佐藤ジャック(7)
これからどうするべきか。
この狭間の世界において、それはたった1つしかない。
最奥を目指して歩く。それだけだ。
だが……俺はこの佐藤ジャックという日本人の青年に、少しだけ肩入れしたいと思った。
本当に少しだけ。
「手を出してください」
「手? はい」
疑う事を知らないのか、この青年は。
俺は若干呆れながら、佐藤ジャックの手を取った。
「?」
俺の手から佐藤ジャックの手を通して、そのタマシイに情報が追加される。
目の前のデータに新たな一文が追加された。
『境界管理部 職員37458号より進言
この者のタマシイ、幸運度の基礎値に加点の余地あり』
「良いですよ」
「え? なに? 握手したかっただけ?」
目をぱちくりさせながら発する気の抜けた声に、俺は思わず笑ってしまった。
俺たちには本来、感情はいらない。
だが、こうして様々なタマシイと対話していく過程で、自我と感情が形成されていくのだ。
実はこれ、俺たち境界管理部の職員に課せられた目標の1つでもある。
「なに笑ってるのさ。変なの」
「そうですね。変かもしれませんが……面白かったので仕方ないですね」
「なんだよそれ。まぁいいけどさ。で、どうすればいいの?」
俺は自分の後ろを振り返り、指差した。
「この方向へ進んでください。それだけが今のあなたがやるべき事です」
「へ? それだけ???」
「はい。それだけです。それだけですが……この先にある『門』に辿り着くまでに、様々な過去が思い出されるでしょう。
あなたはそれらを追体験し、己の中で整理していくのです。
それらが終わった頃に、門は自然と現れるでしょう」
「なるほど……なんか、ちょっと不思議な世界っぽいな!」
それだけで満足できるわけでもないだろうに、佐藤ジャックはさも楽しげにそう言ってみせたのだ。
なかなかやるじゃないか。俺はそう思いながら、大きく頷いて返す。
「では、佐藤ジャックさん。良き旅を」
そうして佐藤ジャックと言う青年は、狭間の世界の最奥を目指して歩き始めたのだった。