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『Pandemic』   作者: 月夜乃雫
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第一話「始まりは好奇心から」

 実は、以前某SNSで連載していたのですが、諸事情(恐らく廃れた)によりSNSそのものが消滅してしまい、書き溜めていた原稿も同時に綺麗さっぱり失われてしまいました。そこで、今回リベンジと言いましょうか、完結する事無く消えてしまった作品を若干変更等加えて再挑戦したいと思います。

※試行錯誤しながら書いているので、修正・変更が後から加わるかもしれません。

『Pandemic』第一話「始まりは好奇心から」



愛美アミしずくちゃ・・・ どーしてこんなコトに・・・・・・ もぉ・・・ 嫌だよぉぉっ!!」


雪那(ゆきな)「アミちゃん! しっかりしてっ!!」


真弓(まゆみ)「そうよ! 早くしないと・・・ アイツらがっ!」


若狭(わかさ)「コッチよっ! その先で曲がればなんとか!!」


翆(みどり) 「アイツら来るよっ!!」


 全力で人気の無い街角を走り続ける美女が4人。

 後ろを気にしながらも立ち止まることは許されないのだ。


 最後尾を走る翠から弓を弾けば届く程の後方には、有象無象な群衆が吸い寄せられる雲霞の如くに彼女達へ駆け寄ろうとする。だが、群衆の様子が尋常では無い。


 どの目も焦点が合わず、曇り硝子のように澱んでおり、顔はアラバスタの様だ。歩く足も千鳥足の様でありながら、その割に早い。前傾姿勢のまま、無表情で突撃して来る口元には、異様に伸びた乱杭歯が怪しく光る。


愛美「雫ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

愛美の叫び声が虚空へ霧散する午前2時。





prologue


pm22:00|(システム一斉通知)

「I updated the system. If you terminate by a method other than logout, the data disappears. Shutdown should not be done.」


『システムを更新した。ログアウト以外の方法で終了するとデータが消滅する。シャットダウンはするべきではない。』




pm22:05『雫(しずく)の巣』


 雫(しずく)は、7つの巨大な大陸から名付けられた「Seven's-Leaf(セブンス・リーフ)」通称SLと呼ばれるネトゲ内では、それなりにベテランと呼ばれるプレイヤーの一人となってしまった。


 正確には、登録してから数か月程のブランクはあるのだが、経過した年月だけ見るなら、5年は遊んだことになる。SLは北米企業エバーグリーン・オーク社(通称:オーク)が開発し、バーチャルリアリティー|(VR)を楽しめるという触れ込みで、世界中にプレイヤーが拡がった中堅クラスのネトゲである。


 日本で公開された当初は、VRそのものよりも、『RL(リアル)マネーとネトゲマネーが両替可能』とか『自分で作成したアイテムが販売可能』、『美しく飾ったアイランドが高値で転売出来た!!』などという当時の常識では考えられないようなシステムが話題となり、大勢の新規登録者や企業が宣伝目的で島(アイランド)を作成したのだが、如何せん自由度が高過ぎたせいか、いつの間にか廃れた。


 現在では、「オワコン」とか「クソゲー」、「ネトゲを利用した出会い系」などと言われるのが日本での正当な評価と雑誌で叩かれている。


 しかし、物好きや化身(アバター)のカスタマイズの自由度の高さなどを好む者達が集うネトゲとして現在でもそれなりに楽しまれている。


 親友の愛美とは、ここ2年ほど共に過ごす時間が長い。SL内にはパートナーシステムがあり、気に入った異性や同性とも結ぶことが可能だが、この二人はそのような関係ではなく、遊び仲間だった。


雫 「ねー アミちゃ~ぁ・・・」

愛美「なぁーにぃ~ シズちゃぁ~?」

雫 「退屈だぉーっ!!」

愛美「あたしに振るなよぉー」


 愛美の方が雫よりも登録年月は2年程若い。必然的にSL内の情報量も雫の方が握っているだろうに、面倒臭がりな彼女は、何かと愛美に甘える時がある。が、今夜は乗り気では無かった。


雫 「仕方ない。インベの整理でもしてよっかなぁー」

愛美「あー ソレあたしもしよっかな?」


雫 「そゆえばさ、愛美ちゃ」

愛美「なんぞ?」


雫 「INする直前、なんかメンテあったわね? 電源切るなとか?」

愛美「あったあった。おかげでINするのに少し待たされちゃったし、変な通知も出てた」


雫 「臨時かしら? なぁーんも通知無かったーね?」


 通常であれば、SLでメンテナンスが行われる場合、事前に通知があるのだ。


 だが、今夜は珍しく一報すら無かった。メンテナンスには、二種類あり、運営会社であるオーク社が行う「公式メンテナンス」とオーク社以外の企業や個人が所有する大小の島(アイランド)によるメンテナンスだ。


 今回の場合、全ての島がオフライン表示だったことから、大規模に行われたメンテナンスであろうことは予想が出来る。だが、その割には何ら通知が無い事が気にかかるところだ。


雫 「オークめぇー ユーザー様を待たせておいて、お詫びの一言も、なぁーんも無いつもりね?」

愛美「ソレな! てゆーか通常運転じゃね?」


雫 「ですよねー」


 α版と呼ばれる課金システム利用なプレイヤーも多数存在する中で、碌に課金もせず、試用でもあるβ版のまま遊んでいる割に、でかい態度な雫に比べ、少額とはいえRL(リアル)マネーを課金してα版で遊ぶ愛美にとっては、やはり欧米型企業の対応は不親切に見えてしまう。


 だが、それでも遊ぶのだから愛着があるのだ。


雫 「ぉ?」

愛美「どたの?」


雫 「なんか見た事無いの見つけたぉ?」

愛美「どんなの?」


雫 「んー あたし米国語べいこくご苦手なのよねー 学生時代はテストマジ赤点だったしw」

愛美「マジか てか米国語ゆーなw」


雫 「うんww」

愛美「せめてどこで何を見つけたか位ゆえないの?」


雫 「んーとねぇー 『環境』のトコに見たことない米語あってぇー」

愛美「・・・。」


雫 「べ・・・ べすと? あw BEASTビーストだわw」

愛美「BEAST? 聞いた事無い項目ね?」


 臨時と思われるメンテが終わって、やっと遊べるのに、メンテ終了後は所々オフラインのままになった島も多い。


 仕方なく所有しているアイテム整理でインベントリの整理を始めたハズの雫から、聞き慣れない単語がネトゲの設定項目に加わっていると聞かされた愛美の耳にBEASTは不吉な呪詛めいたモノを感じた。


愛美「ねぇー シズちゃ~ ソレ放っておこうよ?」

雫 「えー 面白そーじゃん?」


愛美「んじゃーさー 誰か試した人から感想を聞いてからとか、ブログ掲載されてから試してみたら?」

雫 「えー」


 好奇心旺盛な雫の事だから、強く止めなければ必ず自分で試すと言い出すだろう事を予測した愛美は、必死でその試用を留めさせようとするのだが・・・。


雫 「うし! SLで最初にBEASTとやらを使った子として、レビュー書くことにするよ!!」

愛美「お願いだからヤメテ・・・」


雫 「ポチッとなw」

愛美「ボスケテーッ」


 誰に届くでも無いだろうが、思わずどこかの板で時々見かける要救助な単語をつぶやいた愛美であった。


愛美「シズちゃ?」

雫 「・・・・・・」


愛美「ねぇ?」

雫 「・・・・・・・・・・・・」


愛美「ネオチ?」

雫 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 常ならば、愛美の些細なボケにも「違うわぁー」とツッコんで来るハズが無反応だ。


愛美「ねぇ? どしたの? なんか答えてよ?」

雫 「・・・ゲ ・・・て ・・・!!」


愛美「シズちゃ?」

雫 「ニ・・・ g ・・・ a て ・・・ ア・・・ @ ャ・・・!!」


愛美「え? なんてゆったの?」

雫 「ニゲロ!!」


愛美「ホワッ!?」


 愛美が見つめる先で、愛らしかった雫の顔が歪み、肌が内側から漂白されてゆくように血の気が失せる。化身の編集画面ではあり得ない急変に、現状が把握できないので、ただ茫然とするしかない。


 無論。通常のSLの仕様ではこの様な変貌はあり得ないのだから。


雫 「グル・・・ ル・・・ ル・・・ ル・・・ ガァッ・・・」

愛美「シズちゃ・・・?」


雫 「・・・」

愛美「なんか変だよ? どしたの? 具合でも悪いの? なんか答えてよぉ!!」


雫 「ダ・・・ メ・・・ 」「抑え・・・ 」「らんない・・・ 」

  「逃げ・・・ てぇぇぇ・・・」「コッポゥッ・・・」


雫 「ガ・・・ ハァッー!!」


 薄く塗ったルージュが消え、醜い乱杭歯が雫の口元に出現した。元々が美白を好む子だと思っていたが、今は美白で済まされるレベルではなく病的な肌の色との組み合わせは最悪だ。


愛美「コレって・・・ 悪い冗談か何かよね?」

雫 「・・・ コッチに ・・・グフw」


愛美「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 もはや鉤爪としか形容しようが無い凶器を備えた手刀が先か、叫び声をあげながらも全力ダッシュし、刹那の瞬間に上空3500mにあるSky-boxと呼ばれる雫の自宅エントランスから文字通り飛び出した。


愛美「ナニアレ? 

ナニコレ!?

 ちょっシャレんなんないんですけど」


愛美「どーしよ? 何が起きたんだろ?

 誰か分かる人居ないかしら・・・」


 鳥人間。RL世界では、コンテストを行ったり、機材や仰々しい道具が無ければ人は飛べない。だが、SL内では違う。人は空を自由に飛び回る事も出来れば、水中で何時間でも過ごせるのだ。


 ネトゲだからね。愛美は、落下しながら、飛行モードに切り替えて、連絡相手を探そうとした。  


愛美「ほぇ!?」


 ベチッ!!


 次の瞬間。愛美は自分が飛行できず、自由落下によって地面に叩きつけられた事を知った。


 ダメージアリ設定の島だったら死亡判定でホームと呼ばれる地点へ強制帰還させられるところだったが、この島はダメージを受けてもライフが減らない。


愛美「ココって飛べない島だったかしら?」


 島の設定は様々可能なので、ダメージ判定以外にも、オーナーの気分次第で「飛行禁止」「アイテム作成禁止」「アイテム侵入禁止」など結構細かく決める事が出来る。


 雫の住んでいた島は、飛行禁止区域は無かったハズだと思っていたが、いつの間にか設定変更されたのだろうか?


愛美「雫ちゃは、未だ上空のままね・・・ 今のうちに」


 ミニマップと呼ばれる地図には、友人とそれ以外の化身が色分けされて表示される。しかも、自分が居る位置と相手の高低差まで分かる仕様だ。雫を表す橙色はヘの字形で上空に居ることを教えてくれた。


 これが同じ高さならば丸で表示される。自分と同じようにダイブするかテレポート(TP)で一瞬のうちに移動されてしまっては怖い。


愛美「テレポート|(TP)!?」


 自分でも何故こんな基本的な移動手段を思い出さなかったのか。人間咄嗟の時ほど思考が狭まってしまうのだなと、ぼんやり思いながらも登録地点を保存し、押すだけで移動可能なランドマーカー|(LM)を持ち物の中から探すとすぐに目的の場所へ行ける。


愛美「よし! コレですぐにここから逃げれるわ」


 ところが期待に反して、LMを何度押しても、反応が無い。壊れてしまったのだろうか? 


愛美「なんで? コレってバグか何かなの? オークめぇーっ!!」


 焦る気持ちは解決よりむしろ怒りを駆り立てる。SLを開発し、運営しているオーク社に対してこの怒りをぶつけるのは正当なのだろうか。一人ツッコミを心の中でしながらも、どうすれば?


pm22:10(ささやき)雪那『愛美ちゃん?』

pm22:10(ささやき)愛美『雪那ゆきなちゃん?』


pm22:11(ささやき)雪那『今大丈夫? お店に呼ぼうと思ったんだけど』

pm22:11(ささやき)愛美『大丈夫! てか、早く呼んでちょうだい!! 助けて』


pm22:11(ささやき)雪那『いいけど、どうしたの? 何かあったの?』

pm22:12(ささやき)愛美『事情は後で話すから、今は呼んで!早く!!』


pm22:12(ささやき)雪那『わかりました』


 雪那は、愛美よりも1年だけ先に登録しており、SL内でクラブ『現実逃避』を経営している。何度かスタッフにと誘われていたが、遊んだりショッピングする時間が減るからと断っていたのだが、今は一刻を争いそうだ。雪那のささやきが有難かった。


 通常のチャットと別に、SLでは対象となる化身が近くに居なくても会話することが出来る『ささやきチャット』(通称:ささやき)がある。そして、化身のプロフィール欄には、どれ程遠く離れた人でも、自分の元に呼び出す事が出来る欄があるのだ。


pm22:13(システム)『雪那さん があなたを『現実逃避』に呼び出そうとしています』


 愛美は迷わず『受け入れる』を選択し、雪那の元へ移動した。





※この作品は、フィクションであり、実際の団体・会社・個人・ネトゲ・プレイヤーなどとは一切関わりがありません。作中の思想・セリフも作者の主義・主張でもありません。あくまでも作品としてのものです。

※若干の暴力的・ホラー要素もあるので、R15とさせて頂きます。


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