ある金曜日
飲食店はどこもそうだと思われるが、金曜日ともなると店内は客足が絶えない。
Leeも同様にカウンター、テーブル席がほとんどうまってしまっている。
時計の針が0時を回ろうとしていた時、ドアの鈴がなった。
「いらっしゃいませ」
覚束無い足取りで1人の女性が入ってきた。
そのままカウンターの端に腰掛けると、お絞りを受け取る前に身体を伏せて寝てしまった。
「おい!美里!寝に来たのか?」
一文字美里はLeeの近くに住む23歳。
事務の仕事を終えると、家に帰る前にLeeに立ち寄るのが日課だ。
だが今日は明らかにどこかで飲んできているようだった。
「フワフワしてきたかも・・・」
美里は酔うと宙を浮いているような独特の感覚に陥るらしい。
「相変わらずだな。それより今日は翔希はいないのか?」
翔希は慶太の10年来の友人でもあり、美里の彼氏でもある。
「さっきまで一緒にいたよー」
飄々と話す美里
「美里を残して1人で帰ったのか。あいつも相変わらずマイペースだな・・・」
「私ね、さっき翔希にフラれたんだー」
美里は淡い茶色の巻き髪をかき上げながら答えた
「え!?先週も仲良さそうにここで話してたじゃん!」
「そんなことより、とりあえずジントニック頂戴」
慶太は渋々とライムをロンググラスに絞った
「私も突然過ぎて気持ちの整理がついてないの。なんでいきなり翔希がそんなこと言い出したのかもわからないし・・・」
慶太はジントニックを美里に出すと珍しく声を大きくした。
「それで美里はそれを受け入れたのかよ!?」
出されたジントニックを一気に飲み干すと、急に立ち上がった。
「しょうがないでしょ!どうする事も出来ないじゃない!」
美里はバッグを乱暴に抱えると、逃げさるように出ていってしまった。
慶太はそれを呆然と眺めるしか出来なかった。
「慶太!美里の会計はどけんしとっとか!」
ヤマサブの声が響く。
今日もLeeは色んな意味で慌ただしかった。