依頼は
どうもアレキサンドル スヴォーロフです。
今回の話はは今までの二倍くらいの文章量になってしまいました。二つに切ろうか悩んだのですが、切るにしてもどこで切ろうかということになりまして、あんまり良い切り方を見つけられなかったのでそのまま出しちゃいました。
誤字、脱字の発見にご協力してくださると幸いです。
PS,GW中にできるだけ書き溜めを増やしていく予定なのでうまくいけば、少しの間週二、三投稿になるかもしれません。
あいつは、冒険者として何か見逃したり、忘れてたりってことは一切ないやつだった。だけど、たまにとんでもなく運の良いやつだったぜ、とはある雑種部隊の隊長の談である。
三人とも登録を終えた後、パーティーに説明するという事でギルド内のテーブルに連れられ、待つこと数分、ディオナさんが袋を持って戻って来た。
「すみません、待たせましたね。」
「大丈夫ですよ、ディオナさん」
「そうですか、なら良かったです。」
そういうとディオナさんはテーブルの席に座り、話し始める。
「さっきもアレクさんにはしましたが、皆さん揃っているので改めて自己紹介を。私はギルド冒険者支援部のディオナ・ショクトと言います。ディオナと呼んで下さい。この度、皆様のパーティーの担当になりました。足りないことも多いと思いますが、よろしくお願いします。」
アステルとヘルマが答える。
「よろしくね、ディオナさん。私は魔法使いのアステル・ミハです。アステルって呼んで。」
「俺は狩人のヘルマ・ミハっていうんだ。よろしくな、ディオナさん」
「アステルさんにヘルマさんですね。これからよろしくお願いします。」
自己紹介が終わると、ディオナさんが話し始める。
「自己紹介も終わったので本題に入りたいと思います。」
そういうと、ディオナさんは持って来た袋からそれぞれチェーンに通された三枚の金属板を取り出す。
「これが鉄のギルド階級証になります。わかっていると思いますが、この鉄が一番下のギルド階級であり、銅、銀、金と上がって行きます。ギルド階級が上がるごとに受けられるクエストの階級が上がって行きます。」
「知ってるぜ。その階級を上げるとギルドからの支援が手厚くなったり、いい報酬のクエスト受けられるんだろ。」
「はい。高階級の冒険者にはギルド側から職人や住居などの斡旋等を初めとし様々な優待があります。そのため、ギルドとしては冒険者の皆さんには自己練磨と更なる冒険を推奨しています」
ですが、とディオナさんは続ける。
「それで冒険者が無茶していなくなったら本末転倒なのです。ギルドとしても冒険者の命と育成はどちらも大切です。そのため、合わない階級の依頼や条件を満たしていないような依頼の受注は原則禁止しております」
「もし違反した場合は?」
「冒険者資格の凍結、依頼料や前金の全没収若しくは返却、そして、違反によって重大な影響を及ぼした、若しくは及ぼす恐れの大きかった場合、ギルドの特別司法権によって死刑が執行されることもあります。ですから皆さん、気をつけて依頼は選んで下さい」
ヘルマがヒエッ、と言いながら身を引く。
「わかりました。十分に気をつけたいと思います。」
俺が答えると、ディオナさんは柔らかく微笑み、答える。
「そうしてくれるとこちらとしても、ありがたいです。」
そんなことを話していると、アステルが口を開く。
「そういえば、ディオナさん。肝心のクエストの受け方を聞いてないのだけど…」
ディオナさんは一瞬静止すると、謝りながら、慌てて答え始める。
「すみません!私としたことが、一番大事な説明を忘れていました。」
「気にしないで下さい。忘れることは誰にでもありますから。」
アステルのフォローの中、ディオナさんは赤面しながら説明を始める。
「えっと、クエストはですね、まずあちらのクエスト掲示板にクエストの報酬や条件等の載ってる受注票があるので、それを受注窓口で担当の者に渡して下さい。アレクさん達で言えば私ですね。そうしてくれれば、私の方で受け取ったクエストの内容、パーティーのメンバー等を精査して、許可を出します。また、受注票を掲示板から外して、掲示板前以外で話し合ってもいいですが、受注票を建物の外に出さないでください。一応、守秘義務的なものがありますので。」
ディオナさんの説明が終わると同時に、俺は尋ねる。
「では早速、掲示板を見に行きたいのですが…」
「アレクさん、意外にせっかちなんですね。では、私は窓口の方にいますのでクエストを選んだら、持って行って、私を呼んでください。後、もし受注票だけで決められないならこっちに持って来てください。ギルドにある情報を提供しますので。それでは。」
そういうと、ディオナさんは席を立ち、受注窓口に戻って行く。
それを見送った後、俺は言う。
「それじゃ、見に行って見ようか。」
「わかった。」「さっさと行こうぜー。」
俺達は席を立ち、掲示板に向かった。
掲示板の前には多くの冒険者がそれぞれパーティーと思われるグループで集まり、グループ内外で活発に情報交換を行いながら、依頼を選んでいる。
俺達三人はグループの隙間をすり抜けながら、板の表面がほとんど見えない程に、受注票が貼られている掲示板の前にいく。
「中々混んでんな~」
「ごめんなさい、通りま~す」
そんな中、俺は少し離れたテーブルを指差し、二人に提案する。
「取り敢えず、いくらかよさげなのを取って行ってあそこのテーブルで持ち寄って考えようか。でも、初めだからあまり期間の長い依頼は避けよう」
二人は答える。
「了解、じゃあ俺はあっち見てくるかな。」
「わかった。なら私はそっち、見てくるわ。アレク、ここら辺のをお願い。」
「オーケー、二人ともよろしくね」
そして数分後、三人がそれぞれ見つけて来た受注票をテーブル上に広げ、内容を確認していく。
集まった受注票は三枚。
ヘルマの持って来た一枚は、古戦場に発生した大量のラッグドスケルトンを退治してもらいたい、というもの。古戦場は馬車込みで二日と距離的には少し遠いが、報酬が鉄階級の中でもよい依頼である。
アステルの持って来た一枚は、都市近郊の森で薬草採集の手伝いと護衛をしてもらいたい、というもの。この森は都市から歩いて二時間で行ける場所にあるが、報酬はあまり多くはない依頼である。
俺の持って来た一枚は、小さな村の畑を荒らすゴブリンの討伐、というもの。村は馬車込みで八時間と近く、報酬もスケルトンほどではないが、まあまあ高い依頼である。
全員が全ての受注票に目を通し終えたのを確認して、俺は話し始める。
「じゃあ、この中から決めようか。俺としてはラッグドスケルトンの依頼は俺達には荷が勝ちすぎてると思うんだ。ラッグドスケルトンだとはいえ、相当の数がいるらしいからね。」
「賛成。ヘルマ、流石にこれは冒険者成り立ての私達にはつらいと思うわよ。スケルトンは個体毎に入っている魂が違うから、能力が知識上のものより大きくなることが多い、っていう話よ。」
「う~ん、やっぱり、最初からあまり数が多いのはきついか。」
「いくらミハ村で衛兵の仕事手伝ってたと言っても俺達が狩ったことあるのは森の動物とはぐれゴブリンの群れ位じゃないか。」
「オーケー、わかった。この依頼はやめよう。後で掲示板に戻して来る」
「それがいいよ。さて次は…」
俺は自分のとアステルのを比べる。
「俺としてはどっちでもいいんだよね。二人は?」
「私としては薬草かな。ヘルマはどう?」
「どっちかというなら、ゴブリンに行きてえかな。」
俺が首をひねる中、アステルが言う。
「決まらなかったら、持って来いってディオナさん言ってたし、窓口行く?」
「そうだね、持って行って見ようか。」
俺達は席を立ち、受付に向かう。
「という訳で、持って来ました。」
「持って来ていただけて嬉しいです。相談と情報は大事ですから。ふむふむ…この二つですね。では、これらの依頼に関する情報探してくるので、少し待っててください」
ディオナさんは嬉しそうにそう言い、奥に引っ込む。
しばらくすると、奥からディオナさんが出てきた
「すいません、待たせましたね。これが二つの依頼に関する情報です。」
ディオナさんはそう言うと、いくらかの紙を窓口の机に広げる。
「資料について説明させていただきます。まず、これは依頼地域の直近二週間の天候、こっちのが直近半年の討伐依頼記録、そしてこれが直近三ヶ月魔物の目撃情報行です。」
三人で資料を回しながら、目を通していく。
「薬草の方は目撃情報とかは少ないけどここ最近冒険者が立ち入って無いみたいだから、少し不安ね。」
「そうだね。この目撃情報の大半も森の浅いとこだったり、外側だったりしてるから、深いとこに何かいないとも限らないしな。」
「ゴブリンの方は丁度、一月前に中期の群れの討伐依頼が近くの地域で行われてるぜ。今回の依頼のゴブリンって、その生き残りなんじゃね。」
「その可能性が大きいですね。そうなると、どれだけ取り逃したのか知りたいですね。よろしければ、その依頼の詳しい情報も探して来ましょうか?」
「よろしくお願いします。規模の次第では、これを諦めなくてはならないかもしれませんから」
「では、探して来ます。少しお待ちください」
そういい、ディオナさんは席を立つ。
「でも、ゴブリンの討伐依頼って後ろの日がこっちの雨の日と被ってるわね。そこで取り逃したのかな?」
「まあでも、この討伐依頼受けてるの銀階級のパーティーだから、そこまで大量にってことはないんじゃね」
そんな話をしてると、ディオナさんが戻って来た。
「討伐依頼の報告書持って来ました。読み上げたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「お願いします。」
ディオナさんは咳を一つして、読み上げ始める
「んんっ。はい。では、読み上げます。
初日は朝から昼過ぎまでゴブリンの拠点の調査。この段階で数体討伐。他に小さな拠点を一つ発見、このあたりゴブリンの拠点はこれで全部発見したと思われる。こちらの調査がばれた様子はなかった。午後は深夜の襲撃の準備のため、休憩。深夜、対象のゴブリンの拠点を襲撃。数体の取り残しはあったがメスやホブ等のゴブリンは全て討伐。襲撃終了後は小休止。その後、夜が明けると同時に小拠点を襲撃。ほとんどのゴブリンを討伐したが、前日からちまちまと降っていた雨が強くなった為、こちらも数体の取り逃した。メスやホブのゴブリンは全て討伐。雨の影響で痕跡が流れていたため追跡は不可能と判断。逃げていたであろうゴブリンを二匹討伐し、村に帰還。取り残しの数はおそらく多くても十程度。
というのがこの依頼の報告書になります」
「多くても十なら問題ない。それにこの報告書通りなら拠点は全て発見し、潰したらしいから。」
「これなら何の問題もなく行けるな。楽勝だ。」
「油断は禁物だけど、これくらいなら流石に大丈夫だわ。」
二人も大丈夫なようなので、ディオナさんに受注票を渡す。
「これでお願いします。」
「わかりました。ですが、大丈夫なのですか?いくらゴブリンといっても十となると大変ではないですか?」
「大丈夫です。これでも村では三人で衛兵をやってましてね。ゴブリンの十程度ならいつもの事なのですよ」
ディオナさんは心配そうな顔をして言う。
「そうですか…ですが、こちらとしては初めての依頼で冒険者を殺すわけにもいきません。この依頼は私が持っておくので、できるなら明日までにもう一人か二人、騎士か神官あたりの人を見つけて一緒に受けてくれる人を見つけて下さい。」
「わかりました。ですが、いなかったときは?」
「その時は諦めて、三人で行ってもらいます。」
「できるだけ探してみます。」
「ありがとうございます。」
話が終わると、ディオナさんは、話は変わりますが、と続ける。
「皆さんは泊まる宿等はもう決まっているのですか?」
「そういえば、まだ決めてないわね。」
「そうだな。ディオナさん、このあたりでオススメの宿って在りますか?」
「このあたりの宿はほとんど冒険者で埋まってますよ。冒険者は家を持っても外行きの依頼が殆どなので使う機会がどうしても少なくなりますから、宿で済ます方が多いのですよ。」
「マジですか…。」
「マジです。」
宿無しの可能性が出てきて、軽く絶望しかけてる俺達にディオナさんは言う。
「そうなると思って、準備しときました。」
「「「マジですか!」」」
俺達の驚く顔を見て、ドヤ顔のディオナさんは続ける。
「ええ、準備しときました。それも男女別室鍵付きの。」
「ありがとう!大好き!ディオナさん!」
男女別室鍵付きと聞き、アステルが飛んで喜ぶ。
「で、どんな所なんですか?」
「はい。ギルドが鉄階級冒険者に貸し出している共有井戸付きのパーティー名義で借りれる宿舎の一つです。他の宿が月で借りると安くてもひとり金貨一枚なのに宿舎では、ひとり銀貨十枚三人で三十枚、金貨一枚で三ヶ月借りれます!しかも、最初の月の賃料はなし、タダになってます!」
「オオー!スゲーありがたいじゃねえか!」
ドヤ顔でない胸を張っているディオナさんは続ける。
「実は、つい先日までそこにいたパーティーが銅階級に昇格したため、追い出され…ゲフンゲフン…出ていき、今空いていたのですよ」
「では、宿はそこにしたいと思います。宿舎を使うに当たっての注意とかって在りますか?」
宿の決まった俺は尋ねる。
「ええ、幾つか。まず、大家はいないので月の賃料はここに払いに来て下さい。次に、あちらの設備は何を使っても構いませんがもし、何か壊したりしてしまった場合はギルドに言って下さい。修理の業者を送ります。勿論、その料金は報酬から天引きになります。薪と水以外は自前で用意してください。注意はこんなものですかね。宿舎に関して困った事があったらギルドに言ってください。あと、これが宿舎の鍵と宿舎までの地図です。部屋の鍵は宿舎の中にあるらしいのでそっちで見つけて下さい。」
注意事項を言い終えたディオナさんに感謝を伝える。
「何から何までありがとうございます。ディオナさん」
「いえいえ、気にしないで下さい。アレクさん。冒険者のサポートが私の仕事ですから。これくらいやらないと怒られてしまいますよ」
ディオナさんに、俺は荷物を持ち上げながら、言う。
「俺達はこれから昼食食べた後に宿舎にいこうと思うのですが、これから昼食一緒にどうですか?」
「すいません。私、今までいた登録窓口から荷物を移動させないといけないので、今回は遠慮させていただきます。」
「そうですか。では、今回の依頼が終わったらみんなで一緒に飲みにでもいきませんか?」
ディオナさんは笑って答える。
「ええ、その時は是非。」
「では、また明日。」
「またね、ディオナさん。」
「また明日よろしくな、ディオナさん。」
そうして俺達は昼飯を食べるためギルドから少し離れたとこにある酒場に向かう。
「アレクって、たまにすごい運良いわよね。十歳の時、うちの屋根の上から落ちたのに無傷だったし」
「それを言うんだったら、やっぱりあれだろ。七歳くらいの頃、冬の川に流されたと思ったら少し下ったところで寒中水泳してた魚人の人達に助けられて、川魚ご馳走してもらってたやつ」
「「まあ、全部不幸中の幸いだけどな(ね)!」」
「うるさい!いいじゃないか無事だったんだから」
そんな言い合いをしながら。
今回も拙作を読んでいただきありがとうございました。
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