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クローニング召喚された聖なる戦乙女に巻き込まれてクローニング召喚されてしまった私

作者: 安井上雄


「よくぞ参られた、聖なる戦乙女よ。

 してどちらが聖なる戦乙女かな?」


 突然切り替わった景色にあっけにとられている私に、真っ赤なマントを羽織った偉そうな老人が、一段高くなった豪華な椅子に座って話しかけている。

 私の隣には女子高生と思われる少女が、私と同じように立ちすくんでいる。


「あの……、ここは一体どこでしょう?」

 私は年長者として偉そうな人に説明を求める。


「おお、そうであった。

 召喚されたそなた達は当然事情がわからぬであろう。

 ゴダ大臣よ、説明してあげなさい」

 偉そうなおじいさんの言葉に進み出たのは、私たちの右側に待機していた貴族風の服装を纏った男の人のうちの一人だ。

 すらりとした高身長で、黒髪黒眼の中年だ。


「はっ、王のおおせのままに」

 一歩前に出たゴダ大臣の言葉から、おじいさんが王様だとわかる。


「まず、この国はアルバーナ王国といいます。

 あなた様方はどちらかが、破壊神によって滅ばされかけているこの世界の最後の切り札として、創造神の力を借り召喚された聖なる戦乙女なのです」

 なんと、漫画やアニメでおなじみ、異世界召喚だった。


「あの、どちらかと言いますと……」

 私は恐る恐る聞く。


「はい、聖なる戦乙女様の召喚に巻きこまれた方がもう一方と言うことになります。

 しかし、ご安心ください。

 創造神様の加護によって必ず素晴らしい能力が付与されていますので、破壊神と戦うにしても、戦わずにこの世界で暮らすにしても困ることはないでしょう」


「私たち、帰れないんですか」

 隣の女子高生がポツリと言う。


「いえ、破壊神を倒せば創造神様の加護で何でも一つ望みが叶うと言われています。

 その望みで帰ることができますが、お勧めしません」


「お勧めしないのはどうしてですか」

 私は素直に聞く。


「それには二つの理由があります。

 あなた方はこの世界で恐ろしく強くなるでしょう。

 破壊神を討伐できると言うことは魔法も武術もこの世界最強です。

 そんな力を持って、元の世界に帰ればあなた方自身がどうなるか……

 創造神様からのお告げで聞くところによると、この召喚で呼ばれる方々の故国は剣も魔法もない世界だと聞いています」

 まあ、確かにゴダ大臣の言う通りだ。


「それで、二つ目の理由は?」

 私は続きを促す。


「そちらの方が大きいのですが、あなた方は召喚されたときにクローニングされています。

 いわば、今のあなた方は本来のあなた方のコピー……

 元の世界に帰ればオリジナルのあなた方と今のあなた方の二人が存在することになってしまい、混乱するでしょう」


 なんと、私たちはコピーだった。

 と言っても、記憶は幼少期よりしっかりと保持している。


「な、なんでそんな……」

 女子高生ちゃんが隣で呟く。


「はい、それは創造神様のご配慮です。

 仮にあなた方が破壊神に敗れてなくなられても、元の世界のあなた方は無事ですので、元の世界に迷惑をかけることはありません。

 思いっきり戦ってください」


 なんと、私たちの人権はないのだろうか……

 いや、クローンに人権があるかどうかは地球でも議論されていた。

 当然この異世界では人権なんてないのだろう。


「拒否はできないのでしょうね……」

「はい、できません」

 私の言葉にゴダ大臣は即答する。


「それでは状況もご理解いただけたと思いますので、早速ステータスを確認されてどちらが聖なる戦乙女様かご確認をお願いします。

 ステータスと唱えればあなた方にだけ見える情報が現れます。

 口に出さなくてもけっこうですよ」


 はあ……

 私はため息をつく。

 これは取りあえず流れに従うしかないだろう。

 ステータスと心中で唱えると、目の前の視界に文字が現れた。

 見づらいので目をつぶる。

 暗転した視野に文字だけが浮かぶ。


 名前 佐藤朋香

 年齢 22歳

 職業 大学生(4年)、アルバイター(コンビニ)、研究者(核物理学)、聖なる大賢者

 レベル 1


 どうやら、日本での状況が職業に影響しているようだ。

 理系国立大学で核物理学を専攻していた私は、研究者として異世界の神に認めらたと言うことだろう。

 そして、召喚時に付与されたと思われるのが最後のスキル……

 取りあえず、聖なる戦乙女ではないようだ。


「どうでしたか、職業に聖なる戦乙女があったのはどちらの方ですか」

 大臣の言葉に、隣の女子高生が怖ず怖ずと手を上げて答える。


「はい、私です」


「おお、あなた様が!

 それでは早速武装を整えてレベルを上げ、破壊神に対応していただきます。

 それで、もう一人の貴方はどうされますか?」


 私はゴダ大臣の質問に少し考えて質問で返す。

「もし破壊神討伐に参加しなかった場合は、何でも叶うという討伐後の望みはどうなりますか」


「それは、破壊神と戦ったパーティーにのみ付与されると言われています」


 大臣の言葉で覚悟が決まった。

 私は女子高生ちゃんと行動を共にすると誓う。






 それから3年、私たちは破壊神の居城についに到達した。

 私たちはこの世界の大人の平均レベルが20前後なのに対して、現在レベル700を越えている。

 雑魚は私の核物理魔法で一蹴である。

 

 破壊神の城の中もサクサク進み、ついに破壊神と対峙する。

 この破壊神を滅ぼせるのは、聖なる戦乙女のもつ聖剣に、創造神の加護を上乗せできる聖なる戦乙女だけである。


 私は持てる魔力の全てを使い、破壊神に大ダメージを与え、破壊神の核をむき出しにすることに成功する。

「いまよ、カオリちゃん」

「はい、朋香さん。

 いきまーーーーす」


 女子高生のカオリちゃんは勢いよく駆け出すと、破壊神の核に一撃を与えた。


 ものすごいエネルギーがあふれ出し、破壊神は無へと帰る。




 次の瞬間、私たちの目の前にステータスが表示され、新しく取得したスキルが明らかになる。

 スキル名は『望み』

 効果は何でも一つだけ望みが叶う。


「朋香さん、私のスキルに望みが現れました。

 朋香さんは……?」

「私もよ」

「朋香さん、どうしますか。

 このスキルで帰っても、そこには3年後のオリジナルがいるんですよね」

「そうね……

 実はずっとそのことについては考えていたのよ……

 ちょっと耳を貸して……」


 私はカオリちゃんに囁く。






 次の瞬間、私は日本の商業ビル内の一室に座っていた。

 3年前の格好のまま。

 どうやら上手く言ったようだ。


「上手く行きましたね」

 隣のブレザー姿の女子高生から声をかけられる。

「ええ、カオリちゃんも上手くいって何よりだわ」

 どうやら、私たちは無事元の世界に帰還を果たしたようだ。






 最後の望みで私たちが願ったことは『融合』だった。

 三年前のクローニング召喚された直後のオリジナルへの融合。

 私のオリジナルは、召喚された時点の私の記憶しか持っていないが、それはクローンの私と全く同じ記憶。

 そして融合後の私はクローンとオリジナルの記憶を併せ持つが、分離前の記憶は同一で、分離後の記憶はクローンの私の分しかない。

 結果、時間が経過していないオリジナルの記憶に、3年分のクローンの記憶が上書きされ、今の融合体の私が誕生した。






「朋香さん……

 ステータスがまだ見えるんですがどうします」

 カオリちゃんの言葉に私も自分のステータスを確認して見る。

 職業欄の聖なる大賢者は健在だ。


「取りあえず、普通の生活が送りたければ、黙っていましょう」

 私たちは日本では過ぎた力となる異世界の能力をなかったことにし、ラインやアドレスを交換すると帰路についた。 







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[一言] 胎児転生と似てる。
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