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異世界テンプレは病んでいる~果ては治療か洗脳か~  作者: 卯月 みつび
第一章 雷撃は、笑顔と快感をもたらす
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3

 ようやく宿にたどり着いた二人は、夕食を堪能し、そして眠りについた。当然、別の部屋である。ディアナはどちらでもいいと言ったのだが、亮が断ったのだ。

「なんで、男のあんたが断るのよ! っていうか、私のアクセを売ったお金なんだから節約しようとか思わないわけ!?」

「いや、どうせ一緒の部屋で寝ても、ラッキースケベもないまま、寝相の悪さにたたき起こされたり、理不尽な目に合うに決まってるんだから。なら最初から別々のほうが休めそうでしょ? 自分がどれだけ残念星の元に生きているか、悟ったほうがいいよ、ほんと」

「……殺す」

 といったやり取りがあったが、なんとか亮は安眠につくことができ、ディアナは予想通り不幸なことが起こったようである。


 そんな夜が明けた次の日、亮とディアナはまた冒険者ギルドに立っていた。


「うんうん。二階建ての大きな建物。木造で、無骨なデザインながらも、歴史を感じさせる佇まい。あたりまえだけど、昨日とまったく変わらないこの景色。やっぱり僕は異世界にいるんだなぁ」

「亮は何をいってるわけ? そんなの当り前じゃない。転生したんだから」

「とはいっても、夢オチを期待するのは当然じゃないか。それくらいは許してほしいな」

 そんなやり取りをする二人の後ろから、唐突に声がかかる。

「おお、早かったな」 

 二人が振り返ると、そこにはゴルドが立っていた。昨日と同じ服装、佇まい。亮は「着替えないのかな?」と思ったが、やはり同じ服装の自分の恰好をみて苦笑いを浮かべる。

「まあね。日本人は時間前行動が基本だから」

「ニホンジン?」

「ああ、こっちの話だよ。それはそうと、今日は一人だけかな? ほかの二人は来ないの?」

「あ? ああ。あいつらは、あっちで待ってるさ。部屋の掃除とかいろいろあるんだとよ。俺にはよくわからねぇが」

 亮は、これから会うであろう人物を想像し、小さく頷いた。

「まあ、女性だからいろいろと気になるんだろうね。まあ、いいや。さっそく連れてってくれるかな?」

「ああ。こっちだ」

 そういって、亮とゴルドは歩き出す。その後ろでは、ディアナが困惑した表情でおろおろしていた。

「え? 嘘。もう行くの? ねぇ、朝ごはんは? 朝ごはんはまだ?」

「僕は朝ごはんは食べないんだ」

「だからって私まで――」

「別にディアナは来なくていいから好きにしてたら? ほら、お駄賃」

「いいの!? ――って、こんなんじゃパンの一切れも買えないじゃない! どういうことよ!」

「別に朝なんか抜いても大丈夫だって。ほら、うるさいからどっかいった、しっしっ」

「扱いがひどすぎませんか!? ひどすぎませんか!? 近所の野良犬じゃないんだから! そんなこと言ってると、もうお金あげないんだからね!」

「別に。一人で生きていけるならどうぞ」

「むきーーーーっ!」

 涼しい顔で歩き出す亮の後ろを、顔を真っ赤にしたディアナが追いかける。その様子をみていたゴルドは、訝しげな表情を浮かべていた。

「やっぱり、こいつらを信用するのは間違いだったか?」

 そんなことを思うのは、決して責められることではないだろう。



 しばらく歩くと、そこには小さな一戸建ての家があった。

 周囲から浮いた様子もなく、ごくごく一般的な様相の家を前にしてゴルドは「来たぞ」と声をかけながら入っていく。無造作に開けられたドアの向こうには、あわただしく動き回る斥候と剣士がいた。

「え!? もう来ちゃったの? ゴルド、歩くの早すぎ!」

「まいったな。っていうか、リョウとディアナだったかな? とりあえずこっちへどうぞ」

 そう言いながら、剣士が二人を中へ誘った。

 中に入ると、そこには四人掛けのテーブルと椅子。奥には厨房のようなものが見える。それなりに生活感がある室内を見ていると、剣士が椅子に座るよう促した。

「さ、座って」

「ありがとう」

「ねぇ、亮。あそこのパンってもらっちゃだめかな?」

 まだ朝食のことを引きずっているディアナを放っておいて、亮は目の前に座るゴルドと、壁に寄りかかっている剣士を眺めていた。

 二人とも、この家には慣れ親しんだ様子であり、むしろ外にいるときよりも持っている空気感は穏やかだ。

「もしかして、二人はここに住んでるのかな?」

「ん? よくわかったね。僕らはパーティーで家を借りてるのさ」

「そのほうが割がいいからな。金がないやつらはみんなそうしてるぜ」

 そんなことを話していると斥候の女が慌てた様子で駆け付けた。

「あー。結局掃除が終わらなかったじゃない! ゴルド! 少し時間つぶしてきてっていったじゃない!」

「いや、悪いな。行ったらこいつらがもういてよ。連れてきちまった」

「あの子だって、身綺麗にしてあげないと可哀そうじゃない。そういう女心、ゴルドにはわからないのね」

「あ? そんなもん、こいつらには関係ねぇだろ?」

「あるの! いくら来てるのが胡散臭い輩でも、気になるものは気になるんだから」

 亮は、斥候の女の言葉を聞いて楽しそうに笑みを浮かべていた。その様子をみていた剣士は、思わずため息を漏らす。

「ほら。シーフルも余計なこと言わないで座りなよ。とりあえず、テレーシアの部屋の掃除は済んだんだろ?」

「え? あ、うん。そうだね。わかった」

 そう言って、シーフルと呼ばれた斥候の女は、ようやくテーブルについた。

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