勇者(笑)、異世界に行く
私の名前は一条花恋、高校二年生。
不遜な身ですが、生徒会長をやらせていただいてます。
多くの方々との交流はとても楽しく、私の日々の生活はとても充実しております。
えっ、部活ですか?
残念ながら、私は部活もバイトもやっておりません。
帰宅の時間になれば、まっすぐ家に帰ります。
家に帰ると、母が食事の用意をしておりますので、お手伝いをします。
食事の時間になると父が帰宅し、家族3人で食事をとります。
今日の出来事を話して、とても楽しい食卓です。
食事が終われば、お風呂の時間。
私はお風呂が大好きで、ついつい長風呂になってしまい、母に叱られてしまいます。
そして、お風呂から出た後の一杯の牛乳は大変な美味です。
飲み終われば、両親にお休みを告げ、自室に入ります。
こうして、花恋の一日が終わります。
「…………ふ、ふふ」
素早く机の前に移動し、俺は慣れた手つきでPCを立ち上げ、目的のページへと潜り込んでいく。
そして、そこへたどり着くと、俺はログインした。
「ここからは勇者タイムだ!」
すぐに宿屋から出て、荒野へと移動する。
すると、二足歩行のワニのような怪物が現れる。
「ふふふ、最初の獲物はお前かぁぁああ!」
素早いタイピングでコマンドを入力し、手に持った炎剣から技を繰り出す。
「炎剣・十段・連絶華!!」
一瞬でいくつもの剣線がきらめく。そして――
ドサドサドサ
細切れとなった怪物の体が地面に落ちた。
「ふっ、つまらぬものを斬ってしまったぜ」
剣を片手に余韻に浸る勇者(笑)。
そこに哀れな生贄が姿を現す。
「次はお前か」
こうして、勇者(笑)は次々と敵を倒していく。
一条花恋、高校二年生、生徒会長。
成績優秀、才色兼備で誰からも慕われる彼女は仮の姿。
その実態はMMORPGの勇者(笑)であった。
「あっ、勇華さん、ちぃーっす」
「お疲れ、マルポロ君。お目当ての装備はどうだったかな?」
勇者(笑)こと勇華があらかたモンスターを狩りつくしたころ、ボロマントを羽織り顔にいくつもの勲章を付けたダンディー(笑)な男が近づいてきた。
勇華に問われ、マルポロはニヤリと口元を歪ませ、背から一本の槍を引き抜く。
その槍はボロマントとは違い豪華で繊細な紋様を刻まれていた。
「おかげさまで、この通りっす」
「ふ、良かったな」
そんな厨二チックな会話で勇華はテンションマックスだ。
マルポロのうれしそうなエモーションを見ながら、花恋はにやにやしている。それはもう、学校のみんなには見せられないよといった具合だ。
花恋がこのゲームをやり出したのは中一の時だ。当時、片思いとも言えぬ淡い感情を寄せていたサッカー部の男子が、このゲームをやっていたため、話題作りのために花恋も始めたのだ。
そして、ハマった。ハマりすぎた。やり出したのが夏休みの初めだったのは幸いだっただろう。
朝起きて、ご飯を食べて、ゲームをやって、お昼を食べて、ゲームをやって、夕飯を食べて、お風呂に入って、ゲームをやった。両親が家を空けたときは、寝食そっちのけでやり続けた。
けれど、物事には当然終わりがやってくる。そう、夏休みも終わりが来るのだ。
夏休み終了一週間前、夏休みの宿題には手を付けていない。
花恋は焦った。中学校に入ってから、宿題をやっていないなどということはなかった。優等生とまではいかないが、きちんと宿題をこなし、予習復習はしてきた。そのかいあって、テストでも順位を落とすことはなかった。
しかし、中学生の夏休みは長い。今まで勉強してきたことがぶっ飛ぶくらいには長い。
そして、花恋は両親に打ち明けた。それを聞いた両親は、初め口を開けて呆然としていた。
だが、すぐに父親はそこから立ち直り、眉間にしわを寄せ、何かを考え始めた。
花恋は怒られると思って、内心のひやひやが止まらない。
数分後、父親は口を開くと、こう言った。
「花恋は今まで、勉強をちゃんとやってきていたね。わがままも言わずに、父さんにとってとてもいい子だった。それに、人はみんな過ちを犯すものだ。だから、今回だけは手伝ってあげよう。けれど、今回だけだ。もし、次に同じことをしたら、父さんは絶対に手伝わない。だからと言って、花恋が好きなゲームを取り上げるようなことはしないよ。だから、どうしたらいいか、ちゃんと考えなさい。ゲームだけでなく、勉強もきちんとできるようにするにはどうしたらいいのか、計画を立てなさい」
父親はそれなりにできた人だったのだろう。普通の親なら、お叱り一つでゲーム取り上げコースにまっしぐらだ。
花恋は父親の言葉をよくかみしめた。かみしめながら、父と一緒に夏休みの宿題を何とか終わらせることに成功する。
そして、二学期初日、花恋は淡い想いを散らすこととなる。
花恋がゲームを始めたのは、気になる相手と話すためだった。
それは、半分成功し、半分失敗した。
なぜか?あれだけゲーム三昧の日々を過ごした花恋が、ゲームの中身を忘れるようなことはあり得ない。むしろ逆だ。あまりにも詳しくなりすぎてしまったのだ。
考えてみよう。相手の子はサッカー部に属している。花恋のようにゲームだけをして過ごすようなことはありえない。花恋はとっくのむかしにその子を追い抜いていた。
花恋はその男の子との会話では満足できなかった。
ゲーム>男の子
男子からするとなんとも悲しい本末転倒だことで。
それはさておき、花恋は父の言葉通り、ちゃんと考えた。勉強はちゃんとする。ゲームもやる。そのメリハリを覚え、さらには、短い時間で計画的に進める方法を覚えていった。
そして、高校生になるころには、いつの間にか、完璧な優等生と化していた。
そこそこ高いレベルの学校で新入生代表として答辞をしたり、生徒会に入ったりと、それはもう完璧に優等生である。
昼は優等生、夜は勇者(笑)。これが私、一条花恋だ。
この物語はそんな勇者(笑)な俺が、まさかのまさか、本当に異世界に行ってしまうというお話である。
※この物語はフィクションです。登場人物は実在する人物とは一切関係ありません。なお、こんなことは現実にありませんので、現実と物語の区別がつく方のみお読みください。以上、一条花恋よりお知らせ致します。
お読みいただきありがとうございました。
なお、この物語は一切続きません。