第四話「死闘って嫌いなんですけど」
『Pandemic』 第四話「死闘って嫌いなんですけど」
pm22:35
クラブ『現実逃避』では、皆が一か所に集まると狙われるのではないかとの不安から、四方に3~4名のグループの分かれて、床下に居るらしい雫の鉤爪からいつでも逃げ出せるように見張りながら銃刀を構えていた。
そして、Area 51島の地面に突如として出現しだしたおびただしい数の光点=化身達に更なる不気味さを感じていた。
佐武朗「下に居る連中、誰か知り合いとか居る?」
雪那 「いくつか橙色の光点もあるんだけど、それだけじゃフレンドとしか分からないわ」
春 「私もです」
雫が叫び声を上げるとほぼ同時に現れたことから、何らかの関連性があるのであろうが、意図が不明な以上、こちらから下へ降りてどのような者達が集っているのか確認する気も起きない。というか、出来れば即座に解散するなり、別の場所へ逃げ出したい者達も店内で足止めされているような状態だ。
若狭 「ここで一旦、状況確認していいかしら?」
翠 「賛成にゃ」
統 「うん」
若狭の提案に、店内に居る者達は、床下から目を離さないままで応じた。
現状で出来る事
チャットは、文字・ボイス・ささやき全て可能
TPやLMによる移動はできないが、フレンドリストからの呼び出しは可能
持ち物をインベトリから地面に向けて出す│(Rez)は可能
持ち物を装着したり、装着状態からの攻撃も可能
持ち物を他者に渡す事も可能
アイテムなど物を作る事も可能
ミニマップによる、フレンド光点=橙色、フレンド以外=灰色の識別は可能
光点による高低差も確認可能
どうやら、SL内マネーのトレードなども可能らしい
他にも使用可能な設定やスクリプトが多数。
他にも細かい設定では、幾つか可能な事もあると思われるが、現時点では主な機能として、上記の事が可能らしい。
現状で出来無い事
TPやLMを使用しての移動
飛行状態を選択しても、飛行が出来ない
一部のスクリプト(プログラム)が使用不能らしい
物理攻撃は可能らしいが、ダメージが与えられているのか現時点では不明。
雫に関して
いつも以上に意味不明。とゆーかそもそも会話が成立しない。
姿が確認出来ていないが、変な鉤爪を生やして攻撃的らしい?
鉤爪の姿だけを見る限りだが、愛美の言う変貌の証明になるかもしれない。
現時点では、雫以外に異常な状態になった報告や目撃情報が皆無。
同時に、雫が叫び声を上げたとほぼ同時に集まった地上の光点が不気味でもある。
(正直、未だに半信半疑な状態な者も多いのだ。)
だからこそ、直接雫に接触してみたいという好奇心旺盛な者達も居る。
瑞人 「TPやLMが一切使えないって不便ですね」
矢唖 「呼び出しのみ使用可能って何か悪意感じるんですけど」
衛 「トモダチ少ない。。。 呼び出しされない。。。」
統 「泣くな!!」
出来る事と出来ない事を整理してみたものの、現状が改善された訳では無い。
しかし、次へ進むには必要な作業だったと思われる。
佐武朗「当面の問題は、移動制限がある状態でどうやって移動するか? かな」
雪那 「とりあえず、フレンドリストに登録されてる人同士でお互いを呼び合うのが有効かしら」
真弓 「そうね、リストに無い人は会話ログからプロフィール表示すれば、全員移動出来るんじゃないかしら」
若狭 「ちょっと大変な作業になりそうね」
早速、雪那は離れた場所に居るフレンドにささやきを送ろうとしたその時だった。
矢唖 「!!」
愛美 「矢唖さんっ!!」
今まで沈黙したままだった鉤爪が、突如として現れたと思った刹那の瞬間に、矢唖を床下へと引きずり込んだのである。無論、通常のSLではこんな事は起こり得ない。だが、その起こり得ない事が一瞬で現実となったのだ。
瑞人 「そんな・・・ ちゃんと皆で監視してたのに・・・」
衛 「信じられない!」
統 「矢唖ちゃん!?」
矢唖 「ちょっ・・・ ヤダ!! 駄目ぇ!! 離してよぉ!! ヤダぁぁぁぁぁぁぁぁ」
床下から悲痛そうな矢唖の声が聞こえる。必死で抵抗しながら、鉤爪に掴まれた足を振りほどこうとしている姿が想像できそうな程に。
矢唖 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
不意に床下の悲鳴が止まった。
その直後に
ベキッ!! バキッ!! ボキッ!!
「アッハァ・・・」
ボリボリボリボリボリ・・・
ペチャクチャペチャ・・・
「ガゥッ・・・」
ガリガリガリガリガリガリガリ・・・
「ゥガァッw」
ムシャムシャムシャ・・・
ジュルジュルジュルジュルジュル・・・
「ゥッフゥー」
絶対に聞こえないハズの咀嚼音やナニカを啜る音が鳴り響きだしたのだ・・・
愛美 「えっ!?」
若狭 「!!」
翠 「ウソ・・・」
真弓 「何が起こっているの・・・」
春 「考えたくないですね・・・」
雪那 「怖っ・・・」
佐武朗「・・・」
cocoa 「イヤっ!!」
Milli 「どうして・・・」
見えなかったのがせめてもの救いなのだろうか。
それとも、見えないからこそ、想像力を掻き立てられてしまい、余計に恐怖を増幅させるのだろうか。
雫が居たと思われる床下の場所には、矢唖のものと思われる光点が重なっている。
全ての音は、そこから響いて来るのだ・・・。
これで店内に残った者は、23名。地上の光点と雫を合わせた人数の方が倍以上居るように見受けられるが、現時点では、地上に居る者達がどのような状態なのか判明しては居ない。あまりにも状況が急変し過ぎるのに、情報が少ないのだ。
佐武朗「とりあえず、皆、床から少しでも高い処へ逃げて!!」
翠 「ソファーやテーブル、カウンターの上に登るのにゃ!!」
夜目 「背が低いと不利だなぁ」
一同 「「「了解!!」」」
思い付きだが、床から伸びてきた鉤爪は1m位だろう。テーブルやソファーの上ならば、第一撃を防げるのではないだろうか。佐武朗の指示に答えた翠のアイディアは有効なものに思えた。
店内に居合わせた者達は全員が思いつく限りだが、床から少しでも離れた高い場所に陣取った。無論、銃口や刀は床下から鉤爪が生えた場合に備えて、床下の雫に狙いを定めたままだ。
春 「あれ?」
真弓 「どうしましたか?」
春 「それが、雫ちゃんの光点なんですけど、大分ズレてません?」
雪那 「ズレてるって?」
春 「いつの間にか、少し小さくなって動いてる様に見えるんですけど」
翠 「本当にゃ! 矢唖さんらしき光点は動かないけど、雫ちゃんだった光点が地上の光点と重なっているように見えるにゃ!?」
佐武朗「なんだってっ!!」
春の指摘通り、いつの間にか雫のものらしき橙色の光点が地上の光点と重なって見える。どんなカラクリを使ったかは不明だが、矢唖の身に起こったことと同じことが地上でも行われるとしたならば・・・
店内に居た者達は、一様に不安な気持ちになった。
佐武朗「俺、下に降りてみるよ」
雪那 「何言いだすのよ」
真弓 「無謀ではありませんか?」
若狭 「あたしも賛成できないなー」
翠 「もう少し様子を見てからの方がいいと思うにゃ・・・」
春 「私は一緒に降ります」
瑞人 「ボクも降りて偵察しようかと」
「「「えっ!?」」」
佐武朗の唐突な提案に、反対者が多いと思ったのだが、半数以上の者達が下へ降りると言い出したのだ。
佐武朗「このまま店内に閉じこもったままでも、一応安全なのかもしれない。でも、下へ降りれば、隣の島へ逃げる事も可能になるんじゃないかな」
春 「それに、今下へ降りても、もしかしたら、雫ちゃんが他の人達を襲ってるかもしれません。その人達の中から、一緒に逃げれる人達だって居るかもしれないし」
若狭 「でも、あの人達って雫ちゃんが叫んで現れたんじゃない?」
翠 「仲間を大勢呼んだかもしれないにゃ」
瑞人 「偶然の一致かもしれない。圧倒的に情報が足りなすぎると思います」
統 「そうね。相手を知らなきゃ対策も立てようが無いものね」
夜目 「正直、矢唖さんだって、床下に引きずり込まれはしたけど・・・ どうなっているのか状況も分からないし?」
Milli 「それじゃー 誰か直接床下へ行って見てきます?」
一同 「「「それはちょっと・・・」」」
先程の租借音が未だ幻聴で聞こえそうな気がするのだ。
だが、非情にも思われるかもしれないが、もし、雫が地上へ降りたのならば、他者が襲われている最中に、隣の島へ逃げ出すのは有効かもしれない。一部にはそのように希望的観測で考えた者達も居たのだ。
cocoa 「見には行きたく無いけど、逃げ出したい気持ちは同じだと思うよ!!」
愛美 「その気持ちは分かるけど・・・」
分かるけど、本当に地上へ降りて大丈夫なのだろうか?
愛美の心には、事態が始まった頃からの恐怖がしっかりと刻まれている。また醜く歪んだ姿に変わり果ててしまった雫と向き合うのが恐ろしいのだ。
愛美 「あたしは残りたいよぉ・・・」
雪那 「私も同意見です」
佐武朗「それじゃあ、二手に分かれようか」
佐武朗と同行する者達が即席だが作戦を立てた。『現実逃避』内に残る班と地上へ降下する班の二手に分かれる。残留組は、降下班からささやきで回収を依頼されたら、速やかに店内へ呼び戻す。降下班は、隣の島へ移動する事が一番の優先目標であり、救助活動は二番目とする。決して無理はしない事。
即席チームでもあり、複雑な連携等は寧ろ難しいだろう。そう考えてシンプルな作戦と活動方針だけを決めたのだ。
残留組は、愛美、雪那、真弓、若狭、翠、cocoaと二人の初心者化身の計8名。
降下組は、佐武朗、春、瑞人、衛、統、夜目、Milliと戦闘経験者を中心に8名を加えた計15名。
全員が銃や刀を構えて、5名一組で3チームに分かれて、隣の島を目指す事としたのだ。もし、雫に襲われたり、緊急事態が起こった場合には、残留組へSOSを発信して回収してもらう手筈だ。
これで、もしも地上に居る者達が、雫同様の変化した者達であった場合でも、物理攻撃で一旦退けて、道を切り開きながら進むという力技に頼る作成でもある。
pm22:40 長いようで短い時間の出来事だった。
一人目がどうなっているかはご想像にお任せします。
怖い時って自分に都合よく物事考えたりしてしまうかなー
なんて思いながらちょっと強引な展開かなとも自問しながらでした。