第十二話「四天王と鉄壁の守備」
第十二話「四天王と鉄壁の守備」
am0:44
愛美達がクルミン島群に到着して話し合いをしていた頃、隣のArea 51島へと滑空しながら高度を下げていた日の丸エアフォースワン内では、雫2が扉を引っ掻く作業を止めていた。そればかりか、機内にはいつの間にやらアイツらと化した者達の姿が・・・
どれも皆異形の姿に変わり果ててしまっている。顔はアラバスターの様に白く、血の気は無い。口からは乱杭歯が剥き出しになり、リビングデッドという表現がピッタリだ。そんな者達が檻の中に閉じ込められた野獣さながらウロウロしながら吠え合っている。
佐武朗「ウガ!ウガウガ!」
春 「グルゥグルグル」
Milli 「ガルルルルル! グルガル!!」
衛 「ハッフー」
矢唖 「ガガガガガ」
統 「ガルルルルル」
夜目 「ウグルル」
瑞人 「ゲゲゲゲゲ!」
『現実逃避』でアイツら化した者達が機内に溢れていた。cocoaやMilli、他にも襲われた新人2名に加え、他にも大勢の化身達が日の丸エアフォースワンに乗り込んでいた。
だが、このままでは行き先は一つだけ。そう、滑空しているのであって飛行している訳では無いし、操縦者も脱出してしまった現状では、そう長くは無い時間で地面へと墜落してしまうだけなのだから。
アイツら化してしまった化身達が道具を操っている姿は確認されておらず、人を見れば襲い掛かって来るだけなので、知能すらも残っているやら。そう考えたからこそ、翠達は飛行機を乗り捨て、雫2を強制的にArea 51島へ戻す道を選んだ。
雫 「グルル? グルッグルルルルルルー ウッガァァァーーー」
アイツら「「「ウッガァァァァァァッーーーーーーーーー!!」」」
どうやら、雫のオリジナル化身が乗り込んでいた様だ。ソレなんてクイーンエイリアン?とツッコミを入れたくなるような感じで吠えた。単に異形の姿になっても本能で目立ちたがりなのか。人語でさえ不自由であった彼女だが、獣の姿でちゃんと意思疎通が出来ているのだろうか。
もし、この機内の様子を翠達がモニターしていたならば、獣と獣が吠え合っている様にしか見えなかった事だろう。
というか、ハイエナとかジャッカル等の群れが、何やら合図を送り合って見えたならばまだ好意的という表現が当てはまる様な状況だった。それとも群れによる遠吠えか? 状況は混沌としたままで、先が見えにくい。いっそこのまま機内に引き籠っていてくれれば面倒は無くなるのだろう。
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am0:49
クルミン1は、長方形に連結されている島群の中央に位置していた為、隣接する島からアイツらが攻めて来た時に、一番安全だと考えられていた。テレポートもランドマークも使えない現状では、地続きとなった島からの徒歩か走る以外の侵入方法が無いと思われる。
その前提であれば、島境に先程通って来た様に壁とゲートを設けた事で、アイツら化した者達を遮断出来た。後は、島内に住む者達が、勝手に友人を呼び込まなければ、騒動が沈静化するまで島群内で籠城しておれば良い。
今回の騒動が起きてから、久留美は素早く島群を孤立させた。四天王をはじめとする住人達に海外の友人から仕入れた情報を基にして、設定メニューに不審な項目を見かけても絶対にクリックしない事、友人を呼び寄せる前には必ずささやきにて状態を確認してからにする事、呼び寄せる際には、四方を壁に囲まれた場所でだけ等の条件をグループチャットを使って布告した。
同時にグループインフォにもノートカードを添付して、情報の共有化を図ったのも功を奏した。
ちなみに、四天王は、あくまでも自称だがクルミン島群のように広大な島々を所有している久留美にとっては頼りにもなり、オフィサーとして雇用してもいた。
名は体を表すとも言うが、それぞれ春夏秋冬の一文字を用いているが、結構性格も当てはまっているようだ。
のんびりした性格で、化身もどこかぼんやりして見える中背で優男風の春鬼。
ひたすら明るく、時に苛烈なところもある長身でがっしりした体躯の夏鬼。
冬鬼とも気が合い。初霜の冷やかさを持ちながら、時に穏やかな人柄を感じさせる秋鬼。
凍てつくオヤジギャグとセクハラ発言で女性陣から冷やかに見られがちなスケベ中年を思わせる冬鬼。
なんだかんだ言いながらも、四人共仲は良く、息も合っているし、住人からの信頼も厚いらしい。そんな彼等が初動から上手く対応してくれたので、現時点ではクルミン島群内にアイツら化した住人はゼロだ。どのゲートからも侵入の報告も受けていない。
そうした対策を施してから、手の空いた住人の協力で壁とゲートを設置して、自警団を組織し終えたところへ愛美達一同が装甲車でやって来た。そこへノリの良すぎる四天王と自警団のメンバー総勢10名程がモヒカンと鋲の付いたジャケットを着用して取り囲み、翠からハリセンツッコミをお見舞いされたお陰で緊張やら不安なんかも程良く解き解されたみたい。何が幸いするか分からないものですね。
到着した一同は、休憩と打ち合わせを兼ねてカフェに居た。南国をイメー-ジした壁もドアも無い、オープンテラス形式の店舗は、屋根とヤシの木が適度に植えられており、店内には、半円形のカウンターを囲むようにイスが並べられ、背の低いブース毎に区切られたテーブル席も設けられていた。
スタッフは常駐している訳では無いが、初心者を含めて誰でも好きに店員の真似事をしても良い事になっていた。その変わりチップジャーは自前で用意するシステムだ。
そこに、犬耳姿の美女やらエルフ姿の美少女、長身の女性型ロボットの店員がメイド姿で集まった者達に飲み物を給仕している。
犬耳 「翠ちゃんはブラッドオレンジジュースで良かったかしら?」
エルフ「愛美さんはピンクグレープフル-ツですね」
ロボ 「雪那さん、若狭さん、真弓さん、レッドアイお待たせしました」
久留美「わたしには、カルーアミルクお願いね!」
エルフ「承りまりしましたー」
四天王「「「我らにはお姉さんのミルクでー!!」」」
エルフ「承っておりません!」
犬耳 「メニューにありませんから!!」
ロボ 「機能が付いておりません」
翠 「ソレって・・・ セクハラってゆーんじゃ?」
四天王「「「失礼しましたーっ!!」」」
ジト目で翠に睨まれた四天王は縮こまってジャンピング土下座を決めた。
一糸乱れぬ姿は、予め打ち合わせと練習を繰り返していたのではと疑うほど見事であったという。そんな疑問は置いといて、真面目な打ち合わせをしたいところだ。
雪那 「先程移動しながら情報交換は少し行えましたが、この島は一番安全な場所なのですね? 例え、アイツらが攻めて来たとしても大丈夫だって聞きましたけど?」
久留美「ええ。ここなら大丈夫ですよ。クルミン島群12の島の中央に位置しており、他所のオーナーさんが所有している2か所の島との境には全て壁とゲートを設置済です。
例え、アイツらが壁やゲートのある島を越えて来たとしても、このクルミン1に来るまでには時間が掛かるハズですから。この島へ通じる全ての島にも同様に壁とゲートが設置され、各島に駐屯している自警団が相互にテレポーターで迎撃、避難が出来る様にしてあります。
この島にアイツらが辿り着く前に、反対側の島へと避難して行けば、決して捕まる事は無いでしょう。そのうちに、オーク社が何らかの対策を打って来るでしょうから、私達はそれまで逃げ切れば勝ちです!」
四天王「「「パチパチパチパチパチーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」
春鬼 「流石は久留美サンですーーーー!!」
夏鬼 「完璧ですな!」
秋鬼 「オレ・・・ この戦い終わったら久留美さんに告白するんだっ!!」
冬鬼 「いいや拙者のヨメでござるーっ!!」
四天王「「「いやいやいや。
いやいやいや。
僕の!俺の!オレの!拙者のっ!!
ヨメだ!」」」
久留美「誰のヨメでもありませんから! わたしには旦那という心に決めた人が!!」
四天王「「「へーい」」」
ちょっとヲタっぽくヨメヨメ言い出した四天王にサクっと釘を刺し込みつつ、久留美は既婚者だと告げた。まあ、RL既婚とかプライベートに関わる部分についてはあまり公にしなくても良いのだが、堂々と宣言する人も居れば、内緒にしたまま独身を気取るプレイヤーも居る。疑似恋愛を楽しむ強者も居るらしいから、楽しみ方はそれぞれなのだろう。
ともあれ、久留美が自信を持って言い切ったからには、少なくとも時間稼ぎ位は出来るのだろう。最悪でも、その稼いだ時間で他の島へ逃亡すれば良い。
実際のところ、愛美達がクルミン1に到着するまでに、幾つもの壁とゲート、自警団が屯している姿を目にして来た。戦闘行為が苦手な愛美を含んだ現在のメンバーでさえここまで逃げて来られたのだから、クルミン島群に住む者達の中でもきっと格闘系やモノ作り系が得意な住人達が居て、対策を施したのだから、きっと大丈夫なのだろう。
事実、このカフェでは、誰もが寛いだ姿でのんびりとしているではないか。ここに居さえすれば、アイツらとて襲っては来れないのだから。
愛美 「あ。それじゃー次はあたしもカルーアミルクで!」
翠 「次はキャツアイにゃ!」
若狭 「んじゃー ブラディーマリー」
雪那 「私は、シャンディーガフお願いします」
真弓 「私も雪那ちゃんと同じので」
まあ、SL内でお酒を飲もうが、食べ物を食べようが、実際には何の影響も無いのだから、現実ではどれ程度数の高いカクテルでも、高カロリーな食べ物でも、化身が口にする姿を見るだけ。RLには何ら影響が無い。でも、気分は味わえるので、化身に飲食をさせる事を嗜む者も多い。
雪那 「ところで、夢羽さん。騒ぎの時に不在だと思ったらこちらの島に来てたのね」
夢羽 「そーなの、まさかあたしも自分の島であんな事が起こるなんて・・・」
真弓 「ご心中お察しします」
カウンターに席に座って居る一人の妙齢の女性化身が答えた。夢羽はArea 51島のオーナーで、久留美とも交友がある様で、騒動が起きた時には、丁度このカフェで寛いでいたそうだ。『現実逃避』でアイツら化したMilliはArea 51島のオフィサーの一人でもあったので真弓はその事に触れたのだろう。
島の運営には、オーナーが一人だけで住人に賃貸させている島もあれば、オフィサーという肩書を与えて、通常の住人よりも多くの権限を付与する事で、維持管理を補佐する事も出来るのだ。そうして複数のオフィサーを雇用してオーナー不在の時のトラブル管理や新たな住居希望者との連絡等を任せる者も多い。
夢羽 「Milliからささやきで状況は少しだけ聞いてたけど・・・ 落ち着いたら連絡するって言われてそれっきりだったの・・・」
愛美 「Milliさん下に降りてからそれっきりだったもんね・・・」
アイツら化してる確率が高いのでこれ以上は言っても仕方ないのだろう。
夢羽 「とにかく! ここなら安全だわ。久留美さんはあたしよりもずーっとしっかりしてるし、島の数もだけど、住人もすごい人多いからね!」
久留美「ありがとう。でも、あなただけでも避難出来ていて良かったわ・・・
犠牲になった人達には悪いけど・・・」
夢羽 「仕方なかったのよ・・・
事態が収束すればきっと・・・」
翠 「絶対終息するにゃ!
オーク社だってユーザーが離れちゃったら困るハズにゃ!」
愛美 「そうね・・・」
なんとなく場が沈んだ空気に包まれてしまった。
非常事態でもあり、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。
愛美 「こんな時、雫ちゃが居れば・・・
きっと馬鹿なコトゆって笑わせてくれたんだろーなぁ・・・」
雪那 「そうかもしれないわね・・・」
夢羽 「・・・でもソレって ・・・・フラグって言わないかしら?」
確かに、夢羽の言う通り。その場に居ない者の噂話をすると、あら不思議、どこからともなく本人が表れる。世に言う「噂をすれば影が差す」とは一種のフラグと言えるだろう。
久留美「コホン。ここはきっと大丈夫ですから。
さ、貴方達! 休憩は終わりにしましょう!
各自持ち場に戻ってください!」
四天王「「「イエス! マム!!」」」
異口同音に威勢良く告げると、一瞬で四天王がその場から消えてしまった。先程説明のあったテレポーターを利用して持ち場とやらに移動したのであろう。それなりにイケメン揃いだった四天王が去ってしまうと、店内が少し寂しく感じるかもしれない。でも、今はそれどころではないのだから。騒動が終わった後で遊びに来れば良いのだ。
am1:04
雪那 「四天王さんの持ち場って?」
久留美「それぞれの島境を護るゲートの事です」
久留美の説明によると、クルミン島群に壁とゲートをそれぞれに設け、四天王は最も隣接する島側緩衝地帯としてゲート4か所をそれぞれが担当しているのだそうだ。
たまたま非常招集の訓練を兼ねてゲートまでのテレポーターに集結して対処するつもりの所に、愛美達が装甲車で乗り付けたので、四人が一堂に会したそうだ。
ちなみにそのタイヤが多くてゴツイ感じの装甲車はカフェの隣に置いてあるが、平和な南国カフェとの場違い感が半端無い。まあ、SL内では住人の無頓着で良く見かける風物詩とも言えるでしょうけど。
話を戻すと、四天王が外郭ゲート4か所を監視しながら守り、内郭も住人が結成した自警団が武装して守っている。アイツらが攻めて来たら、近場のテレポーターで増援も可能なのだから、まさに準備万端、鉄壁の守りだ。もっと高さを増せばきっと空にそびえる黒鋼のナニカに見えるかもしれない。
久留美「そういえば、カフェで今日働いてくれているスタッフの紹介まだでしたね。
犬耳女性が櫻さん、エルフが沙希さん、ロボが桃山桃
さんです。」
櫻 「いざとなったら、武器で闘いますの」
沙希 「私も少々お付き合い程度であれば」
桃山桃「ワ・タ・シ・モ・戦え・マス」
一同 「「「はじめましてーよろしくお願いします」」」
最後のロボだけ何故急にロボ口調に? まあいいけど。
改めてカフェスタッフとも挨拶を交わし、歓談を続ける。
本当にここなら安心できそうだ。
それならば、久留美の言う通りにオーク社が何らかの対策を打ち出して事態が収束するまでこの場でのんびり待てば良いのだから。果報は寝て待て? あ。寝ちゃったらダメなパターンかもしれないので、ガンガッテ起きて待つのだけども。愛美の心にも穏やかな気持ちがようやく戻ってきた。
それから何やかんやで30分程を掛けて、愛美達一同からの情報提供と久留美らによる対策と避難場所の情報を交わし、話も大分雑談が多くなってきたので後は解散して各自で自由に行動しようという話しが纏まり掛けた時だった。
翠 「・・・・ウソにゃ!!」
若狭 「え!?」
雪那 「ウソって?」
真弓 「何がウソだったんですか?」
愛美 「?」
久留美「・・・・・・・・ウソッ!?」
沙希 「・・・・どうやら悪い知らせのようです」
一同 「「「えっ!?」」」
久留美の表情が陰っている。オープンな会話では何ら問題になりそうなものは無かったので、ささやきによる良くない報せだろうか・・・。不安が綯交ぜになったまま時は刻まれる。
am1:34
あくまでもフィクションですから!
実際の団体とか人物とは一切関係ありませんから




