③
「今日、一緒にご飯食べない?」
手に持った弁当を抱えながら、彼女は問う。
「いいよ。別にいらないし」
本当は断る口実を適当に作っただけだ。
ぶっきらぼうに断ると、彼女は膨れたように言葉を紡いだ。
「でも、ご飯食べないと大きくならないよ?」
彼女は時々、うちの母親のようなことを言う。
その様子が、どこか面白おかしかった。
「あれ、今笑った?」
口元が緩んだせいか、それを彼女に見抜かれてしまった。
急いで、平常心に戻る。
「……笑ってない」
「ウソ? 絶対、笑ったよ」
楽しげな彼女の声に、一瞬、心は揺れかけた。
が、それもすぐに振り払う。
「……笑ってないって」
睨みつけると、何故かまた笑われてしまった。
「でも、暗い顔より笑った方がいいよ。 楽しくなるから 」
言われてみれば、彼女はいつも笑っている。
人を明るくさせる魅力が、彼女にはあるのだろう。
まさしく、あの大空に浮かぶ太陽のように。
しかし、自分は彼女みたいには笑えない。
心の底から笑うことが出来なくなっている。
きっと、それは逃れることができないのだろう。
ふと、周りの視線が気になって、急いで教室を出た。
彼女が声をあげる前に、廊下に逃げ出す。
外は明るいブルーの輝きを放つ真昼の世界。
あんなに空は綺麗なのに、心はどこか淀んでいた。