表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『Pandemic』   作者: 月夜乃雫
2/23

第二話「現実逃避」

色々モデルはありますけど・・・ 

あまりお気になさらず(汗)


『Pandemic』 第二話「現実逃避」


pm22:13

雪那「いらっしゃい。愛美ちゃん」

愛美「ありがと。雪那ゆきなちゃん」


 いつもと変わらぬ店先に呼び出された愛美の目の前には、ライトブラウン系のショートカットを風にたなびかせた色白の美女が微笑んでいた。ナイトクラブ『現実逃避』のオーナーでありママでもある雪那だ。メンテ終了と同時にログインして店を開店したのだが、今夜も既に多数の客が店内に居る。

 とりあえず、店先でゆっくりと会話するには他の客の出入りの妨げとなるので、店の奥のBOX席へと移動して愛美に事情を聞いた。


雪那「それで、一体どうしたの?」

愛美「雫ちゃが・・・ 急に・・・」

雪那「雫ちゃんがどうしたの?」


雪那にしてみれば、仲良しな二人が急にケンカでもしたのだろうかと心配したのだが、愛美は何かに怯えた様になかなか事情を話そうとしない。


愛美「急に様子が変になっちゃって!」

雪那「え? それって、いつもの悪ふざけじゃないの?」


 雫はいつも『現実逃避』に来ては、「カオスだーっ!!」と言っては同じようなノリの常連客とつるんでは騒ぎを起こす。雪那にとっては、客同士で盛り上げるのは良いが、生まれたカオスを収拾するつもりが無いトラブルメーカーな彼女らは、少々頭痛の種でもあった。


愛美「違うの。そうゆーのじゃないの・・・ だって・・・」

雪那「?」

真弓まゆみ「どう違うんですか?」

みどり 「にゃ?」

若狭わかさ「あたしにも聞かせて」


 雪那と愛美のやりとりを近くの席で聞いていた真弓、若狭、翠の3人も会話に加わって来た。ふんわりした雰囲気をまとった真弓は雪那のパートナーで、クラブの運営に関わっていた。黒髪和服姿の若狭は雪那の盟友であり、自らもナイトクラブ『流氷狐』を開いていたが、営業時間外には雪那の店の常連だった。翠は若狭のパートナーであり、今夜は猫耳姿の美少女系化身で下から愛美の顔を見上げている。


愛美「うん。あたしも全然事情が分かんないんだけども・・・」


 促されるままに、愛美は自分が直前に体験した恐怖を飾らず、そのままに伝えた。雪那達以外にも、店内に集まっていた者達が彼女の話に耳を傾けているのが感じ取れた。信じてもらえるか否かは分からないが、それでも自分の中に抱え込んでいるよりは、話してしまった方が楽だ。スッキリしたい。むしろ誰かに解決してもらえるのならば、誰でも良いから縋りつきたい気分でもあった。


翠 「そんなのどのネトゲでも聞いた事無いね」


 一番最初に感想を言ったのは翠だった。見た目の化身は愛らしいが、彼女が幾つのネトゲの経験者なのか、むしろ何故それ程に様々事情に詳しいのかは不明だが、翠が知らないのならば、少なくともここに居るメンバーの中で事態を把握できる者は居ないのだろう。


雪那「佐武朗さぶろうハルちゃんどう?」

佐武朗「いや。俺も知らないな」

春 「私も知りません。そんな現象聞いたこともありません」


 全身を紺色のスーツにメガネを掛けた佐武朗と呼ばれた男性化身と黒髪美白系の和風美女はそれぞれ雪那に答えた。二人ともSL内でもベテランの方であり、交友関係も広く情報も多いのだが、今回の事例は初耳だった。


春 「雫ちゃんがふざけたにしては、変貌の様子が気になりますし・・・」

若狭「そもそも、そこまで悪ふざけするような子には見えなかったけどなぁ」

翠 「それは私も同意見です。悪ふざけの範疇を超えてますし」

愛美「そーなのよ。いつもの雫ちゃじゃないから困ってるのよ!!」

雪那「実際の姿を見てみないことにはねえ?」

佐武朗「どうやって見るの?」

真弓「TPテレポートで呼び出しちゃうとか?」

雪那「危ないでしょう」

愛美「あたし呼びたく無い!!」

翠 「それじゃあ、予めカゴを作っておいて、その中にTPで呼び出しちゃえば? すぐ

   閉じ込められるしw」

若狭「翠は、また小悪魔みたいな事考えてw」


 それなりに準備も簡単で現実的と思われる提案に、その場にいた全員が賛同した。翠は早速自分の持ち物の中から、深くて外へ逃げにくいアイテムを探し始めた。


翠 「でーっかいツボなんてどうかにゃ?」

若狭「いいんじゃない?」

雪那「そうね」

佐武朗「賛成」


 近くにいる者達が誰も意義を唱えなかったので、翠は自分の持ち物(通称:インベ)の中から落ち込んだら脱出が困難と思える大きな壺を店の床に出現させた。


春 「かなり大きいですね」

翠 「うん。以前自作してみたんだけど、インテリア用には小さいサイズにして、コレはお遊び用にゃ」

雪那「そっかw」

愛美「こんなんで本当に大丈夫なのかなぁ」


 未だ実際の異形な雫を見たことのない雪那達の呑気な様子に、愛美は一抹の不安を感じずにはいられない。店内の他の客たちも壺の周りに集まりだしてきた。男女の化身の他にタイニーと呼ばれる動物系着ぐるみみたいな化身も混じっている。


瑞人ミズト「なんですか。これは?」

えい「壺だろ?」

矢唖やあ「そうみたいね」

トウ「うむ」

夜目ヤメ「・・・」


 壺を出すに至った事情を佐武朗が説明し、周囲に集まった者達もそれなりに事態は把握したらしい。だが、やはり実物を見なければ誰も信じてはいないようだ。


衛 「化身が変身するって、なんか装着でもしたんじゃないですか?」

統 「我輩もそんな事は聞いたことがないである。」

夜目「・・・」

瑞人 「夜目さんさっきから黙ったまんまだけど、変な物でも食べましたか?」

夜目 「・・・。嫌、土竜ってそもそもしゃべらないし?」

瑞人 「なりきりでしたかw」

夜目 「・・・うん、佐武朗さん後ヨロ」


 可愛らしいもぐらタイニーの夜目は、その一言でその後の会話には加わらなかったが、普段から無口で通しているし、佐武朗も事情は知っているらしく、話を受け継いだ。


佐武朗「とりあえず、俺もすぐには信じられないから、確認のために雫ちゃんを呼び出してみようよ」

春 「実は、愛美さんから話を聞いてからずっと(ささやき)で呼び続けているんですけど、様子が変なのは本当みたいです」

雪那「どんな風に?」

春 「会話がかみ合いません」

瑞人「失礼だけど、それは通常運転なのでは?」

春 「確かにその通りです。でも、普段ならそれなりにちゃんと辻褄が合う会話なんですけど、今は・・・ こんな感じなんですけど」


> pm22:18(ささやき)春「雫ちゃん?」

> pm22:18(ささやき)雫「・・・w」

> pm22:18(ささやき)春「大丈夫?」

> pm22:18(ささやき)雫「グフ・・・ グフフ・・・ グヘヘヘヘ・・・ あ。 と。 ンーーー♪」

> pm22:19(ささやき)春「本当に何かあったの? 皆心配してるよ」

> pm22:19(ささやき)雫「・・・・・・・・・」

> pm22:19(ささやき)春「文字化けかしら」

> pm22:19(ささやき)雫「ン フ フ フ フ フ フ フ フ フ フ フ フフフフフフフフフふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffff・・・・・・・・・・・・・・」


 春が集まった者達に分かるようにとささやきチャットの会話履歴をコピー&ペーストして開示した。


愛美「・・・雫ちゃ」

若狭「ネオチして同じ処押し続けてるとか・・・ ないわよね?」


 SLの会話は基本チャットなので、若狭の指摘もあり得ない訳ではない。都市伝説ではあるが、寝落ちしたプレイヤーとの会話が、絶妙な船漕ぎ運動が生み出すタイピングによって、あたかも成立したかのような錯覚を覚える事態も稀にあるらしい。


 だが、それも意識を失ったプレイヤーがキーボードから離れるまでの短時間であろうから、雫が乱打したとしか思えない不気味笑いはあり得ない。


cocoaココア「やだぁ キモチ悪い!!」

Milliミリ「ちょっ・・・ こんな人をここに呼ぶんですか?」


 壺を囲む20数名程の化身達の中でも、女性化身を使う者達から率直な声があがった。少し背の低いサイドテールのcocoaと対照的に大人の色香を漂わせているミリは、壺からなるべく離れながら雪那を見つめた。


雪那「ココアさん、ミリさん。確かに今の(ささやき)のログを見る限り、雫ちゃんが普通じゃなさそうだと私も思います。愛美ちゃんが言う通りだとすれば、尚のこと、事態を正確に把握したいと思うのです。怖い人は他の場所へ一時的に避難しても構わないので、協力してもらえませんか?」


 そうは言われても、つい先程の愛美からLMが使用不能と聞かされ、その場に居合わせた全員が自分のインベから試したばかりなのだ。何度試してみても結果は愛美の言う通りだったから逃げろと言われても、落下くらいしか選択肢も無い。二人は顔を見合わせると、数瞬迷った後。


cocoa「そう言われるなら・・・」

Milli「私も何が起きているのか興味はあるので、少し離れて見てていいですか?」


 二人は、いざとなれば逃げる算段をしながら壺が見える位置で様子を伺う事にした。


翠 「それじゃー 壺の前に雪那ちゃんと佐武朗さんが立ってね。いざとなったら、皆で一斉攻撃にゃw」


(愛美)-そういえば、クラブ『現実逃避』があるエリア51島は、ダメージ判定アリな場所だった。しかも、クラブそのものがsky-boxスカイボックスと呼ばれる地面から2,500m浮いた場所に設置されていたのだっけ・・・-


 ぼんやりと現在のクラブがある場所を思い出しながら翠の指示を聞いていた愛美だが、内心やはり雫のおぞましい姿は二度と見たくはない。


 ちなみに一斉攻撃と言ったが、SL内で他のプレイヤーに向けて銃火器や刀剣を使うことが可能なので、それらを使って雫を皆で一斉に攻撃するつもりらしい。


 壺の周囲から2,3数歩の距離には、雪那が連射可能な銃と刀を構えた佐武朗の二人が壺の左右に立ち、更に数歩離れた場所には、自主的に銃やら刀やらを構えたギャラリーが立ち並ぶ。


若狭「ちょww 皆好きねー」

翠 「そーゆー若狭ちゃんもしっかり物騒な物構えてるのにゃw」

佐武朗「ソレってM134機関銃?」

若狭「まーねw」


 若狭は着物姿であるにも関わらず、両手で下げるような大きなマシンガンをフルオートモードで壺へ銃口を向けていた。


雪那「今度売り場教えてね」

若狭「後でLM渡すわw 使えるようになったら行ってみて。他にも色々あったからw」

雪那「ありがとう」


 実際に雫の変貌を見ていない者達には、愛美の伝えた内容は未だに把握し切れていないのか、先程から暇つぶしの自主イベントの様な空気すら流れている。緊迫感が無いにも程があるだろうに、隣の化身が持つ銃火器をチェックしたり、自分の刀を自慢する者まで現れる始末だ。


Milli「映画で使われてた光剣よ~♪ 実戦で使うのは今回が初めてだわw」

cocoa「そんなのよく持ってたわね」

Milli「ふふふ、あたしの名前の由来、ココアちゃんに教えてたっけ?

cocoa「ううん。どんな由来なの?」

Milli「militaryよw」

cocoa「そうなんだ」


 言われてみれば、以前から少しゴッツイ感じで上背も高めにしてるなと思っていたら、ミリタリー系が好きな女子だったようだ。光剣だけではなく、見たことがあるような有名な小銃も片手に握っている。両手に武器だ。


Milli「ココアちゃんにもあげれるといいんだけど、この光剣って譲渡不可なのよねー」

cocoa「私は別にそーゆーの欲しいとは思わないから」

Milli「でもしっかりベレッタ握ってるじゃんw」

cocoa「護身用ですから」


 先程まで怖がっていたと思われた二人も、遠巻きにしながらもちゃっかり光剣や銃を握りしめて雫が呼び出されるのを待っている。


愛美「ねえ、このまま雫ちゃ呼ばないでおこうよ」

雪那「それはダメよ」

若狭「そうそう、日頃この店で騒いでる雫ちゃんを少し懲らしめる意味でもここに呼ばなきゃw」

翠 「緊急自主イベントにゃw」

春 「暇そうな友達でも呼びましょうか?」

真弓「それいいですねw」


 根が真面目な春なので、冗談では済まなさそうだが、雫を呼んで結果として何もなければこのまま通常通りクラブ営業を続ければ良いのだ。客数も稼げて一石二鳥なのだから。真弓がそこまで計算したかは分からないが、春は(ささやき)で友人たちに呼びかけているらしい。真弓は雪那から3歩程下がった場所で薔薇が刻印されている愛銃を構えた。


 迎撃部隊は万全。舞台ステージは整ったようだ。後は主役しずくを呼び出すだけだ。pm22:25、誰がフルボッコにされる悲劇の女優ヒロインを呼び出そうか。






更新ゆっく~りです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ