襲撃は
どうもアレキサンドル スヴォーロフです。
今回はしっかり投稿できました(反省)
今回からこの物語は本格的に動き出します。
今回も拙作を楽しんでいただけると嬉しいです。
あいつはあの時の俺達にとっては旅を導く星のようなやつだった。あの星の輝きが失われていなければ、戦争はよりましな形で終われただろう、とはとある狼人の談である。
初日の戦闘を終え、空が赤く染まる夕暮れ時。
俺たちは森の浅域に抜けて、焚き火をつけていた。
カチッカチッ、カチッ。
三度目の火打ちで乾いた藁に火種が潜り、息を吹き掛けると藁から火が沸き上がる。
それを焚き火の組み木に被さる細い枝々の中に忍び込ませ、息を組み木に吹き込むと、弱々しくも確かな火が起こる。
その火を見ながら、テント二つの設営を終わらせた、他の五人を呼び、俺は話し出す。
「それじゃあ、焚き火もついたことだし今日の反省をして、明日の作戦もさっさと決めようか。」
俺は一つ間を置き、五人の顔を確認して話し出す。
「まず、俺の反省から。俺としては今日の作戦は概ね成功だったと思う。だけど、二回目の戦闘の時、コーブを道の正面、敵の正面に配置したのは反省点かな。もし、あそこでゴブリン達が後衛組の方にまとめて突撃してたら、かなり不味かった。そこは申し訳ない。」
「そうだな。あれならゴブリンの真横から入る射線に対して、ゴブリンの斜め前方から俺達が入るようにしていれば、横にスライドするだけで後衛組のカバーに入れる場所取りになったと思う。まあ、俺もあの時は気付いてなかったけどな。」
「なるほどな。次は十字攻撃だけじゃなくてカバーのしやすさもよく考えてみるよ。次は誰だ?」
俺は攻撃的な配置だけでなく守備的な配置の重要性を再確認する。
次を促す。
「なら、次は俺が行こう。」
コーブが手を挙げる。
「俺の反省としては少し突撃し過ぎた。一回目の感覚が抜けてなかったのもあって二回目の戦闘で少し突出し過ぎた。アレクが側面をカバーしてくれたけど、あそこまで突出しなけれは、側面取られることもなかった。いくらゴブリンとはいえ、三体同時に相手のするのは辛いからな。後は、アレクの作戦の穴に気付けなかった。」
「まあ、あれは俺ら後衛組からしても少し驚いた。ゴブリンの一匹がお前の後ろに回り込んだときには狙いを変えなきゃならなかったからな。でもまあ、一匹ぶっ飛ばしてくれたのは助かった。あれで随分お前ら周辺の敵の配置が整理されたからな、打ちやすくなった。」
「そうだよな、いくら多く引き付けるって言ってもあんまり密集してると射ちにくいよな。騎士団だとあまりそう言うのは意識してなかったからな。スペースをしっかりとった方がいいか…わかった、今度からはその辺りも意識して戦おう。」
コーブは戦闘時のスペースの重要性について反省する。
「次は?」
「じゃあ、私行くよ。」
アステルが続いて、手を挙げる。
「私は…」
こうして各々が戦闘での反省点を確認し、より良い立ち回りを把握していく、という形で反省会は続いていった。
「反省会の次は、明日の作戦の決定だ。」
最後のシレルの反省が終わったところで俺は切り出す。
「まず、俺から作戦を説明しよう。今回の作戦を簡単に説明するなら、三つの家にそれぞれ三つの爆発魔法を叩き込む。それだけだ。」
「随分派手にやるんですね。もう少し静かに行くのかと思ってました。」
シレルが意外そうに言う。
「まあ、最終的に派手にはなるけど、途中までは今までと変わらない隠密重視の作戦だよ。」
「で、何をやるんだ。」
コーブが尋ねてくる。
「まずは、ヘルマの偵察で敵の不寝番を見つけ、クェウルとヘルマで始末してもらう。
次に、村をアステルの魔法の射程距離内に納めて、爆発させる。アステルには、三つ同時発動の爆発魔法をあっちに到着したら準備してもらう。
最後に、ゴブリンどもの死亡確認をして終わりだ。
何か質問は?」
「アステルの準備中の俺達の役目は護衛だよな?」
説明の終わった俺にコーブが尋ねる。
「ああ、勿論。護衛する時間はアステル次第だけどな。そういえば聞いてなかったが、シレルは障壁魔法は使えるの?」
シレルが答える。
「ええ、使えますよ。アステルの護衛で範囲障壁、使った方がいいですか?」
「いや、使わなくていい。だけど、すぐ使えるように準備はしておいてくれ。明日の作戦は今日の森のような障害物の多い場所じゃあなくて、ある程度開けた場所での戦闘になるからね。」
「わかりました。アステル、魔法が決まるまでしっかり守りますから安心してください。」
シレルの宣言にアステルは笑って答える。
「そんなに時間は掛けないつもりよ。到着してから魔法構成だったら、森からでての護衛の時間はそこまで多くならないわ。でも、魔方陣を整った環境で描くわけではないから、どうしても少し時間はかかる。だから、その間は皆、よろしく。」
他の五人を見渡すアステル。
「じゃあ次、俺からいいか?」
ヘルマが手を挙げ、尋ねてくる。
「なんだ、ヘルマ?」
「俺とクェウルが不寝番を倒すのはわかった。それは弓がいいか?それとも近づいて首を切る方がいいか?」
「ばれなければどちらでも構わない。」
「了解。」
二人は答える。
「他に質問は?…ないようだな。それじゃあ、明日は早いからな。さっさと寝よう。不寝番はアステルと俺、コーブとシレル、ヘルマとクェウルの順で頼む。」
こうして俺達の夜は更けていった。
「到着だ。」
未だ夜の闇深い中、深夜に起きた俺達はヘルマとクェウルの案内で暗い森を通り、ゴブリン達の拠点の近くに到着した。
到着した頃には東の空には薄明が差し、世界が朝を迎えようとしていた。
「これより作戦を始める。ヘルマ、クェウル頼んだ。」
俺は明るくなり始めている東の空を一瞥すると、不寝番のゴブリンに見つからないように小さな声で五人に作戦の開始を宣言し、ヘルマとクェウルに行動を促す。
「それじゃ、行ってくる。」
「じゃーねー。」
二人は未だ闇の深い森の中を溶けるように進んでいく。
「それじゃあ、私も始めようかな。『我らが月女神アルテミスに願い奉る。魔導の徒たる我の枷を外したまえ。我が身に宿せし『円環』の力を興したまえ。』」
そう言うと、アステルは体内で魔力を循環させ、魔術を作り上げていく。
「おまたせっ。終わったよ。」
暫くするとヘルマとクェウルが帰って来た。
「不寝番は全員、殺った。安心して出て来ていいぜ。」
「よくやった、ヘルマ、クェウル。全員、出発だ。」
そうして俺達は静かにゴブリンの拠点へ向かって行った。
「ここでいいわ。全部入った。」
アステルが立ち止まり、全ての拠点を射程に捉えたことを伝える。
俺達は洞穴拠点のある窪地の縁の部分で立ち止まり、前方にある三つの拠点を見つめる。
立ち止まった俺達のあいだにはパーティー結成以来最大の緊張感が広がっている。
しかし、俺達のあいだに緊張感はあったがそれによって焦りや不安が起こることはなかった。
むしろ、俺達は組んで三日のパーティーだと言うのに安心感を感じていた。
それはある種の信頼のようなものだったのだろうと思う。
「準備完了よ。」
アステルが準備を終えた。俺は言う。
「これは俺達の始まりの号砲であり、俺達の冒険の最初の一ページを締めくくるものだ。盛大にいこう。アステル、詠唱を始めてくれ。」
「わかった。『我らが月女神アルテミスに願い奉る。魔導の徒たる我の枷を外したまへ。我が身に宿せし『細緻』、『円環』の力を興したまヘ。』」
アステルの体を中心として魔力で編まれた大きな魔方陣が現れ、続いてアステルの頭上に三つの小型の魔方陣が現れる。
「『我が炎よ、破り、砕き、破壊せよ。原初の爆炎はここに再現される。三方に分かれ、敵を砕かんーーーイクスプロージョン』」
彼女が詠唱を始めると彼女の周りの魔方陣と頭上の魔方陣が光を放ち回り始める。
頭上の魔方陣は内側に炎の玉を生み出し、その熱は周りに、風を巻き起こす。
そして、詠唱の終了と同時に三つの炎の玉は高速で拠点に飛んでいき、その壁に触れるとその形状を歪める。
形が歪んだ次の瞬間、そこにあった建物は近い物から次々に爆発によって吹き飛び、周辺は熱を纏った爆風と腹に響く爆音に巻き込まれる。
建物のあった場所には暫く煙が立ち込めていたが、煙が晴れて来ると三つの建物は全てのその原形を無くしていた。
中にいたであろうゴブリンも殆どが跡形もなく消し飛んでおり、かろうじて残っていた死体もただの炭になっていた。
「よくやった、アステル。流石だな。」
「ありがとう、アレク。でもかなり疲れた…」
「後は死体を確認するだけだ。少し休んでろ。」
爆発魔法で建物諸とも吹き飛ばした魔法使いはそう言って近くの岩に座り込む。
「これじゃあ、死体の確認は必要ないかもな。」
コーブが口を開く。
「まあ必要ないかもしれないが、一応やっておこうか。」
確認の結果は当然、全滅。
「全滅確認。取り敢えず作戦は成こ…」
ゴアアアァァァ!!!
突然の咆哮は全滅を確認し、作戦の終了を確信し、初依頼を達成して喜びに浸ろうとしていた俺達を否応なしに現実に引き戻す。
「なに今の…」
「わからない…だけど、ここから早く離れた方が良さそうな感じだな。」
クェウルの呟きは間違いなく全員の総意だった。
俺達はこの場からの離脱を試みる。
キィン!ガキィン!ドゴォ!バキッ、バキバキ!グオォォォン!
しかし、試みむなしく、離脱しようとした方の森の中から剣戟の音は聞こえ、こちらに近づき、その森の奥からは何かを叩き込む音、木の倒れる音、先ほどのものに似た叫びも聞こえて来る。
「クェウル!ヘルマ!」
「森の中を多分一人と一体が戦いながら、こっちに来てる。一人の方はわからないけど、さっき叫んでいた奴は木を薙ぎ倒しながら進んでる。」
「随分でけぇのが向かって来てるぜ!特徴はホブゴブリンっぽいけど噂で聞くよりもかなりでけぇ!」
クェウルとヘルマの報告に俺は歯噛みする。
「全員、戦闘体勢!姿が見えないとどうにもならない!コーブ、このままデカいのが突き進んで来るようならひと当たりしろ!クェウルを逃がす!」
俺はコーブをひと当てし、そのままクェウル以外の五人で遅滞戦闘を行うことを決める。
「了解だ、アレク!クェウル、俺が奴とぶつかったら直ぐに走れ!退路は俺達が押さえる!」
コーブは鬼気迫る表情で叫ぶ。
「えっ…でも…」
戸惑うクェウルを一瞥し、剣戟の音の近づく森を見て、俺は後ろの仲間に向かって叫ぶ。
「ヘルマとアステルはコーブが当たったら一発かませ!シレルは回復と障壁を準備しとけ!」
「オーケー、アレク。任せとけ。」
「わかった!」
「わかりました!皆さん、くれぐれも慎重に!」
更に近づく剣戟の音。俺は未だ暗い森の中にその大きな影を見つける。その時、森の奥から声が響く。
「何をしている!ここから早く逃げ…グゥッ」
警告の声が途中で途切れると同時に、森の奥から広場に何かが飛んでくる。
それは、狼人だった。
その狼人はそのまま地面に投げ出されるが、直ぐに立ち上がり、森の中の影に得物であるだろう槍を構える。
槍を構える狼人は俺達を見て、言う。
「お前ら冒険者か、なら、手を貸せ。あいつを森の外に出してはいけない…来るぞ!」
狼人は森に向き直り、叫ぶ。
「『我らが戦神トールに願い奉る。守り手である我のの枷を外したまへ。我が身に宿せし「頑強」の力を興したまへ!』」
地を震わし、迫り来る化け物とギフトを発動させたコーブがぶつかる。
最初の窮地が始まった。
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