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常世の君に懸けて  作者: じゅるり
1/11

畢竟するに

  生の対極にそれはある。一端があればまた一端があり、返せども刻めどもそれは変わらない事実。

  遠い果てにある暗黙の(ことわり)は、姿や物も生き物にとって本能的に(おぞ)ましく、また揺らめく影でもある。畢竟(ひっきょう)するに死。


  その醜悪(しゅうあく)と不気味の(いただき)に人は神秘と美を見出した。そして当然の現象を喰らいたいと、もしくは(なぶ)りたいと実直に(うごめ)き、狂を(あずか)る。

  仮に地続きの陽と陰が(まど)かを描けば、居続けるいぶせし彼は、逸楽(いつらく)の主となれるのだろうか。


 ............知る由も無い。


 ***


  新雪のような白髪に陶器のような白肌。その中に墨を落としたような瞳が覗く小さな少女がいた。

  少女はベッドの上のみを自身の縄張りとして誰も寄せ付けず、またこれ以上に身を置きたがらない。一日中指をしゃぶりながら朦朧(もうろう)と、身に降りる時を他人事のように過ごす。


  不安、孤独、煩悶(はんもん)懸念(けねん).........少女は、果てしなく臆病だった。

  故に肉のもっと奥、骨にまで染み付いた失望に結ばれた神経を介した(うつつ)の心証はよろしくなく、しかし心情を露わにすることは一切ない。雨水を排水する術が分からないようだ。

  奇も異も内に溜め込み、少女はただただ緘黙(かんもく)とし続ける。


  消えてしまいそうな儚い容姿、心肝(しんかん)の見えぬ不透明さ。

  おそらく、ヤナは少女のそこに惹かれたのかもしれない。少女を保護してから数週間が経つが、いつまでも曇る硝子の向こう側に彼女の興味は募り(もた)げる一方である。


  そもそも出会いが奇妙であったのだ。少女が彼女の私事にならないはずがない。

  全ての事の発端は、差出人不明の一通の手紙であった。白い紙面の真中に


『少女を一人、保護してもらいたい』


 と一文だけ。輝血色(かがちいろ)のインクで書かれたその文字は手書きではあったが妙に機械的であり、午後四時のような不穏さを醸し出していた。


  同封されていた地図曰く、鬱蒼とした森の中に施設がある。落陽すら届かない地に不自然に佇む不穏の研究施設へ出向けば............籠の中の鳥さえも唖然としてしまうほどの閉塞した部屋に、少女の体は繋がれていた。


  白い頬は血に濡れて赤黒く、また四肢の末端は青く冷たかったのを彼女は鮮明に覚えている。なにしろ少女を連れ出したのは他ならぬ、ヤナなのだ。

  ヤナはシャルマに精鋭として所属していた。


  光あれば闇がある。

  双方は互いに孤立して存在し得ず、共存ないし依存しなければ概念を主張できない。シャルマとは、カルマがあってこそ作られた組織だった。


  影の名を持ちながらカルマは、自身よりもより深い暗がりに佇む死に恐怖する。

  彼らは伝の限りを求めて日常の水面下で策動し、人道を逸脱(いつだつ)する。人を人として見ず、ネズミとして礎とし、実験台の上で殺すのだ。

  他者を侵してまで希望するのはただ一つ。


"永遠の命"。


  おそらくそれは生ける物の夢であろう。永遠を夢とし望む事は普遍的である。

  だがそれに挑む事は生を冒涜する事である。なぜか。単純だ。終わりを迎えないことは、すなわち始まってもいないこと。


  永遠とは今を否定する。


  その正されない秩序に世界の安寧(あんねい)揶揄(やゆ)された。

  シャルマが生まれた理由である。規律の守護者として彼らは或り、ネズミを人へと解放する者として立つ。


  しかし少女は、永遠のため"不老不死の秘薬(エリクサー)"の礎になり、結果皮相変わらぬ唯一の者へとされた。要するに少女は、カルマが求めた死からの逃避であり、シャルマが恐れた無秩序である。

  晴天の中訪れた霹靂(へきれき)として、少女がシャルマの脅威である事を知ったのは、ヤナが少女と帰還した後だった。


『あの子は世の瑕疵(かし)である。』


  そう告げたのは例の如く差出人は何処の誰か分からない手紙だった。


  異物は異物だが少女の姿は人そのもの。殺して取り除く事などまさに己が手で平和を崩すようなもの、まして少女は死なぬのだ。どうしようもできない。

  シャルマは信念の崩壊をただ見続ける事を手紙に強要される。


『いずれは迎えに行くその日まで』。




「漢字の読み方と意味が分からない」とご意見あったため、ルビ振りしました(2018.3.11)。

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