早めに休憩を取る。そして、朝の明け方前に拠点を襲撃して終わりだ。」

「何体づつ倒す?」

「待ち伏せ十五、朝駆け十くらいがいいと思う。あまり、全員の出てくるなら話は別だが、待ち伏せであまり倒し過ぎても逃げられるだけだからな。細かい調整は現場で指揮するアレクに任せるよ。」

「わかった。ということなので、村長、クェウルさん明日は村の森側にあまり人を寄せないで、村の衛兵達にもすぐに対応できるようにいってもらえますか?」

「わかった、衛兵と村人には伝えておこうぞ。」

「あと何か質問は?……無さそうだな。じゃあ、明日はこの作戦で行こう。」

「よし、しかめっ面は終わりだ!村長、葡萄酒を開けてもよろしいか?」

「ほほ、構わんぞ。」

「じゃあ、お爺ちゃん、室からいいジャーキーを出してきていい?」

こうして作戦が決まると、コーブが酒瓶をあける。

飯を食い、酒を飲み、会話に花を咲かせる。

こうして夜は更けていった。


「みんな、おはよう!」

泊まっている家での朝の食事の片付けを行っていると、元気なクェウルさんの高い声が響き、腰に短弓を備えた本人が入って来る。コーブが苦しそうな顔で頭を抑える。

「おはよう、クェウルさん。今日は弓を持ってるんだね。」

「おはよー、アレク。妖精さんに頼りっきりも悪いからね。これでも結構、得意なんだよ!」

「ぐおぉ、お、大声出さないで…頭かキーンってする…」

机の上で頭を押さえて、うめくように声を上げるコーブ。

「どしたの、これ?」

シレルが答える。

「気にしないでください、クェウルさん。こいつは昨日、言うこと聞かないで、酒飲み過ぎて二日酔いになってるだけですから。自業自得です。」

「シレル…解毒を…解毒を…」

「ダメです。何度目ですか?しっかり反省してください、コーブ。」

「そんなぁ…」

弱々しい声でシレルに助けを求めるも、すげなく断られ、机に突っ伏し、情けない声をあげるコーブ。

「まあ、そんなコーブはさておいて、もうすぐ準備できますから、少し待っててください。」

「わかった、でもコーブのあれは直してあげてね。支障が出るかも知れないからね。」

「ってクェウルさんは言ってるけどどう?シレル?」

シレルは大きなため息をつく。

「はぁ~、わかりました。クェウルさんに免じて許しましょう。『其の光は血を清め、毒を解かす、キュア』」

「あぁ~、生き返る。」

シレルが解毒の光魔法を掛け、コーブが二日酔いから解放される。

直剣を背中に背負い俺はテーブルから立ち上がり、仲間達を見渡す。

ヘルマは魔物狩りの弓に弦を張る。

アステルはポーチ内の即応魔方陣の数を確認する。

コーブは盾を傍らに置き、剣を腰に差す。

シレルは祈りを終え、木製のルーンを首に掛ける。

「全員、準備出来たみたいだな。なら、出発だ。ゴブリンどもを蹴散らすぞ!」

「「「「「おお!」」」」」

誤字、脱字の発見に協力していただけると幸いです。

評価、感想、レビューお待ちしてます。

していただけると作者が喜び、更新能力が上がるかもしれません。

今回、急ぎすぎで後書き、前書きをいれ忘れるという失態を見せてしまいました。重ねて、申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ