戦闘で
どうもアレキサンドル スヴォーロフです。
はい、今回も遅れてしまい申し訳ないです。
戦闘描写って凄く難しいですね(涙目)
あと、作者の学校の中間試験があと二週間の所に迫ってるのでその間は投稿ができなくなります。
作者は学生なのでそこは許してもらえると嬉しいです。
初めての本格戦闘なので至らぬ点も多いと思いますが楽しんでいただけると嬉しいです。
あいつはとんでもない強敵だったよ。今考えてもそう思う。膂力の強さを生かしながらも、その中に技術の光る、どこか冒険者慣れした戦い方でね。うちの前衛の半分とヘルマはあいつからきついのもらってる。死に際?もどこか美しさを感じるものだったよ、とは友人に語る本人の談である。
森の影の中から化け物が勢いよく現れる。
出っ張り膨らんだ鼻、緑色の肌、ボロボロの着衣と武器、そしてゴブリンと比較して大柄で筋肉質の体。
その特徴は確かに聞いたことのあるホブゴブリンのものと一致した。
しかし、その体の大きさは異常の一言だった。
身長は三マイトに迫るほどに大きく、腕は筋肉によって丸太のごとき太さになっている。
その手に持つ武器はクレイモアだったと思われる大剣であり、刃こぼれがひどく、鈍器のようになっている。
コーブは化け物が現れると同時に、向かって来る化け物に左手に剣を、右手に盾を構え、突撃する。
「うおぉぉぉ!」
俺もコーブの援護の為、彼の左後ろ少し離れて走り出す。
コーブの盾と化け物の鈍器のような大剣がぶつかる。
「ガアッ!」
ホブゴブリンの剣が振り抜かれ、コーブは少し吹き飛ばされる。しかし、ホブゴブリンの突撃は止まる。
「『土塊よ、我が敵に突き刺されーーーパイル』」
そこに間髪入れずに入る矢と前腕ほどの『土杭』の魔法。
矢は右肩に、杭は胸に突き刺さるがホブゴブリンは土杭の勢いに少し揺れる程度で、全く意に介さない。
「嘘でしょ!?」
「あれは完全に入ってんだろ…」
俺は魔法を受け揺れたホブゴブリンの左脇腹を切り裂く。
傷はついた。しかし、血は流れない。
「…ッ!」
血の出ない傷を見た瞬間、二撃目を取り止め、可能な限り早くホブゴブリンから離れる。
二歩ほど離れた瞬間、目の前をホブゴブリンの太い右腕が通り過ぎていく。
周りを見渡す。
始めは戸惑っていたため少し不安だったが、クェウルは逃げてくれたようだ。
俺の反対側ではあの狼人が槍をホブゴブリンの背中に突き刺すが、全く効果が無さそうだ。
「おい、狼野郎!こいつはなんだ!」
ヘルマが狼人に向かって、叫ぶ。
「詳しくは知らない!だが、名持ち級のホブゴブリンを元にした皮膚感覚強化型のリビングデッドなのは確かだ!」
それを聞いた俺は戦慄する。リビングデッドは銅級のパーティーから依頼を受けられる魔物だが、名持ちや強化型の場合は一匹で討伐に銀級のパーティー一つが必要とされる難敵だ。
しかし、とある理由によって出現するのは稀である。
槍を抜き、離れる狼人を追撃しようとするリビングデッド。
「グオォォン!」
リビングデッドは短く叫び、鼻息を荒くして走り出す。
「『その力は万物を退ける。吹き飛ばせーーーインパクト』」
そこにアステルの『衝撃』の魔法が右横から叩きつけられる。
吹き飛びこそはしなかったものの、『衝撃』の魔法を受けたリビングデッドのバランスを崩した。
その隙に体勢を建て直したコーブが同じくリビングデッドの右側からシールドバッシュをかまし、流れるような動きでリビングデッドの背中側に抜けるようにして直剣での第二撃を決める。
「ハァッ!」
さしものリビングデッドもこれには耐えられず、シールドバッシュの時点で完全に体勢を崩し、直剣での攻撃で僅かに後退し、仰け反るような体勢になる。
「アステル!即応魔法陣を!」
「わかってる!」
アステルは腰のポーチから二枚の丸まった羊皮紙を取り出し、リビングデッドに向け、魔力を込める。
「『イグニッション』!『ブラスト』!」
アステルが唱えると同時に、リビングデッドの眼前で爆発が発生する。
爆発食らったリビングデッドは足を浮かせ、吹き飛び、四つん這いになるように着地する。
「追撃いくぞ、剣士!頭の中の核か、四肢を潰して動けなくしてやればいい!」
「わかった!」
追撃の為、俺と狼人は走り出す。
「ヘルマ!リビングデッド相手に矢は効果が薄い!お前も前にでろ!」
「オーケー!アレク!」
ヘルマはそう言うと弓と矢筒を投げ捨て、腰のマチェットを取り出し俺達に少し遅れて、走り出す。
「『天上にありし我らが神々よ。我らの体に御加護を!』」
シレルが神々の加護をパーティーメンバー全員に振り撒く。
それによって身体能力が強化される。
コーブの右を狼人が、僅かに遅れて左を俺が抜けて、リビングデッドに迫る。
「シッ!」
起き上がろうとするリビングデッドの頭めがけて槍を突き出す狼人。
リビングデッドは左腕を頭の前に出し、これを防ぐ。
槍はリビングデッドの左腕に深く突き刺さる。そこで、狼人は槍を力ずくで引き抜き、それに引っ張られるようにリビングデッドは体勢を崩す。
そこに俺が一撃入れようと右側から迫る。
この攻撃に対し、リビングデッドは右手に持つ大剣を振り、俺の剣を防ぐ。
しかし、不安定な体勢からの一撃だったためか、剣を大きく吹き飛ばされるリビングデッド。
そして、自身を守るものがなくなったリビングの正面にヘルマが迫る。
「食らえや!エセホブ野郎!」
そう叫びながら、ヘルマはリビングデッドの頭にマチェットを勢いよく振り下ろす。
頭に振り落とされる直前、リビングデッドの全身に赤い模様が現れる。
赤い模様を浮かび上がらせたリビングデッドは無理矢理体と頭を右に引き、ヘルマの一撃を右の鎖骨で受ける。
その時、ヘルマは見る。
感情をなくしているはずのリビングデッドが微かに笑みを浮かべたことに。
そして、鎖骨でマチェットを受けたリビングデッドは、右手の大剣で俺と離れようとしていたヘルマをまとめて吹き飛ばし、近くで更に追撃をかけようとしていた狼人を左手でつかみ、その恐ろしい膂力で持って投げ飛ばす。
吹き飛ばされた俺は地面に頭を打ったことで歪んだ視界で戦いを眺める。
「シレルは俺に『加護』を頼む!俺が時間を稼いでる間にあいつらを助けてやれ!アステルは俺の援護を頼む!」
コーブは動揺を呑み込むと、すぐに指示を出し、盾を構えながらリビングデッドに突撃する。
「『氷塊よ、…に分かれ、…けーーー…ス』」
耳も悪くなってきているのかだんだん声が聞こえなくなってきている。
アステルは細い氷の棒の状のものを数本、生み出し、リビングデッドに打ち込む。
リビングデッドは高速で向かって来る氷を何本か大剣で打ち落とすが、足と体にいくつか食らう。
「『…オーディンよ…受けし血の…つる。…しに…ごを!』」
シレルも何かを唱える。彼女が唱え終わると、『加護』の効果だろうか。コーブの動きが明らかに早くなる。
シレルからの強化を受けたコーブが更に動きのキレを増しているリビングデッドとぶつかる。
両者は激しく打ち合う。
立ち上がって戦闘に戻ろうとするも上手く力が入らない。それどころか腹部に熱を感じ始めるようになる。
(腹が熱い…少し切られたか…)
全身に力は入らず、視界も更に歪み、段々と光を失っていく。
(それにしても、視界の…ぼやけが酷くなっ…てきた…な…。)
そこで俺の視界は暗転する。
「早く起きてください!アレク!」
その声で俺は目を覚ます。
「シ…レル、どうし…て?」
目の前のシレルを未だ朦朧とする視界で捉え、尋ねる。
「アレク、起きましたね。怪我は治しました。出血が多かったので今は少し体が不便でしょうが、増血の魔法薬を打ちましたので直に治ります。今はコーブとアステルがどうにか対処してますがあまり長くは持ちません。視界と体が動けるようになり次第、戻ってください。何か質問は?」
意識が戻ったとわかり次第、次々と捲し立てるように状況を説明するシレル。
意識の明瞭さを取り戻しつつある俺はそんな彼女に一つ尋ねる。
「他の二人は?」
「今から助けに行きます。見たところアレクが一番重そうだったので最初に来ました。他には?」
「こう言う状況だと随分、人が変わるんだな。」
「人が助からないのは悲しいですから。…では、私はここで。」
彼女はそう言うと早々に立ち上がり、他の二人の所に向かう。
大分力の入るようになった体を起こし、立ち上がると、一つ呟く。
「あの二人が言っていたのはこう言う事だったか。」
アステルは魔法を撃っていた。
ただひたすら撃っていた。
いくらコーブが強化され、身体能力が向上しているとしても一人ではあの化け物相手ではその場を凌ぐのが精一杯であり、そんな中で致命的な一撃を食らわされて、隙のできた間に三人の方にいかれると、どうしようもなくなる。
そこでコーブを援護し、相手の余裕を奪うのがアステルの今の役目である。
しかし、効果はあまり芳しくはなかった。
(なんであんだけぶちこんでるのに死なないのよ!しかも、やたらコーブと接近して戦っているから『衝撃』系の魔法は使えないし…)
「『土塊よ、我が敵に突き刺されーーーパイル!』」
『土杭』の魔法は肩の肉を抉るが相変わらず多少の衝撃が伝わる程度で殆ど効果がない。
リビングデッドは大剣を両手持ちに切り替え、コーブの肩に向かって左上から振り下ろす。
(魔力はもう殆どないし…魔法陣を構成する時間もない…次のも『土杭』でいこう)
そして、アステルは再び同じ魔法陣から『土杭』を放つ。リビングデッドの大剣を狙って。
『土杭』の魔法は確かに大剣に直撃する。
しかし、万全の態勢のリビングデッドが両手持ちする大剣は微塵も揺らがず、コーブに振り落ろされる。
(ダメッ、威力殺せてない!)
コーブは右手の盾でこれを防ぐが、その威力ゆえに盾を弾かれ、いくらか仰け反ってしまう。
「クッ!」
苦い顔で呻くコーブ。
リビングデッドは更に大振りの一撃を振りかぶり構える。
「待って!」
制止の声をリビングデッドが聞く筈もなく、その大剣は容赦なく振り下ろされる。
俺は後ろを向くリビングデッドの背中に向かって走り、逆手に持っている剣を頭部に叩き込むためジャンプし、振りかぶり、叫ぶ。
「死ねぇ!このデカブツがぁ!」
俺はコーブに剣を振り下ろそうとするリビングデッドの左脇の上を後ろから直剣で突き刺す。
後ろからの突然の攻撃にリビングデッドの攻撃が中断される。リビングデッドの左脇の上に大きな裂傷をつける。
刺してすぐに、俺は剣を手放し、リビングデッドの背中を蹴るようにして後ろに跳ぶ。
その隙にコーブは少し後退し体勢を整える。
リビングデッドは背後の俺に向かって大剣を掬い上げるように振り抜く。
しかし、早々に飛び退いていた俺には当たらず、俺と入れ替わるように右側から高速で迫っていた狼人の鼻先を掠めるように過ぎていく。
「あとは任せろ。」
入れ替わる瞬間、狼人はそう言う。
そして、完全にリビングデッドの剣筋を見切り、回避した狼人はその体を昇るようにリビングデッドの真上に高く跳び、その直上から槍を投げ下ろす。
「いい加減…死ねぇ!」
リビングデッドは大剣でそれを防ごうとするも、腕も剣も動かない。
その腕と剣にはには太い蔦が何本も巻き付き、動かなくなっていた。
力ずくで引き上げるように腕と剣を抜こうとするも鎖骨が折れ、腕が千切れる。
真上を見上げたリビングデッドは口角を限界まで吊り上げたような笑みを浮かべ、狼人の槍にその笑みを穿たれるようにして、その活動を終えた。
槍で穿たれたリビングデッドは直立の体勢のまま、その活動を終えた。
その姿に華やかさは微塵も無いけれど、リビングデッドの意志を感じさせる堂々たる姿であり、英雄の偉業を讃える碑の如く、どこか確たるものを感じさせる姿であった。
誤字、脱字の発見にご協力いただけると幸いです。
感想、評価、レビューなどをしていただけると作者のやる気が上がって、投稿ペースが早まるか、中間試験へのやる気が上がります。
6/17 すみません、テストの再試が決定したので今週も投稿できません。24日には次話を上げます。