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海へ


 蜘蛛の巣を抜け出すと、その足で学校に向かった。バスには見慣れない運転手さんがいて、防護服のまま乗り込んで来た僕をちらちらと鏡越しに気にしていた。


 バスを降り南国花壇の分かれ道を左に曲がり、授業の声だけが響く静かな廊下をつかつかと歩く。僕らの学校とは少し違う、洒落た木造の建物。南国的な解放感と、幾つもの綺麗な花と緑が風に揺れていた。


1-Cという札の掛かった教室のドアを無造作にあける。かちゃりとドアが開いた瞬間に、教師も生徒も全ての視線が突然の乱入者に集まった。


 咄嗟に向けられた警戒と驚きの中で僕が探しに来たのはたった一人。女子ばかりの教室の一番前できょとんとしていた黒い瞳に声をかけた。


「飯島久遠、一緒に来てくれ。君が必要なんだ」

「……え? わ、わわわ、わたしですか? え? え? し、しかし今は……」


 ちらりと教師の目を見る。優しそうな眼鏡の男性教員。生徒達と同じように驚いているだけの彼に、正規隊員である僕を止める度量は無いと感じた。


 彼の目を見つめたままで、はわはわと戸惑う久遠に『来い』と顎で示し教室に背を向ける。


 すると少し遅れて、『す、すみません! 飯島、早退いたします!』という声と共に腰を直角に曲げて頭を下げた久遠が通学バッグを肩にひっかけながらパニック剥き出しの形相で追いかけてきた。


「ナ、何事であるのですか!? 小田島伍長!?」


 それなりに鍛えているだろうに息を荒くして見つめてくる小柄なポニーテールの姿に、僕は笑った。


「はは。結構速いんだね、走るのは」


「あ、ありがとうございます! 飯島、身体能力は学年でも上の方なのです! も、もちろんA型の人達の魔力要因を除けばですが!」


 ちょっとからかったつもりが目を白黒させながらペコペコと頭を下げられ、苦笑する。


「あ!? お、置いて行かないでください、伍長!! 本日はこの飯島久遠めに何の御用でありますか!?」


 バス停に向かって歩き出した僕の背をとててっと付いて来た久遠の声、振り向くと彼女は律儀に敬礼ポーズを決めていた。


 真面目にもほどがあるな、と僕は笑って首を振りながら。


「あのさ、久遠。この島だと、死んだ人はどうなるのかな? 公園にでも埋めるのかい?」

「は? あ、いえ、えっと、と、特殊な事情が無い限り、火葬して、ええとそれから、う、海に撒くのが一般的かと……ぼ、墓地は港の向こうで、本土に向けて立てられています」


「そうか。ありがとう」

「い、いえ!! 滅相もありません、この飯島久遠――」


 ポニーテールを揺らしながらぴょこんとつま先立ちになって、それから慌てて自虐に近い謙遜を並べる久遠を横目に、僕はバスの乗車口に手をかけて。


「ちょっとね、棺桶を見に行こうと思うんだ」


「は、はあ……って、カ、棺桶ですと!? ど、どなたをお殺しに――はあぁぁっ、や、やはりこの飯島が早速無用にっ!? ひぃぃ……」


緊張に震える小柄な女子と、その隣で薄く笑う男。港まわりの巡回バスが、プシュッと音を立てて扉を閉めた。

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