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希望の旗の物語(仮題)  作者: アレキサンドル スヴォーロフ
第一章
5/12

都市で

どうもアレキサンドル スヴォーロフです。

今回で準備回、導入回は終わりです。色々、書いてたら長くなってしまった。

次から、冒険回になります。次回には戦闘に入れるように頑張りたいです。

今回も拙作を楽しんでいただけると嬉しいです。

かの御仁には英雄のような力があったわけではありませんでした。その点で言うのなら、私や他のメンバーの方々の方がいくらか英雄的であったでしょう。ですが、優しさや純粋さといった彼の「魂の美しさ」から来る、人を集める力は他人にはなかったものでしょう、とはある神官長の談である。


騒動のせいで、かなり遅めとなった昼飯を食べ終わった俺達五人はパーティー名義で借りている宿舎に向かった。

向かっている途中、バルーリンの街並みを見ていたが、区画はきっちり整備され、華美な装飾の軒先が過剰に出っぱっていたり、店の商品棚が道の端に飛び出していたりする事のない、しっかりと統制の取れている街という印象を俺達に与えた。

そして、そこに生活している人々もやはり華美な服装をしている者は少なく、街全体に実直な印象を受けた。


「おおー!」

宿舎に着くと俺達は全員が声を上げる。

宿舎は冒険者ギルドを含む各種ギルドや大聖堂のある中央街区からは離れているが、そこから東西南北から伸びる大通りの一つである、西大通りから一本路地に入ったところにある。

中に入り、間取り等を確認する。

構造としては二階建ての少し広めの長屋のような建物であり、一階には広いリビングに小さな調理場、トイレ、物置があり、二階には四人部屋と三人部屋が一つづつ、三人部屋くらい本棚付きの広間、広間から通じる物置になってるロフトがある。


「思っていたより、ボロくないし良い感じだな。少しビックリした。」

「そうね、コーブさん。まあ、ディオナさんが言うには、まだ前のパーティーが出ていってそんなに経ってないらしいから、こんなもんなのかも知れないけど。」

入ってすぐのところにある調理場と繋がっているリビングを眺め、意外だと話すコーブとアステル。

「結構年数経っていそうですが、まだまだ丈夫そうですね。この共有広場も日当たりが良くて洗濯物なんかもよくかわきそうです。そう思いません?ヘルマさん」

「そうですね。それに、これだけ井戸が近くにあれば、冒険から帰って来て、すぐに汗も流せる。」

また、裏手の共有井戸広場に繋がるドアの辺りでは、ヘルマとシレルさんが便利だと話している。

そんな中、俺は切り出す。

「じゃあ、内装見学もほどほどに、部屋割り決めようか?」

四人が答える。

「オーケー。」「はーい。」「わかった。」「わかりました。」

「じゃあ、男と女で分けるけど、四人部屋と三人部屋どっちが良い?」

女組のアステルが答える。

「私達が三人部屋でいいよ。男の方が人数多いし、広い方が良いでしょ。シレルもそれでいい?」

「はい、構いません。」

これに対し、男組は感謝を伝える。

「ありがたい、気を使わせてしまったようで悪いな。シレル、アステル。」

「あんがと、感謝するぜ。アステル、シレルさん。」

「すまない、恩に着る。」

部屋割りも決まったので俺は話し始める。

「無事に部屋割りも決まったようだから、荷物は置いて、足りない諸々の備品の買い出しといきましょう。」

そうして、俺達はそれぞれの荷物を宿舎に置き、買い物に出掛けた。


俺達は俺達の入ってきた北門とは逆に位置し、この街の商業区となっている南大通りの中ほどにある市場を歩いていた。

「とりあえず、冒険関係の物は食料以外殆ど揃ってるだろうから、食器、調理用具、照明用の油、食料辺りを軽く買っていこう。あと、他に皆が欲しいものがあるならそれも買っていこうか。」

流石にここは過飾を嫌う質実剛健の都市バルーリンと謂えどもその彩りは豊かであり、空が夕焼けで赤く染まろうとしている今の時間は一層賑やかである。

「地方都市の商業区だけあって流石の賑やかさだな。」

「そうだね、ここまで賑やかな市場はみたことないよ。」

「人が多いだけあって、いろんな物が売ってますね。」

「大道芸人に屋台、絵画商に置物商までいるぜ。…あっ、あそこに食器売ってるみたいだぞ」

人でごった返す市場の中を全員で歩いているとヘルマが食器を売る店を見つける。

「じゃあいってみようか。」

店には焼き物に切り出し物、赤や青の美しい装飾のある物や装飾のない物、大きな鮭が乗りそうな大皿から使い道がわからない金属の小さなゴブレットのような物まで様々な食器を扱っていた。

「やあ、お兄さんがた。食器をお探しかい?」

俺達が店に近付くと老いた店主が俺達に声をかける。

「ああ、ついさっきこの街に居を構えたところでね。いろいろ物入りなんだ。」

「そうかい。じゃあ、良く見てくといい。いろいろ用意してるからの。」

俺達は品物を眺める。そんな中、アステルが尋ねる。

「お爺さん、この小さくてかわいいカップは何に使うの?」

「それはエッグカップと言ってね、お嬢さん。茹でた卵をその器に入れて食べるんじゃ。貴族が良く使っておる。」

「へえ、ただの食器売りの店にしては色々あるのね。」

「まあ、これは今まで商人としてやっていく中で楽しんでいた趣味じゃよ。各地を回って、その場所の皿や器をを買い、蒐集してきた。珍しい形や色の皿の売り物は蒐集してきた物じゃよ。もう、旅できる歳ではないからの、処分してしまおうと思っての。」

「なるほどね。じゃあ、このかわいいエッグカップだっけ?これを買ってもいい?」

「構わんぞ、金属製とはいえ今更惜しむ物でもないしの。…ほれ、お前さんらは買うもん決まったか?」

店主はアステルに答え、俺達に尋ねる。俺は木製の小皿と中皿、食器セット、そして、ある程度広い大皿を指差し、言う。

「ああ、この皿とこの皿、あとこれを人数分とこの皿を二枚もらえるか?」

「お兄さんのが大銅貨六枚と銅貨四枚、そして、お嬢さんのが大銅貨三枚と銅貨九枚。占めて、銀貨一枚と銅貨三枚かの。まあ、お嬢さんには儂の手伝いもしてもらっておるからの、割引して、銀貨一枚丁度でどうじゃ?」

俺は財布から銀貨を取り出し、店主に渡す。

「わかった。これで良いか?」

店主は銀貨を受け取り、調べる。

「ああ、大丈夫じゃよ。縁の削れた銀貨だったら取り返させるところじゃが、特にそんな事もないようじゃの。まあ、お前さんらはケチな行商連中でもないみたいだしの、そんなこともないか」

コーブが尋ねる。

「行商人ってのは暇なのか?何でそんなことしてる?」

店主が答える。

「『商人はいつでも指先が黒い』、というやつじゃ。」

「はぁ?」

「ああ、なるほどね。」

俺はすぐに理解したが、コーブはわからず、変な声を上げている。そんなコーブを気にせず、店主は空を見上げ、俺達に尋ねる。

「そんなことはいいが、お前さんら。時間は大丈夫なのかの。日が完全に沈む頃にはこの辺りの店は殆ど閉まっちまう。もし、他に欲しいものがあるなら、店を紹介するがの。」

「そうなのか。なら、頼もうかな。店主、あと欲しいものは調理用具、照明用の油、食料だ。」

店主は順に方向を指差していく。

「一番近いのは、油屋でこの通りを少し行ったとこにある黄色の暖簾の店、調理用具はその二つ隣の店、食い物は屋台含めて3つ隣の通りに集中してる。食い物の屋台は夜もやっておるし、広場もあるからそこで夕飯でも食っていくといい。ほれ、お前さん達のだ。」

店主から包まれた食器を受けとると、俺は親切な店主に感謝を伝える。

「ありがとう、店主。もし、また食器を買う機会があればここを頼るよ。」

「親切にした甲斐があったの。毎度ありじゃ。日の沈まぬうちに行きなさい。」

俺達は店主に感謝を伝えると、油屋に急いで向かった。


俺達は買い物をなんとか店が閉まる前に終え、広場で

夕飯を食べていた。

そんな中、コーブが疑問を口にする。

「なあ、結局あの店主の言ってた、『商人はいつでも指先が黒い』、ってのはどんな意味なんだ。」

「あっ、それ私も気になります。どんな意味なんですか?」

シレルもコーブと同様にわからなかったようだ。

隣のヘルマが解説する。

「あれはな、徒歩で行商する新米は芋などの土や道中の泥で汚れて、指先が黒くなる。馬車だったりを使うある程度稼げる行商は色々な地域の貨幣を持ち、それを使い、道中の無聊を慰めるために貨幣の縁を削るから、貨幣の触り過ぎで黒くなる。商会の長だったり、大きく稼ぐ商人はインクで指先を黒くする、って意味だ。結構有名な言葉だぞ。知らなかったのか?」

「私達の住んでた修道院ではあまり外と関わりが少なく、それに修道院を出てからも聖騎士に神官という職業柄、商人とはあまり関わらない物でしたので…」

コーブは何とも言えない顔で葡萄酒を啜っており、シレルがはにかみながらヘルマに答える。

「まあ、コーブさんもシレルさんも両方とも聖職だからね。」

俺がそう言うと、少し頬を赤くしたコーブが絡んで来た。

「さっきから思ってたんだがよお。アレクよお、お前さん俺とシレルをさん付けで呼ぶよなあ。」

「ええ、まあ。」

「それよお、やめねえか。急遽決まったとは言っても俺達ゃパーティーなんだからよお。呼び捨てでいいだろ、呼び捨てで。なあ、シレル。」

「ええ、私は構いませんよ。」

「いや、ですが年上に敬意をと思い…」

コーブは俺の話に割り込む。

「敬意は大事だが、敬意を払うのにも方法は色々あるだろお。戦闘中に敬語ってのも、めんどくせえし、軍や騎士団じゃねぇんだ。敬意を示したいって言うなら行動で示してくれればいい。ほら、呼んでみろ。コーブ、シレルって。」

そこまで言われると断れなくなってくる。

「わかりました。そこまで言うなら呼びますよ。コーブ、シレル。これでいいですか?」

俺の呼び捨てに、二人は嬉しそうに答える。

「ああ、それでいい。冒険者になってまでかたっくるしいのは嫌だからな。」

「そうですね。私も教会のような固い雰囲気は嫌だと思ってますよ。」

シレルも少し酔っているのだろう、頬が赤い。

かくいう俺もまだ涼しい春の夜だと言うのに少し暑くなってきた。

「少し飲み過ぎましたかね。もうそろそろ、切り上げて宿舎に戻りましょうか。」

「そうだな。」「そうですね。」

そうして、帰ろうとするとバタンとアステルが倒れる。ヘルマが頭を抱えて言う。

「相変わらず、こいつ酒、弱いな。まだ薄い葡萄酒二杯しか飲んでないだろ。」

「まあ、わかってたことと言えばわかってたことだけどね。」

「しょうがねえ、俺が背負ってくよ。」

「頼むよ。コーブも少しふらふらだし、シレルに持たせるのは論外だからね。」

こうして、俺達のパーティーは一日を終え、次の日の冒険に備えるのだった。

誤字、脱字の発見にご協力下さると幸いです。

感想やレビュー、評価をしていただけると作者が大いに喜び、投稿ペースが上がるかもしれないです。

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