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『Pandemic』   作者: 月夜乃雫
22/23

第二十一話「ロジャーの場合 ~二つの対策~」

第二十一話「ロジャーの場合 ~二つの対策~」




(北米時間)am10:30


 対策会議が行われ、初動から30分程が経過した。


 レベッカは、ウイルスの特定と研究を進めていたが、同時並行でロジャー達のBチームが実際に感染するとどの様な症状が現れるのかをビルとフジタの二人がラボ外で試してみた結果が出た。


 試験場所に選ばれたのは、ラボから車で少し移動した場所にあるショッピングモールの駐車場だった。ここならばwi-fi環境も整っており、充電済みのノートパソコンであれば、十分にSLへ繋ぐことも可能だからだ。公共施設で試して、万一感染被害が出ないためにもこの場所であればとビルが発案したのだった。


 ラボから離れた理由は、ラボ内で対策に使っているパソコンにまでウイルスが混入する事を防ぐ目的と、カーク部長の息の掛かった部下達が居る場所から離れたかった気持ちがあったからだろう。


 フジタが所有する車を運転して、ビルは少し広めの車内で寛ぎながら実験用に使うと決めたノートパソコンでSL内にログインした。


 そして、感染者に接触を図り、グロテスクな過程を経て、今、ブラックアウトならぬレッドアウト (画面が一瞬真っ赤に染まる状態)から、化身が立ち上がる姿を目にした。


「・・・!?」


「こっ・・・ コイツはっ!!」


「ジーザス!」


「なんてこった・・・・」


 ノートパソコンのモニターを覗き込んだ2人は、ほぼ同時に驚愕した。そして、その思いを有体に吐露してしまった。それ程モニター内の光景は、衝撃的なものだったのだから。



「あの・・・ コイツどうしますか・・・」


「そうだな。やっぱりカーク部長に一度経過報告をしておいた方が良いと思うよ。」


「そうですね。部長は経過報告とかサボるとすぐに怒りますからね。」


「ああ。だからこそ、今見た出来事をラボに残っているロジャーとテレサ、レベッカにも

 伝えた方が良いと思うんだ。」


「今撮った動画と静止画像と両方を社内サーバーにUPしておきましょう。」


「その上で、それぞれにメールで知らせておけば良いだろうね。」


 二人は、スクリーンショットと動画を幾つか撮影しておいたので、オーク社の社内用サーバーへUPしてから、ラボに居る者達に報せのメールを送った。念のため、ゴルフ場に居るであろうカーク部長には、アドレスへ添付ファイルとして送信した。


 出掛けのついでにショッピングモールで昼食になりそうな物を仕入れて、二人はラボへ向かった。


 ちなみに、ラボでウィルスの一部が解析委されたと表現したのは、プログラムの大本であるソースの方でモニタリングしている状態で、幾つかの不正な書き込みが加えられているのを同定し、そこから解析したものを指していた。


 今回は、ラボから離れて個人所有のノートパソコンを犠牲にする覚悟でワザと感染させて実際の症状を確認しようとした結果だった。


 


 ビルとフジタが、ラボへ戻るより先に、IPTV電話の呼び出しがラボに残ったロジャーに入った。ゴルフ場に行ったであろうカーク部長からだった。


「おい、君。これは一体なんのジョークかね?

というより、ジョークと呼ぶには・・・ 

あまりに悪質だな! 


最低だよ。

悪質で悪趣味過ぎるだろう。


これでは、私らSLを研究し、運営する者達への冒涜行為じゃないかね?」


 カークは一気にしかも一方的にまくしたてて来た。


 普段の穏やかなSL内の光景では無くなってしまった景色が余程ショックだったのだろう。が、それを言うならばロジャー達だって同様である。先に見て、その情報を伝えたからと言って、罵られる覚えは無い。むしろ、そんなのは給料を貰う内になんて入っていないのだから。


「部長。お怒りは分かりますよ。

 俺達だって誰一人納得なんてしちゃいないんだから。

 

 でも、送った画像も動画だって、事実なんです。

 せめて受け止めて下さいよ。


 その上で、俺達だってちゃんと仕事してるんですから、そう一方的にがなり立てないで

 くださいよ」


「あ、ああ。

 すまなかったな。


 つい興奮してしまった様だ。

 この遣り取りでの君の言い分は認めよう。


 謝罪させてもらうよ」


「・・・。

 分かって貰えればいいんです。


 後は、またラボに戻って作業に戻りたいんですけど」


「分かったよ。

 レベッカ君のAチームでは、未だ有効なワクチンソフトまでは進んでいないそうだから

 な。君達の働きに期待させてもらうよ。


 しっかりやり給え、ロジャー君」


 そう言い残すとカークはIPTV電話を切ってしまった。


 自分の言いたい事だけを言って切られた印象が拭えないが、今は寸刻だって惜しいのだ。


 


(北米時間)am10:45


 ラボで動画を確認したロジャーは、素早く幾つかメモに書き留めると、コーヒーを片手にレベッカとの軽い打ち合わせ ~情報交換のようなもの~ を行った。


「やっぱテキストでモニターするのと、実際に化身状態で見るのとでは違うな」


「・・・そうね、私も先程送られてきた画像と動画を見たけど、悪趣味だわ」


「なあ、君ならどんな人物がこんな悪趣味なシロモノを作ったと思う?」


「そうねぇ・・・ やっぱり、オーク社に対して恨みがある人物とかかしら?」


「その線は外せないだろうな・・・

 とはいえ、世界中に配信しているコンテンツでもあるからな。


 必ずしもオーク社に対して恨みを持つ人物だけとは限らないよな。

 何せ、基本となるソースはオープン・ソースだった時期もあるし・・・。」


 オーク社では、SLの基本となる情報が書かれたプログラム=ソースを無償で公開していた時期もある。より良いコンテンツ作りと、優れたプログラマーが遊びついでにでも協力してくれれば儲けものというアイディアからだ。


 しかし、現在の開発部長にカークが就任して以来、ソースの情報は機密クローズド扱いとされている。


 そればかりか、経済状態ばかりを気にしするカークの方針について行けない為に、退社した者、些細な言い掛りで退社させられた者もおり、その中には優秀な者達も含まれていた。


 かつては、共に笑い合い、時には徹夜でプログラムを組んだり、バグを取り除いたりした者達であったが、その様な事情は一切顧みられなかった。それどころか、カークの強引な解雇宣言に傷付いたり、恨みを持った者達も居たであろうことは想像に難くない。


 かくいうロジャーだって、レベッカが庇ってくれなければ、堪忍袋の緒がダース単位でぶち切れて社を飛び出していたかもしれない一人だ。つまり、それだけカークは恨まれていると考えて良い。

 

 そこへ、空気を読んでか読まずにか、当の本人が社へ戻って来た姿が見えた。


「お帰りなさいませ。部長。」


「部長、お早いお帰りですね!

 てっきりそのまんま昼食をゴルフ場で食べるのかと思ってましたよ!!」


「ただいま、レベッカ君。

 ロジャー君。そう言ってくれるな、私だってこの非常事態に呑気にゴルフを楽しんでいた訳ではないんだよ。


 どうしても以前から約束していた大事な取引先だし、今回キャンセルしたら、お互い忙しい身だからね、そう簡単には次にという訳にもいかんのだよ。


 だが、今回は事情を説明して、ゴルフは延期して貰ったのだよ。

 お陰で彼に一つ借りが出来てしまった・・・。


 まあ、それはいい。

 私とて、非常事態には、それ相応の対処をしなければならんだろう?」


「そうでしたか。

 では、先程送られた動画と画像の件に対する対策についてですが・・・」


「あー、そう急かすな。

 私はまだ戻ったばかりなのだからね。一度オフィスに戻ってからにさせてくれたまえ。

 ミーティングは10分後から私のオフィスでだ。」


「「了解しました。」」




(北米時間)am11:00


 10分後、ロジャーとレベッカは、全員を集めるのは作業効率が低下すると判断して、自分ともう一人ずつをメンバーとして選出して、カークのオフィスへと向かった。


「それでは、ミーティングを始めるとしよう。二人とも、手短に説明してもらえるかね?」


「分かりました部長。それでは、私から先に説明させて頂きますね。

 結論から率直に申しますと、我々Aチームでは、先に報告したウィルスの同定まではし

ましたが、現在のところウィルスの完全な解析にまで至っておりません。


 そこで、同定したウィルスに公開されているものも含めて、有効そうなワクチンプログラムを試しておりますが、あまり際立った効果はあがっておりません。


 引き続き、ウィルス解析を進めながらワクチンの開発を進めたいと考えております。

これは、当初の計画通りですわ。」


「うむ。君のAチームは計画通り進めて構わんのだが、実際のところウィルス解析とワク

 チン開発までにどのくらいの時間が掛かりそうかね?」


「解析だけであれば、あと2~3時間も頂ければ。

 但し、そこからワクチンを開発するとなると、一日や二日では難しいでしょうね・・・ 


 検証も含めて、せめて10日くらいは頂かないと・・・」


 レベッカの報告を受けて、カーク部長の表情は陰った。

 だが、実際のところ、そう簡単にワクチンプログラムの開発が出来る訳が無いのだ。


 作るだけならともかく、実際に試してみて、本当に有効かどうか、ワクチンを使った事によって、思いがけないバグやエラーが発生したりしないか、発生したとして、それを取り除いたり、書き換えて改良したりしながら、検証する時間も必要なのだから。


 元々カーク部長は、開発畑の人間ではなかった。


 むしろ、営業を中心に行って来たjン物であったが、オーク社のCEOが変わった直後に、開発中心の人間が責任者では、どうにも改革にスピード感が感じられないからと、CEOがカークをヘッドハンティングして部長に据えたのだった。


 そんな経緯もあり、開発局の者達は開発畑に長年居た以前の部長を惜しむ者達も多かった。


 肝心のカークはといえば、部長と言えば経営陣の一人であるという大義名分の下に、取引先や協力先の重役とゴルフやパーティー三昧にしか見えないくせに、自分に逆らう者や気に入らない者達を中心にリストラを断行したから、余計に反発も大きかった。


 だが、リストラを実行する権限もあるカークに局員達は表立って逆らう訳にもゆかず、最近では陰口を叩くのが精一杯なのだ。


「レベッカ君の説明は分かったが、もっとスピーディーにワクチンの開発はできんのかね?」


「部長・・・。ワクチンソフトの開発は一朝一夕では不可能ですから・・・。」


「そこをなんとかするのが、チーフである君の腕の見せ所だろう?

君達も知っての通り、私は開発畑の人間では無い。むしろ、プログラムに関して言えば、うちの中学生の娘にだって劣るだろうさ。君達が日頃陰口を叩いている通りの人間だ。


 その事は、重々承知しているとも。

 だが、その分、私は部下を束ねて、組織として役立てる方法を知っている。


 現CEOは、私にプログラミング能力は期待しなかったが、会社という組織に於いて部下を活用する事を期待して、私を部長に据えたのさ。

 だからこそ、今は敢えて言わせてもらおう。なんとかしたまえ、と。君達現場に居る開発部門の者達の尻を叩くのが私の仕事なのさ。」

 

「・・・分かりました。


 そこまでおっしゃるのでしたならば、私達もワクチンの開発を徹夜してでも急がせましょう。」


「徹夜は構わんが、体調管理だけは十二分に気を付けたまえよ。

 過労死でもされたら、君の首が飛ぶだけでは済まされんからな。


 君自身も含めて、交代で休みながらでも良いから、作業効率を上げて、開発を急がせたまえ。


 なんなら、もう一チームの人員を増やしたって構わないからな。

 その際には私の名前を使っても構わん。」


 カーク部長が珍しく、自分の名前を使っても構わないと言って来た。


 それは、自分に責任が問われる事を意味していたが、使えと言われるのならば、必要に応じて使おうとレベッカは思った。


「では、次にBチームの状況と、対策について説明したまえ。ロジャー君。」


「はい。俺達のチームでは、お送りした動画と画像にある様に、実際のウィルスが感染するところと症状が表れた状態について検証しました。


 そして、考え得る対策についてですが、既に2つ程考えております。」


「もうかね? それも2つもだと!」


「ええ、2つです。」


「うむ。私にも分かる様に説明したまえ。」


「それでは・・・」


 ロジャーが説明した対策の一つ目は、誰でも合理的に考えれば直ぐに辿りつくであろう答えであった。


【対策1つ目】 SL全体を一度凍結状態にしてしまう。


 ぶっちゃけ、ワクチンソフトなんて開発に時間が掛かる事は目に見えていた。


 現在の問題を突き詰めれば、ウィルスの感染が猛威を振るっており、止められない事。

 であれば、SLそのものを停止させて、すべての化身とそれを操るプレイヤーがログイン出来ない状態にしてしまえば、自ずと感染は止められる。


 感染と食い止め、サーバーが侵食されるのを防ぎつつ、ワクチンの開発をすれば良いのだ。まあ、誰でも考えつく方法であろう。




「この方法でしたら、感染も食い止められますし、ワクチン開発までの時間も同時に稼げます。

 俺なら、確実性を考えてこの方法がお勧めですけどね。」


「・・・。もう一つの方法を聞かせてもらおうか。」




 カークの頭の中では、SL全体が凍結状態になった間に失われる膨大な数の取引によって会社が被るであろう損失額を弾き出そうとしているのが表情からも一目瞭然だ。


「正直、二番目の方法は、一時しのぎでしかありませんし、その意味でも決してお勧めできませんよ?」


「それを判断するのは、君では無い。私だ。

 さあ、いいから早く説明したまえ。」




 ロジャーにしてみれば、親切のつもりで前置きしたのだが、その一言を聞いてレベッカが何か思いついた様だ。


「まさか・・・ アレをやる方法じゃ無いでしょうね・・・?」


「そのまさかなのさ。

 だからこそ、俺としては使いたくは無かったのだけれどもな。」


 ロジャーはレベッカに向けて悪戯っぽくウィンクして見せると、カークに向かって2つ目となる対策について切り出した。


「部長。重ねてハッキリ言っときますけど、この方法は決して有効ではありません。

 むしろ、本当の意味での一時しのぎにしかなりませんからね・・・ 


 それに、やるんなら俺一人の意見では無く、Bチーム全員の意見も聞いてから判断して欲しいと思いますよ。」




【対策2つ目】 問題の先送り


 この後、ロジャーは方法をザックリと説明し終えたが、カークの命令でBチームのメンバーを召集する事となった。昼食を食べ損ねたBチームのメンバーからは恨み言を言われたが、どうせサンドイッチや片手に持って食べられる軽食しか買っていない事を指摘した。 


 その上で、文句は部長に言ってくれと責任転嫁をちゃっかりと済ませてから、何食わぬ顔でカーク部長のところへ戻った。


 そして議論の続きが行われることとなった。




(北米時間)am11:15 



次でラストの予定です

ラスト直前で解決策を…


最終話予約投稿が土曜日0時デス♪



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