第八話「時にはネタも役立つんですよ?」
『Pandemic』 第八話「時にはネタも役立つんですよ?」
pm23:20
機内に突如として現れた様に感じた光点の正体を調べる為に、愛美、雪那、真弓、若狭の4人は、銃火器を手にしながら後方へ移動していた。現在地点は、中程にある会議室を再現したフロアなのだが、その直ぐ後ろにある同行の各省幹部が座る席があるフロアに通じる扉の前で突入の確認をしていた。
若狭 「それじゃあ、私が扉を開けるわね」
真弓 「私はいつでも撃てる様に構えてますね」
雪那 「了解。私は愛美ちゃんの護衛と援護射撃をすれば良いのね?」
愛美 「おねまいします・・・」
元々戦闘行為が苦手な愛美は、一人取り残されるのも不安なのと、操縦している翠の邪魔をする訳にも行かないとの判断から、一緒に来ていたのだが、一応のハンドガンらしき物は渡されている。が、恐らく撃っても当たらないのだろう。
若狭 「その前にさ・・・ 変な音が聞こえるのってあたしだけ?」
真弓 「・・・やっぱり? 気のせいじゃなかったんですね」
愛美 「気にしたく無かったんですけどぉ」
雪那 「さっきから部屋に近付くと聞こえてたから、変だなーって思ったんだけど」
全員が同じ思いで微かに先程から扉の向こう側から聞こえてくる異音に気付いてはいたらしいのだが、確かめたくない気持ちが強かったらしい。その音をあえて表現するならば、こんな感じであった。
ガリ、ガリガリガリ、コリッ、コリコリコリコリ・・・ カリカリカリカリカリ
床下で聞いた様な咀嚼音や破砕音では無かった。
しかし、時にリズミカルとさえ思えるような一定間隔で、ガリガリ、コリコリ、カリカリと繰り返される異音が時々途絶えては、また繰り返されていた。
愛美 「なんかネズミとかハムスターが餌を齧る音に似てないかしら?」
若狭 「今は、齧るって表現はあまり聞きたく無いかも」
真弓 「でも、似てるっていうのには同感ですね」
とりあえずは、扉を開けて見ない事には内部の様子も分からないままなので、突入する事にした。
若狭 「開けるわね」
一同 「「「OK!」」」
各省幹部が座る席があるフロアに通じる扉を若狭が開くと同時に、内部に居る人物の正体が判明した。
一同 「「「雫ちゃん!?」」」
雫 「・・・・・・・。」
後方から二番目の部屋に居たのは、異様な姿へと変貌を遂げた雫が背を向けて最後尾へと続く扉の前に立って居たのだ。だが、様子がおかしい。変貌した姿である事はともかく、突入した4人に背を向けたまま、扉に向かって鉤爪を一心不乱に、だが、滅茶苦茶にも見える方法で繰り返し引っ掻いていたのだ。
先程から聞こえていた鼠が齧るような異音の正体は、雫が鉤爪でガリガリ、コリコリと引っ掻く音であった事は判明したが、その行為を続ける理由が分からないだけに、一種異様な光景にしか見えなかった。無論、その様に引っ掻き続けたところで扉が破壊出来る訳でも無い。
愛美 「何のつもりなのかしら・・・」
真弓 「でも・・・ 知りたく無いかもです・・・」
若狭 「雫・・・ ちゃん?」
雪那 「ちょっと、若狭! 不用意に声かけたりして大丈夫なの!?」
豪胆とも思える若狭の呼びかけに対して、雫は未だ背を向けたままだった。
だが、扉を引っ掻く行為は止まった。
雫 「・・・・・・・・・・・・・・」
雫は、扉の前からは動かなかったが、クルリと向きを変えて4人の方を向いた。
乱杭歯が生えて、アラバスターの様に血の気の引いた顔には、狂乱的な一種の美しさが漂っている様な錯覚さえ起こさせたが、今は観察している場合では無い。
雪那 「皆! 雫ちゃんが動いたら分かってるわね!!」
一同 「「「了解!」」」
通路を移動する前に、貴賓室で短くだが打ち合わせは済ませていた。雫が動いた場合の対策として、幾つかの案があるのだ。
真弓 「プランA。行まーす!」
一同 「「「OK!」」」
プランA。真弓が初動を行う計画である。
内容としては、真弓が所有している大き目の籠を雫に向けて射出するというものだ。
真弓 「雫さん。動かないで下さいね!! えい!」
真弓が構えた大き目の筒状の物から
ポシュン!
と音がしたかと思うと、大きな籠が雫目掛けて発射された。
その昔、実はコレは武器では無い。SL内で以前流行ったネタ物であり、色々なモノを射出するバズーカシリーズの一品で、打ち出された品によっては、射線上に居た化身を捕縛してしまう事もあるという、傍迷惑なバズーカであった。
真弓は、ネタバズーカを雫へと構えて、何度か籠を射出させたのだった。
雫 「グガ!」
だが、雫は一声発すると、軽々と真弓が射出した複数の籠を余裕で躱してしまい、4人が居る方へと向かって来てしまった。
若狭 「プランB行くわね! 雫ちゃん! こっから先は通さないわよ!!」
若狭は、他の三人が返答する間も惜しんで、自分の担当するプランBとして、通路全体を塞ぐ位の大きさの障壁を雫と自分達が居る間の空間に出現させた。クラブ『現実逃避』で春に対して有効であった方法だ。
雫 「グガガガガッ!!」
流石に障壁が相手では、手出しが出来ないのか、雫の進撃を阻む事には成功した様だ。
が、所詮は時間稼ぎにしかならないのではなかろうか。若狭は胸中不安な思いが拭え無かった。
愛美 「この後は? プランCとDは? やんなくても良いの??」
雪那 「プランCとDは、もう少しだけ様子を見てからにしましょう」
一同 「「「了解!」」」
とりあえずは、雫を一旦阻む事が出来たので、4人は前方の貴賓室へと戻る事にした。
若狭 「でも、大丈夫かしら? 直ぐに障壁を越えて来ないかしら・・・」
雪那 「うん。心配はあると思うの。だから光点の位置を交代で見張りましょう」
愛美 「その光点の色なんだけど・・・」
真弓 「色? ・・・あ!」
一同 「「「そういえば!」」」
実は、先程4人が確認した雫の化身のハズの光点の色は、フレンドを表す橙では無かった。灰色のままの光点。つまり、フレンド以外を表している。
ところが、操縦席に居る翠を含めた5人全員が雫とはフレンド登録を済ませているのだから、これも異常なのだろうか? それとも・・・。
愛美 「そゆえば、前に雫ちゃから聞かされたんだけども・・・」
雪那 「何を?」
愛美 「うん。雫ちゃって、普段は絶対に別垢を作りたがらないんだけども・・・」
真弓 「うんうん」
別垢とは、メインで使用する化身以外にも、複数のアカウントを用意して化身を複数使い分けしたりするプレイヤーも存在しているSLでの別アカウントを指す表現であった。
愛美の説明によると、雫は普段は別垢を使う事は無いのだが、以前ダンサーを目指していた時期があったらしく、その創作ダンスの中で、どうしてもデュオを試したかったので、別垢を作った事があったという話を聞かされたのだと。
雪那 「すると、さっき見たあの雫ちゃんそっくりな化身は、雫ちゃんのメイン化身では無く、別垢だという事なのね?」
真弓 「SLでは、同じシェイプに同じスキンを使えば、いくらでもソックリさん作れますものねー」
こんな時まで傍迷惑な性格は変わらないのかいっ! と心の中で一同がツッコミを入れていたのだが、雫にこの思いは届くのであろうか・・・。
翠 「お、お帰りにゃー 後ろどうだったにゃ?」
真弓 「ただいまでーす」
雪那 「ただいま。翠ちゃん」
若狭 「後ろの光点の正体は、雫ちゃんの別垢だったわよ」
翠 「そうなのにゃー ところで、着陸どうするにゃ?」
実の所、隣の島へ逃げ込むのが目的ではあったのだが、後ろにアイツら化した雫を同伴してしまったら、逃げた先でも同様の悲劇が起こる事が容易に想像出来たので、対策を考えなければならないのだ。
翠を交えて、5人で遣り取りをして、なんとか自分達だけで避難して、その上、雫の別垢の動きを封じ込める対策を・・・。だが、そんな都合の良いアイディアなんて簡単に浮かぶのだろうか。
だが、飛行ではなく滑空している現状では、あまり長い時間を掛けても居られないのだから、どんな突拍子も無いアイディアでも良いので、意見を出し合う事にしてみた。
愛美 「皆でパラシュートとかは?」
翠 「面白そうにゃw」
若狭 「でも・・・ 上から雫ちゃんの別垢が襲ってきたら無防備よね?」
雪那 「いっそ、飛行機は爆破しちゃうとか?」
翠 「翠の大事な飛行機にゃ~~~っ!!」
雪那 「ごめんごめんw 本気じゃ無いわよw」
真弓 「でも、飛行機と別垢雫さんをなんとかしないとですよね?」
一同 「「「うーーーん」」」
出口の見えない話し合いの中で、光明を見出すのは難しいのだ。
翠 「コロンブスのタマゴにゃ」
一同 「「「ハァ?」」」
こんな時に翠は突然何を言い出すのか?
一同の頭の中に巨大なハテナマークが飛び交ったのが幻覚の様に共通した思いであった。
滑空は、話し合いの行方ごと急転直下してしまうのか?
pm23:35
ネタ好きです♥
マグロとかーサーモンとかーウニとか♥
って違うネタでしたね(殴