通話中 -the origin-
ホラーです。
一応、残酷な描写ありの警告タグを着けましたが、そんなでもないと思います。
ただし、念には念を。怖い話が苦手な方は読まない方がいいかもしれません。
田中 秀一、19歳、大学生。俺、棚田 朔夜の従兄。数日前から行方不明。一月前から音信不通。一年……もっと前から会っていない。
どうしてこんな話をするのか。それはこれから俺がその人を捜す手順を綴る上で、とても参考になるからだ。捜す手順って何だよ?と思ってもどうか突っ込まないでほしい。現役高校生が使える手段なんてたかが知れている。
「ただいま、通話中です。ご用のある方は後程お掛け直しください」
「用がなきゃかけねーよ、バーカ!」
これは隣人にして変人のクラスメイト、小川 千波がボイスレコーダーに録音していたものだ。俺が電話に向かって愚痴るというこの上なく痛い行動をしていたのだ。いや、そんなことにもちゃんと理由はある。ここのところ、秀一の電話にかけるたびにこうなのだ。
「また通話中?電話に愚痴るのやめなよ、さくやん」
これは千波。
「お前がその変な渾名で呼ぶのやめたらな。……くそっ」
これで30回目だ。
本当は秀一のためにこんなことをしてやる義理はない。しかし、秀一の母、つまり俺の伯母さんに泣きつかれてしまったのだ。「秀一を捜してくれ。一週間、行方不明なんだ」そんなの警察に届ければいいだろうに、何故か伯母さんは俺に頭を下げてまで頼み込んだ。それを断れる筈もなく、「やるだけやってみます」と答えてはや4日。ご覧の有り様である。
「秀一さんってばどこ行っちゃったんだろうねぇ」
「さあな。あいつの考えることなんか知らん」
「でも伯母さんに頼まれたんでしょ?毎日電話したり、メールしたり、放課後には秀一さんの友達の家を一軒一軒訪ねてるんでしょ?一所懸命だよねー」
「あいつは友人が多すぎる」
知り合いの家にいる、というのはまず第一に考えられるだろう。潰しておくのは当然だ。ちなみに秀一の友人は38人いる。これまで10人程度の家しか回れていない。ただ、共通のキーワードが出てきた。失踪前に秀一が調べていたことと、残した言葉。
「駅前のアパートに行ってくるよ」
最初に言っておくが、駅前にアパートはない。少なくともこの近くには。秀一と俺の家は別とはいえ、距離は1キロもない。駅というのは同じと考えていい。念のために調べたが、「駅前」という地名もない。
しかし、秀一の友人は口をそろえて「駅前のアパート」というワードを口にする。失踪する前日、「明日、駅前のアパートに行ってくるよ」というツイートがあったらしい。よく家に行くという友人は、「駅前のアパート」というものについてやたら調べていた、と証言している。事実、それらしい資料を秀一宅で発見した。
「駅前のアパート ×××」
それはネットに掲載されている短編小説だった。ジャンルはホラーだ。
墓だった場所を埋め立てて作ったボロアパートで、次々と人が消えていき、主人公だけが取り残される、というありがちな話だった。一人になった後、連日奇妙な電話がかかってきて、それを聞いているうちに主人公も頭がおかしくなって自殺するというバッドエンドだ。
「電話、ねぇ……」
秀一の電話がずっと通話中なのと何か関係があるのだろうか。
「千波、手伝え。今日は[駅前のアパート]について調べる」
「りょーかい。……ん、駅前のアパートって、どこの?」
「そうなるよな」
千波に説明し、協力を得た結果、出した結論はこれだ。
「秀一は駅前のアパートへ行った」
駅前のアパートは実在したらしい。どうやら電車で二駅ほど先にあるようだ。詳しい場所も調べはついた。徹夜ではあったが。
とりあえず、翌日の放課後、そこへ行くことにした。
駅前のアパートはごみ集積場になっていた。というか、されていた。つまり、不法投棄だ。潰れたとある企業の工場跡になっており、ぱっと見は建物がしっかりしているので綺麗だ。けれども、その建物の中にブラウン管や冷蔵庫などの粗大ごみが置かれている。中は結構広い。ついてきた千波の提案で、俺は秀一に電話してみた。すると、
「もうやめてくれ!よしてくれ、俺が何をしたっていうんだ!?」
そんな秀一の声がして、電話が一方的に切られた。俺はすぐさまリダイヤルした。きっと2、3秒しかラグはなかったはず、なのに……
「ただいま、通話中です。ご用のある方は……」
「な、に……?」
俺は何度も同じことをした。そして、同じ結果になった。
「さくやん、これって……」
俺は千波と見つめ合ったまま、電話を切ることも忘れて呆然としていた。
その時である。
「ただいま、通話中でただ、通話中で通話中通話中通話中通話中通話中通話通話つーわつーわつーわつーわつーわつーわ通話中です通」
狂ったように電話が「通話中」を連呼する。俺が戸惑っていると、どこからか声が聞こえた。秀一の悲鳴だ。
鈍い音がした。異様に近い。
振り向くと、そこに秀一が倒れていた。切れた縄を首に巻き付けて。
息はもう、なかった。
以上が田中 秀一失踪事件の顛末である。
奇妙なことが多すぎる事件だったが、俺にとって一番の謎はこれだ。
秀一は一体、誰と話していたんだ?
-THE END-
いかがでしたか?
楽しんでいただけたなら幸いです。
次回作に乞うご期待。
余談ですが、これは友人からお題を出してもらって書いた作品です。
お題は「通話中」
あくまでフィクションですのでご安心を。