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魔法学園フリザード  作者: 151A
東方の魔術師
99/127

ご愛嬌


 サルビア騎士団第一大隊はグラウィンド公爵の私設騎士団としての役割が強い。

 魔法を操るのに長けた騎士団で700名が所属しているが、全ての騎士が強力な魔法を使う。それなりの剣技を持っている者が殆どだが、やはり騎馬を駆り攻撃的な騎士を有する第二大隊には敵わない。そして防御に硬く、重い鎧に身を固め引くことを知らず戦い続ける第三大隊は最後の砦としての役割とその志に敬意を表する武人が多い。


「だから安心して学業に励め」


 コーネリアが扉の前でさっさと学園に行けと手をひらひらと振る。その後ろを紺色の騎士服に黒いマントを着た騎士が擦り抜けて、建物の中へと入って行く。

 彼は第一大隊の騎士だ。

 彼らだけは青いマントでは無く黒いマントを身に纏う。それはグラウィンド公爵の騎士であることを表し、魔法を扱う一流の魔法騎士だと人々に知らしめている。


「安心?」


 紅蓮が眉を跳ね上げてコーネリアに詰め寄る。慌てて服を後ろから掴んで引き止めようとしたがノアールの非力な腕では不可能なことだった。


「双清とラッシュだけでなく、フィルまで第一大隊預かりってどういうつもりだよ!」

「王都を混乱に貶めた重罪人を無罪放免とはできん。よって私が責任もって面倒を見るといっている」

「処分しようとしてたくせに!信用できるか!」

「ひどい言い草だな。今までの私の親切も恩も今回のことで綺麗さっぱり、お前の頭からは消え失せてしまったらしい」


 やれやれと大袈裟な仕草で首を振るとコーネリアが残念だと呟く。紅蓮の怒りも尤もで、ノアールは困り果てて苦笑するしかない。

 あの後コーネリアの指示で巡回していたサルビア騎士団を捕まえて、双清とラッシュを担いで騎士団詰所まで運んだ。事情を聴くためと、魔法による精神疲弊は急変する可能性があるとのことで念には念を入れてということらしい。

 ベッドのある部屋へ双清とラッシュを別々に寝かせると、すぐさま第一大隊の魔法騎士が中にひとり、外にひとりついた。


 そしてフィルはコーネリアが別の部屋へと連れて行ったので、それから会っていない。


 紅蓮とノアールもそれぞれ事情を聴かれ、軽い食事を出してもらって気が付いたら夜が明けていた。これからどうするかを話し合っていると学園長が戻って来て、二人を外へとつまみ出したのだ。

 詳しい説明も無く三人は第一大隊の預かりになったので、安心して学業に励めといわれても確かに納得はできないだろう。


「紅蓮。きっと学園長はフィルに不利になることはしないと思う。ですよね?」

「約束しよう」


 ここで幾ら粘っても中には入れてくれないだろう。

 だからノアールは紅蓮を説得しようとコーネリアに同意を求めると、あっさりと約束してくれた。


「ほら。だからここは引き下がって、また授業が終わってから会いに来ようよ」

「でもな」


 疑いの眼差しを向けている紅蓮に、学園長はエメラルドグリーンの瞳を伏せて肩を落とした。

 そして再度残念だと口にする。


「フィル・ファプシスは我が学園の大切な生徒だ。悪いようにはしないから、学生は学生らしく学園に通い勉強しなさい」

「本心か?」

「無論だ。リッシャ・ラウル・紅蓮もノアール=セレスティアも私にとっては護るべき生徒だからな。お前たちを裏切るようなことはしないと誓う」

「……解った」


 漸く頷いた紅蓮を引っ張り、ノアールは学園長に会釈だけをして門へと向かう。早朝の訓練をしている部隊や、馬の世話をしている者、夜番だった者が宿舎へと帰り、入れ替わりに朝番の者が出ていく。そして業者や事務などの雑事を任されている職員が挨拶を交わしながら門を潜ってくる。


「朝早いのに賑やかだね」

「朝も夜も関係なく人が出入りしてるさ。騎士団は」

「……うん」


 大きく高い門を出ると門番がちらりと二人を見てから直ぐに前を向く。鎧にはサルビアの紋章が、そしてマントは青。今日の門番はサルビア騎士団が担当らしい。


「ラッシュくん大丈夫かな?」


 旧市街の中を西へ向かって歩くと、広い通り沿いに大きな屋敷が並んでいる。どれも古くからある商家や、それなりに収入のある官吏や武官の屋敷だ。立派な門の向こうに庭師が働く姿が見えた。

「どうだろうな。肉体的な痛みなら我慢できるけど、精神に打撃を受けたら回復するのも難しそうだ」


 目に見えないだけどれほど負傷しているかなどの判断は不可能だ。そして傷が無いので治療もできない。

 あれからずっと意識の無いラッシュは深い眠りの中で回復しようとしているのか。そうならばいいと思う。双清は一度だけ目を覚まし、傍についていた魔法騎士と二言ほど会話をした後ですぐにまた目を閉じたと聞いている。


「どっちも嘘をついていないとなると、双清くんはどこかで囚われているんだよね?」


 フィルが双清もラッシュも真実をいっていたと断言した。本来は魔法をかけられた相手は真実を喋り出すはずだったが、フィルの魔力が強すぎて双清は気を失ってしまったらしい。


「何処にいようと絶対に助け出す」


 紅蓮は瞳を燃え上がらせて正面を睨む。

 敵の手に落ちながら双清は兄の身を案じて、自分にできる力を最大限に使ってディアモンドまでやって来た。身体を乗っ取られた少年には可哀相だが、もし双清が警告しなければラッシュを弟だと信じて紅蓮は故郷へと帰ることになっただろう。


「宰相は敵なのかな……?」


 ラッシュは宰相の息子である浅緋の命令で紅蓮を迎えに来た。双清は反乱を起こしている勢力が紅蓮を利用しようとしているといったが、宰相や息子が反乱軍であるとは発言していない。もしかしたら双清も宰相が反乱に加担しているとは知らなかったのかもしれないが、そこは直接話して見なければ解らないことだった。


 そして黒い服の男。


「考えても解らないことを考えても仕方が無いって。取敢えず寮に帰って、飯食って寝ようぜ」

「寝る!?授業は?」

「休みだ。休み」

「それは休みっていわない。ズル休みっていうんだ」

「休みは休みだろ?」


 反論する気にもなれずにノアールはがっくりと項垂れた。紅蓮はきっと言葉通りに朝食の後部屋で寝るだろう。だがノアールには貴重な勉強の時間を無駄にすることはできない。国に支援してもらって学園へ通っているのだから。


「いいな……紅蓮は」

「羨ましいならノアールも休めばいいだろ


 明るい笑い声を聞きながら、それができれば苦労は無いとため息を吐く。睡眠か、魔法か。選べるならば両方選びたいが難しい。それならばどちらが優先かと自分に問えば勿論魔法で。


「ごめんな。ノアール」


 突然の謝罪に思考が切断される。瞬いて前を歩く紅蓮を見れば、彼は満面の笑みでもう一度「ごめん」と繰り返す。


「……なにが?」

「おいおい。龍の髭亭でのこと忘れたのか?後で話そうっていったはずだけど」

「あ」


 フィルの魔法の効果で口走ってしまった言葉を思いだしノアールは赤面した。帰ると決めた紅蓮を全面的に応援しようと決めたのに、心の底ではやっぱり心配で不安で。行かないで欲しいと思っていたから零れた本心。


「あれは、その――」

「ノアールから見たらオレは行き当たりばったりで行動して、見ててはらはらするんだろうな。確かにリストまで行けばうっかり記憶を失うし、行方不明になるわで、心配すんなって方が間違いだと思う」


 オレにはノアールの方が見てて大丈夫か?って思うんだけど、と苦笑する。そして変形したままで固まった右肘をそっと左手で押えた。そこには失われてしまった記憶と痛みが残されているのかもしれない。


「だけど。オレは行く。だからごめんな。話そうぜっていいながら、一方的にオレの意見しかいわないで」

「僕は別に紅蓮の意見を尊重しない訳じゃないんだ。ただ、行って欲しくは無いってだけで。でもここで故郷を見捨てるような男に、紅蓮にはなって欲しくないとは思ってるよ」

「そっか……。心配してくれて、ありがとな」


 ふっと微笑んで紅蓮は空を見上げた。この空はベングルにも続いている。彼の身体はディアモンドにいるが、心はもう故郷へと離れているのだ。


 悔しくて。

 切なくて。


「ちゃんと帰って来てくれなきゃ困るからね!」

「当たり前だろ」


 声を張り上げていえば紅蓮がなにをいっているのかと不思議そうな顔でノアールを見てくれる。だから「約束だから!」と怒鳴れば、はははっと声を上げて紅蓮が笑う。そして「約束だ」と応じた声は青い空に吸い込まれていく。


 紅蓮が戻って来るまでにノアールはどれくらい成長できるだろうか。

 帰ってきた友人を驚かせることができるようになることが当面の目標だ。


 だから。


「帰って、顔を洗って授業を受ける!」

「ちゃんと飯食えよ」


 宣言したが呆れたように注意されたのはご愛嬌だ。

 

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