佐藤ジャック(4)
今回少し長めです。少しね。
「気持ちは分かります。突然死んだ事を受け入れるのは、どんな人物であれ難しいものです。今までにお見送りしてきた方々も、多かれ少なかれ受け入れるまで時間はかかりましたから」
俺はそう言ってニコリと微笑んで見せた。
……あまり効果はなさそうだ。
「やっぱり……もう死んじまったんだよな……」
佐藤ジャック。間違いなく俺が担当する相手だ。
目の前に表示されるデータ表を見ると、どうやらまだ29歳らしい。
データ表がどの様に表示されているかと言うと、手が届く範囲の空間に、半透明の画面が出ている感じだ。
人間たちが最近似た様なことができる様になったはず……
AR? VRだったか? いかん、よく思い出せない。
これは後で復習が必要だな。
で、だ。
その表には、俺が担当する相手の見た目と名前、そして死んだ時点までの生存時間が表示されており、その下に
『対象が本人である事を確認出来ました。
第二フェイズへ移行してください』
と新しく文字が表示された。
文字の下に『○』とだけ書かれたボタンがあり、俺はそれに指で触れる。
表の中に、佐藤ジャックの新たな情報がズラリと表示された。
やはり彼は東洋人だった。
それも、日本人だ。最も異世界転生について口にする者が多い国の出身……と言うことになる。
なるほど。やはりあの国には何かあるな……。
それはともかく、さっさとやるべき事をこなしてしまおう。
これらのデータは俺がスムーズに役割をこなせる様に一時的に与えられるもので、役割が終わればすぐ破棄される。
俺の中に詳細は記憶されず、担当した対象として表面上のデータだけがわずかに記憶に留まることとなる。
俺に与えられた役割。
それは、ここに訪れた者に死を受け入れさせ、自らの意思で狭間の世界であるこの場所の最奥まで向かわせること。
なかなかハードな役割なのだ。
「なぁ……どうしても転生できないのかな?」
まだ言ってた。
「いや、転生は出来ます」
「え?! マジで!?」
「はい。ただし、異世界転生は出来ません」
「え? ドユコト?」
「あなたが死を受け入れ、新たに転生する事を承諾し、尚且つ『タマシイ管理局』に許可された時、初めて転生が叶います。
そして転生する舞台は、来られた元の場所である確率が高いです」
「てことは……また日本に……?」
「いえ、現世地球である事は高確率ですが、日本であるかは微妙なところです」
「て事は、次はアボリジニかもしれないのか……」
なぜアボリジニなのか。
「人間であるとは限りませんよ?」
「なん……だと……?」
「例えば、植物になる可能性だってあります。
植物だった場合、次はかなり長い時間を現世地球で過ごすことになりますね。
植物は基本的に死ぬ事がありません。自身の一部が分割されて何かしらの状態でその場に残る事が多いですからね。
分かりやすく言うと、木は切り倒されても根が残ります。
それさえ生きていればまだ死んだとは言いません。
その辺は、人間なんかよりもより複雑だったりしますね」
佐藤ジャックは俺の話を聞いていた。
だが、理解はしていない様だった。
「今は理解出来なくとも問題ありません。
決めるのはあくまでもタマシイ管理局です。
今すべき事は、佐藤ジャック。あなたが自身の死を受け入れる事です」
「死を受け入れる……って言われても、異世界転生出来ないんじゃ死ぬ意味が無いからなぁ……」
死ぬ意味とは。
「死は突然訪れるものです。確かに自らの意思で死を選ぶこともできますが、その場合は別ルートへ行くことになってしまいますし、転生自体が一定期間許可されなくなってしまいます」
「別ルート?」
「はい。残念ながら、詳しくはお伝えできかねますが」
「そうなんだ……てか、なんで異世界に転生出来ないのかな?
その理由が分からないと、何も納得できそうに無いんだけど」
そう来たか。
さて……どうしたものか。