弱気な恋愛事情
慶太の働くBar 「Lee」
慶太が出勤する時間には、既にマスターの山内三郎は店の仕込みをしている。
見た目も相まって、言動、挙動から過去は相当やんちゃしたことが伺える。
Leeが開店してから19年間勤めあげている大ベテランだ。
山内のことを、Leeのスタッフは尊敬と親しみを込めて「ヤマサブさん」と呼んでいる。
「慶太!もう丸氷なかけん作っとって!」
ダミ声の博多弁が店内に響く。
アイスピックを片手に断裂された板氷を丸く整えていく。
働き始めた当初は、酷い出来栄えだったが、最近ではやっとお客さんに提供出来るレベルになってきた。
3つ目の丸氷に取り掛かろうとしていた時、厨房でフードの下準備をしていたヤマサブが、甲高い足音を立てながらツカツカと慶太のもとにやってきた。
「そういえば慶太は彼女はおらんとか?」
唐突な問いに、慶太は蚊の鳴くような声で答えた
「いないですね・・・もう2年近く彼女はいないです」
「でも気になる人位はおるやろうもん」
「いや・・・まず女性と関わる事がないですからね。家に帰って酒飲みながらチャットして寝る。そしてLeeに出勤する。毎日この繰り返しですから・・・」
それを聞いたヤマサブは、いきなり語気を強くした
「なら自分で動くしかなかろうもん!休みの日には外へ出ればいいとたい!店に迷惑がかからんやったらお客さんをデートに誘っても良かけん!」
慶太は少し考えた後、深いため息をついた。
外へ出るにもどこに行けばいいかわからない。
Leeのお客さんも正直恋愛対象に入る人はいないからだ。
それを見たヤマサブは慶太の肩に手をポンと置いた
「なんかあったらいつでも相談のるけん!
先ずは動く事たい!」
もうこの時すでに慶太の頭の中には、冷蔵庫の中で冷えたキンキンのビールと、昨日盛り上がったグループチャットで頭がいっぱいだった。