佐藤ジャック(6)
「異世界に転生したりするのが無理な理由は分かりましたか?」
「管理者が違う……」
「そうですね。世界にはそれぞれ管理者が居ます。管理者と言うよりは管理団体ではあるわけですが、そこはまぁいいでしょう。
異なる管理者の元でタマシイは運営されます。タマシイは限りあるリソースです。とても貴重なのです。
ですので、基本的に他の世界に渡す事などあってはならないのです。
とは言え、管理者が異なる別の世界に、この世界のタマシイが迷い込む事は確かに有ります。が、それはイレギュラーであって本当にごくごく稀な話です。
そもそも、そういった迷えるタマシイは早期回収対象として指名手配される事になります。
異世界転生や転移を意図的に実行出来る者が居るとして、それを実行に移したとしたなら……
そのタマシイは半永久的に転生の循環から隔離されます。
それくらい『異世界転生』は大変な事件なんです」
佐藤ジャックもそこまでのことだとは思っていなかったのだろう。表情を見れば分かる。
普通はそうだよな。現世地球の人間にとっては、この世界の事だって充分にファンタジーだろうし。
「それでも行きたいですか?」
「行きたくない……と言うと嘘になるかな……」
「気が狂うほどの長い時間を一人で過ごすことになっても?」
「う……」
言い澱む気持ちはわかるぞ。
「なんだよ……結局俺の人生なんて、ただ単につまらない人生だっただけじゃん……」
佐藤ジャックのため息が重い!
いやまぁ……おそらくその名前は日本人としてはかなり珍しいはずだし、色々と面倒な事はあったのだろうとは思う。
詳細まではわからないが、データに記載があるだけでも同情する部分はあるわけで。
でもなぁ。異世界転生はなぁ……。
「この名前、散々馬鹿にされたけど、嫌いじゃないんだよ。嘘じゃないぞ?」
それはデータにも記載がある。だからこそ、馬鹿にされたら腹が立ったのだろう。
「名前馬鹿にされたら……なんか両親までバカにされてる気がしたんだ。だから、喧嘩もしょっちゅうしたよ……」
喧嘩の多い学生時代だったと記載があるな。
「でも結局……見返す前に死んじゃったんじゃなぁ……」
「異世界に転生しても見返すなんて出来ないだろうが」
「ははっ……ほんとだ」
しまった。思わず口に出てた……。
「なぁ。俺、どうすれば良いんだ?」
俺に向けられた佐藤ジャックの表情は、後悔半分、諦め半分、と言った感じだった。
「では、これからの事を少し相談しましょうか」