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『Pandemic』   作者: 月夜乃雫
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第三話「逆襲ってズルくない?」

『Pandemic』 第三話「逆襲ってズルくない?」


 Am2:25

 雫を呼び出す役目を壺の前に立つ佐武朗が引き受けた。彼が呼び出し、周囲に居る者達が武器を手に壺の周囲を固める。襲い掛かってきたならば、即座に集中砲火を浴びせられるように構えているのだ。


 とはいえ、SL内での出来事なので、衣装も不揃いで手にしている武器もゴツイのから小銃やドスと呼ばれる短刀まで、猫耳美少女やもぐら着ぐるみ等が男女の化身に混ざって武器を構えているのだ。傍から見たらカオスな状態であることは言うまでもない。

 まあ。ネトゲ内での自主的なお遊びイベントだと認識されているのだから仕方がないのだろう。


佐武朗「呼ぶよ」

雪那 「いいわ」

翠  「おkにゃ」

瑞人 「いつでもどうぞ」

矢唖 「OKよ」


 他にも周囲にいる者達から同様な声が上がり、誰一人意義を唱える者は居なかった。佐武朗は、自分のフレンドリストから雫を選び、彼女のプロフィールを開くとすぐさまTP│(テレポート)による呼び出しを送った。


佐武朗「拒まなければ直ぐ来ると思うよ」

若狭 「うん」


 周囲に居る者達も少しだけ緊張した面持ちで壺へと視線を注ぐ。


雪那 「着いたみたいね」


 壺がある場所の内側に、見慣れた橙色のマーカーが現れた様に見える。皆が一斉に手にした獲物を構えるが、雫からの攻撃的なアクションがあってから攻撃する手はずなので、未だ引き金は誰も引こうとしない。


愛美 「雫ちゃ? もう元に戻ったの? 大丈夫?」

雫  「・・・」

 恐れて少し壺から離れた場所に居る愛美が呼びかけるが、雫からは何にも返答が無い。不安を増幅させるばかりだ。でも、今は一人では無い。頼もしい味方が周囲を囲んでいるのだから。


愛美 「ねえ、何か答えてよ」

雫  「・・・grrrry」

愛美 「!?」


 雫の口からは相変わらず意味不明な言葉しか流れて来ないのか、それともTPには応じたのだから、理性はあるのではなかろうか?


雪那 「雫ちゃん。悪ふざけはやめてくれないかしら? 愛美ちゃんがとても怖がっていたのよ。反省してるなら皆許してくれると思うけど、これ以上悪ふざけを止めないなら、少しお灸をすえます」

春  「雫ちゃん、雪那さんの言う通りだと私も思うから、もう止めましょう、ね?」


 日頃から雫と個人的にも仲の良い春からも、悪ふざけと思われているのかと愛美は少し悲しくもあったが、アレが悪ふざけならば本当に今すぐでも止めて欲しいとも思う。


雫「fffffffffffffw ahahahahahahahahahahahahahahahahahahahah

ahahahahahahahahahahahahahahahahawwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

一同 「「「えっ!?」」」


 呼びかけに呼応するかのように、先の愛美や春の説明通り雫は不気味に笑い出した。耳いっぱいに広がる不協和音のような音。深夜に聞きたいようなものではない。常軌を逸している。


瑞人 「仕方ありません」

統  「であるか」

衛  「ですね」

夜目 「・・・OK」

矢唖 「結局こうなるのね」


 雫の不気味笑いを攻撃の意思と見なしたのか、悪ふざけを止めるつもりが無いと判断したのか、どちらにせよ周囲に居る者達は一斉に手にした獲物から容赦なく壺へ向けて鉄槌を下した。

 たちまち壺は粉砕され、カケラが方々へと飛び散ったのだが、ここで直ぐ異変に気付いた者が居た。


佐武朗「ちょっと待って、皆、攻撃を一旦止めてくれるかな?」

雪那 「どうしたの?」

若狭 「止めちゃって大丈夫?」

翠  「にゃ?」


 壺は割れた。しかし、中の雫は蜂の巣か挽肉に変貌してしまうだろう大量の弾丸を浴びたハズにも関わらず、一向に姿が見えないのだ。まさか、ステルス状態でこの場にいる訳ではあるまい。


愛美 「アレ? 雫ちゃってココに呼び出されたハズよね? どうしてマーカーは下を向いているの?」

若狭 「下?」

瑞人 「そういえば!!」

Milli 「手ごたえ無いと思ったら、高度が違ったのですか」

cocoa 「人を撃ってなくて良かったです」

Milli 「ココアちゃんは優しいね」

雪那 「どういう事かしら」

佐武朗「呼び出した時に、下に落ちちゃったとか?」


 SL内では、TPで人を呼び出す際に、身長差からなのか、設定の問題なのか、原因は良く分からないのだが、時々呼び出した直後に床下へ落下するという怪奇現象が多々ある。雫もその現象の影響で床下へ落下したのだろうか。少なくとも『現実逃避』店内の床上に雫の姿は無い。


翠  「ちょっと厄介にゃ」

真弓 「そうですね」

衛  「厄介とは?」

佐武朗「この店はsky-boxなので、上空2500mに設置されているから、時々床下へ呼び出した人が落下しちゃう事もあるんだ。」

雪那 「なので、対策として床下に大きな板を敷いてあります」

矢唖 「そんなのが下にあるんですね」


 sky-boxと呼ばれる施設で店舗を運営する者達が、落下防止の為に床下から更に高度の低い場所に店舗そのものよりも少し広めに板を敷いておくことで店舗から落下した化身が地上まで落ちなくて済むように救済措置として設置しているのだ。今回雫はその板の上に落ちたのだろうか。


真弓 「板の上じゃあ、壺の中みたいに閉じ込められないし、逃げ回られたら厄介ですね」

統  「であるか・・・」

夜目 「・・・」

翠  「「・・・」なら打たなくても一緒にゃw」

夜目 「(´・ω・`)」

翠  「顔文字ヤメるにゃw」

夜目 「じゃーどーしろとwww」

瑞人 「設定崩壊しましたねw」

夜目 「意地悪ぅ (´・ω・`)」

佐武朗「非常事態だし、今はキャラ壊してもいいんじゃないかな」

夜目 「分かりました」

矢唖 「今の会話ちょっと面白かったわw」


 夜目がキャラ崩壊起こした事は、正直どうでも良いが、佐武朗の言う通り、事態は思いがけず、ちょっとした非常事態に変わっている。とりあえず、床下の様子を誰か見に行く方が良いのか、再度壺を用意して雫を呼び出すのかを話し合をうとしたその時。


愛美 「ちょっと・・・ アレ、何?」

雪那 「え?」

一同 「「「!?」」」

瑞人 「鉤・・・爪・・・ですか?」


 不気味な鉤爪が床下から生えている。それも丁度雫が居ると思われる地点の真上にだ。


愛美 「だから言ったじゃんっ!! 嫌だってっ!!」

佐武朗「いや、未だ悪ふざけの可能性が無くなった訳じゃないから」


 実際の雫の異様な変貌過程を見ていない者達には、未だに鉤爪すらも悪ふざけにしか見えないのか。愛美は失望しながら、鉤爪から少しでも遠ざかろうを身を翻した刹那。


cocoa 「え!?」

Milli 「動いてる!!」

雪那 「こっちへ・・・!?」

若狭 「なんで!?」

翠  「にゃ!?」


 愛美、雪那、真弓、若狭、翠が居る方向へ向けて、鉤爪が襲い掛かって来たのだ。予備動作無しの急襲ではあったが、多くの視線が集まっていた事が幸いして、刹那ではあったが第一撃は避けることが出来た。


真弓 「また来ます!」

雪那 「散会しましょう!!」

若狭 「OK」

翠  「おkにゃ!」

愛美 「ドッチヘ逃げれば・・・」


 五人はそれぞれ思い思いの方角へ散った。雫の凶刃は獲物が散ったため、どちらを追うか迷ったのか、一旦床下へ引っ込んだようだ。


佐武朗「フレンド表示が固まってたから、雪那達を襲ったのかな?」

統  「なるほど、我輩達の中では、雫殿とフレンド登録しておる者が少なかったと。雪那殿達は皆登録してあるのであれば、合点が行く仮説であるな」

瑞人 「ちなみに総統殿は?」

統  「我輩、女人の尻は追わないのである」

夜目 「英雄色を好むでは?」

翠  「色は色でもBL好きだったかにゃ?」

統  「い・・・謂れの無い誹謗中傷はダメなの~!!」

瑞人 「ここでもキャラ崩壊がw」

統  「違うのである、我輩ショタであってBLでは・・・ くぁせ フジコフジコgry・・・」

矢唖 「www」


> pm22:28(ささやき)Milli「統さんって、本当は中身女性だったりしてw」

> pm22:28(ささやき)cocoa「そーゆー特殊な趣味な人?」

> pm22:28(ささやき)Milli「男性化身使ってるけど、実際は女の人って結構居るよ」

> pm22:29(ささやき)cocoa「そーなんだ?」

> pm22:29(ささやき)Milli「逆も多いけどねw」

> pm22:29(ささやき)cocoa「ミリちゃんは?」

> pm22:29(ささやき)Milli「ナイショでw」

 

 SL内では、ネカマ、ネナベ、バイ、何でもござれだ。女性同士のカップルや男性同士のカップルも海外島でも見かける。日系島では少数派かもしれないが、設定としてはどんなカップルでも中身を問わずにパートナー登録を結ぶことが可能なのだ。

 プレイヤーの中にもRLで少数派│(マイノリティー)と呼ばれる者達がRL素性や性別を秘匿して楽しんで居る者達も居るようだ。その辺りの配慮が欧米企業が作り出したネトゲでもあるのだろう。差別や善悪ではなく、ありのままを受け入れようとする姿が。


雪那 「瑞人さん! 危ない!!」

瑞人 「わ!」


 一旦は床下に収まった雫の鉤爪が、今度は近くに居た瑞人へ狙いを定めて放たれたのだ。危うく鉤爪に捕まれそうになりながらも、瑞人は真横へジャンプして躱した。


瑞人 「今の見ました? 掴みかかって来ましたよ」

衛  「俺にもそう見えました」

統  「確かにそうだったわ」

夜目 「統さん。そろそろフツーにしゃべったら?」

統  「うん。後でまたキャラ戻しても笑わないでね?」

一同 「「「プっwww」」」

統  「もーヤダァーーーーーっ!!」

矢唖 「とりあえず落ち着いてね?」

佐武朗「今度からフェミ化身にしたらどうかな? 俺服買ってあげるからさ」

統  「ホントに!?」

愛美 「統さん・・・ 佐武朗は誰にでも服買うって安請け合いするから、誤解しちゃだめだよ?」

統  「はぁーい♡」


 青ざめた顔して、悪者マントを棚引かせた軍服姿の痩身の男性化身が、女言葉を使いだして「♡ハート」まで入れだした姿は、雫に負けず劣らず異様であった。

 コレは設定崩壊より問題だわ… 頭痛いカモ・・・-

なんて愛美は思ったが、佐武朗は女と見ると見境無く声を掛ける性分らしいから仕方無いと腹を決めた。


愛美 「佐武朗、絶対統さんを泣かせちゃダメだよ?」

佐武朗「そんなつもりじゃないってばw」

雪那 「それじゃー どんなつもりなのかしらね」

佐武朗「怖いんですけど・・・」

真弓 「雪那ちゃん、抑えて抑えて」

雪那 「真弓。大丈夫よ」

 佐武朗が他の女に声を掛け始めると、雪那が機嫌を悪くする。親友でも気になるものだろうかと周囲の者達は訝しげに見ていたが、今はそれどころではないハズだ。


Milli 「次! 来ます!!」

cocoa 「衛さん! 逃げてください!!」

衛  「俺はフレンドしてないんですけどねー?」

Milli 「ついでに一撃当ててみます!!」

矢唖 「私も!」


 長身で痩身な衛が、疑問を呟きながら凶刃を避けると同時に、Milliは構えていた細身の小銃から一斉射を放った。矢唖も対角線上から構えたボウガンを放った。弾丸と矢はことごとく雫の鉤爪に命中した様だ。


翠  「効いてるにゃ?」

若狭 「ウチも当てるわよ!」

春  「援護します」

雪那・真弓「私達も!」

夜目 「僕も!」


 鉤爪目掛けて、周囲に一度は散った者達が獲物を構えなおして雨アラレと銃撃を集中させる。その場に居た者達の耳には銃火器の射撃音だけがしばらく響き続けた。

 『現実逃避』があるArea 51島は元々がオーナーの趣味で作られた島であり、銃火器使用を目的として設定されているため、ライフゲージが0(ゼロ)になってしまうと死亡(DEAD)状態となり、設定されているホームへ強制送還されてしまう。


 今、雫が床下に居たとしても、物理ダメージを防ごうとしない以上は、島設定に従う他に方法は無いハズである。射撃を加えている者達は、事の全容はともかく、悪ふざけだとしても対話しようとしない雫の態度は許し難く、理解出来ない状態である事は事実なのだ。

 であるならば、一度ホームへ戻してしまい、何なら後から雫だけ島のオーナーに連絡して出入り禁止状態│(BAN)にしてしまえば良いのだから。今はひたすら弾幕を張るだけである。


雫  「wyrrrrrrrrrreeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee

eeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!!!!!!!!!」


 突然、雫が咆哮しだした。一同の耳には、不快な不協和音と黒板を引っ掻いた様な不気味なノイズの様に聞こえるが、皆一様に顔をしかめた。


佐武朗 「ちょっと、何なんだ!? コレは!!」

翠   「下にゃ・・・」

若狭  「嘘でしょ・・・」

雪那  「何が起こってるの!?」


 雫の咆哮に呼応するかのように、『現実逃避』があるArea 51島の地面におびただしい数の紺色の点が突如として出現しだしたのだ。所々だが、橙色の光点も含まれている。何の真似だと言うのだろうか。


ここまでが、pm22:34の出来事だった。


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