表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19



 その日はうっかりして、教科書を忘れてしまった。



 いつもならどうにかごまかすのだが、この日はあいにく教師に見つかり、隣の人に見せてもらうように言われる。




 隣といえば、もちろん彼女。




「いいよ」




「……ありがとう」




 机をくっつけ、彼女ともっと近い距離に。




 会話をしたのは久々だった。ずっと、避けていたから。




 気まずい空気が互いに流れる。当然か。




 自分はそれだけの事をしたってことだ。




 逃げるように窓の外を見ていると、不意に服を小さく引っ張られる。





「ごめんね……。似てるとか言って。嫌だったよね……私なんかと」





 うつむきながら暗い顔の彼女。




 胸に鋭い棘が刺さった気がした。




「これで最後にする。もう、話かけないよ。……本当に、ごめん」




 今にも泣きそうな彼女の顔を見て、ようやく己のやったことを激しく後悔した。




 なんで、彼女が謝っている。悪いのは全部、自分なのに。




 彼女は孤立していても、関係なしに話しかけてくれた。




 もっと笑った方が良いと励ましてくれた。




 こんなにも優しいのに、それを拒否したのは、自分だ。




 ならば取り返そう。これからの時間を、大切に過ごす為に。




 彼女の優しさを無駄にしないように。




「……違う。悪いのは自分だ。優しい君に酷いことを言った。本当に、ごめん」




 一度、深く刺さった棘は抜くのに時間がかかる。




 ゆっくり、ゆっくりと、抜いていくしかない。




 もう、後悔しないために。





「……こんなこと今更なんだけど、もしあの時の言葉を取り消せるのなら、俺と」





 言葉を噛みしめる。彼女の瞳を見つめて、心からの本心を曝け出した。





「──友達になってくれ」





 あぁ、そうか。自分は彼女に救われたんだ。





 崩れていた天気はようやく回復の兆しを迎える。




 長かった梅雨は開け、空は元の青空へと戻っていく。




 雨が降ろうと、いつかは晴れる。





「喜んで」





 その笑顔は、今日の青い空によく似合う、眩い輝きを放っていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ