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魔法学園フリザード  作者: 151A
東方の魔術師
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理不尽と嫌悪感



「おれ達付き合わない?」


 突然呼び止められて名前も顔も知らない相手からそういわれたら誰でもぽかんとしてしまうだろう。

 ベルナールと名乗った少年は同じ学年であること、ノアールと同室であること。

 それから紹介してもらうように頼んだが断られた顛末を述べ、絶対に気が合うからと熱心に口説いてきた。


 初めて顔を合わせて会話をするというのに随分と押しが強く、困っているとヘレーネが助けてくれた。

 だがそれから休み時間の度に教室にやって来て付き纏い、下校時間には遊びに行こうと誘われる。


 それが毎日だ。


 気の休まる暇など無く、しつこいほどに「付き合おう」といわれてはなんの苛めかと怒りたくなるのも仕方が無い。


「本当に、迷惑だから!」


 好きでもない相手に言い寄られることの苦痛に耐えかねてリディアはとうとう叫んでいた。

 だがベルナールはけろりとした顔で「見てりゃ解る」と頷く。

 解るのならどうしてと問えば「これぐらいしないとリディアは一緒に居てくれないだろ?」と笑う。


「そもそもわたしのどこがそんなに気に入ったのかさっぱりなんだけど!」

「そりゃ顔が可愛くて、胸がデカくて少し天然なとこ」

「可愛くなんかないし!みんな胸が大きくなったから興味が出たんでしょ?前はわたしのこと変わってるって笑ってたくせに」


 今日も三限目が終わった途端に後ろのドアから教室に飛び込んできたベルナールから逃れようと、前側の出入り口から廊下に出て必死になって階段を下りた。

 残念なことにリディアの遅い足では彼をまくどころか突き放すこともできず、あっさり北校舎を出た所で捕まってしまった。


「変わってる所も個性だろ?おれは前から可愛いなって思ってた」

「うそ!?どう見ても子供なのに」


 自分のことを子供だというのはやはり虚しい。

 受け止めて認識した上で努力はしているが、なかなか成長を感じられないのだから辛い。


「十六歳は十分子供だって。見た目は大人のフリしてるけど、みんな子供」

「……そうなのかもしれないけど」


 やはりリディア自身の容姿がみんなより子供っぽく見えて、中身も同じように子供にしか見えない。

 同級生はみんな身長も高くて話し方や、仕草も顔も大人と変わらなくて。


 悔しい。


「だから付き合おう。おれと」

「今の話の流れからどうしてそこにいくのか解らない……。わたしよりよっぽど変わってるよ、ベルナール」

「それしか選択肢は無いって。な?おれ、ちゃんと大事にするし」

「も……訳解んない」


 何度も断っているのにベルナールは笑顔で交際を迫る。

 嫌がっても、怒っても効果が無いのではもう打つ手は無い。

 かといって押し切られて付き合うなど論外だ。唯一残された方法は学園に行くのを止めるぐらいで――。


「……そうだよ。セシルとはもう仲良くできないし、ノアールは忙しくてなかなか会えなくなったし。フィルとも」


 学園に行くのが苦しくなったのはセシルと仲違いしてからだ。

 クラスが離れて少しづつ寂しさが募り、不満と焦りが重なってリディアはまた間違いを犯した。


 だからセシルは呆れ、拒絶したのだ。


 本当は最初からリディアの事などどうでもよかったのかもしれない。

 面白そうだったから一緒に居てくれたのだ。

 なんとも思っていない相手から寄せられる好意など迷惑で、気持ちが悪いのはベルナールの猛攻撃で嫌というほど味わった。


「決めた」

「ようやくおれと付き合う気になったのか!」


 気色ばむベルナールにリディアは笑顔で「わたし、学園辞める」と決意を言葉にした。

 これはラティリスに行く前から考えていたことで、暗示が解けた今自分が本当にやりたいことはなんなのか。

 それが解らずに友達と居られる時間の楽しさを手放せなくて学園にずるずると居続けた。


 その結果がこれだ。

 中途半端だからいけない。


「え……?」


 驚いたベルナールの瞳が真ん丸になっていた。

 それがおかしくて吹き出しながら、自分の心が軽くなっているのに気付く。


 悩んでいたのはセシルとノアールから離れるのが恐かったからだ。


 でも現状は既に二人から離れてしまっている。

 それならば学園に通う必要は全く無いのだ。

 ノアールは自分の道を見つけて、必死で進んでいる。

 その姿はリディアを勇気づけてくれた。

 いつかはリディアも進むべき道を選ぶ日が来る。


 それがきっと今日なのだ。


「ごめんね。ベルナール」


 謝ると少年は唇を引き結び硬い表情で俯いた。

 ここ数日鬱陶しいほど根気強く口説き落とそうとしてくれたベルナールに感謝する。


 こんなにも未熟で子供な自分に、好奇心からかもしれないが付き合って欲しいといってくれた数少ない少年。

 好きだとは言われてはいないが、好意を寄せてくれているのは確かだった。


「……なんでそうなるんだよ」


 呻くような声にリディアの肌が粟立った。

 言葉にはできないが、肌で感じる危険な信号に一歩下がる。


 またなにか間違ったのか。

 ベルナールを怒らせるようなことをいっちゃったの?


「なんでって、ずっと考えてて。でもその決心がやっとついただけで」


 必死で言葉を探すがリディアがずっと悩んでいたことなどベルナールは知らない。

 決心がついたのだと伝えた所で少年の疑問の答えにはならないだろう。


 ではどうすれば。


「おれはノアールのように友達にもしてもらえないのか?」

「え?友達になりたかったの?」


 付き合おう、付き合おうと何度もいっていたのでまさか友達になりたかっただけだとは思ってもいなかった。

 だがベルナールは無表情な顔に瞳だけぎらつかせて近づいてくる。


「どうしておれじゃ駄目なんだよっ」

「ちょっと!ま……」


 ベルナールの右手が肘を掴み、左の肩を強く握られ悲鳴は喉の奥で凍りついた。

 骨が軋むのではないかというほどの強い力に、抵抗を阻まれて北校舎の壁に背中を押しつけられてしまう。


 気が付けば生徒の姿は無く二人きり。

 この状況がまずいことはリディアにも理解できた。


「なぜおれは選ばれない?いつだって選ばれるのはノアールみたいな奴だ!」

「痛……い。離して」


 肘と肩の痛みで指まで痺れている。

 恐怖よりもまずは痛みから解放されたいとリディアは顔を歪ませて懇願した。


 だがベルナールは唇だけで笑い「ねえ、触らせてよ?」と見下ろしてくる。

 なにを触らせろと要求されているのか解らずに首を傾げると少年の視線が顔を通り過ぎ、胸元で止まった。


「やだ」


 やはりベルナールが見ていたのもリディアの顔では無く胸だったのだ。

 羞恥を通り越して怒りに顔を赤く染めてはっきりと首を振って拒否する。


「なんで?ノアールには触らせたんだろ?それならおれにだって触らせてくれてもいいんじゃないか」

「ノアールに……触らせた?」


 どうしてそうなるのか解らない。

ノアールは不用意に触れたりしないのに。


「噂だよ。リディアの胸を大きくしたのはノアールだって」

「……くだらない!」


 左手を握り締めて思いっきりベルナールの胸を叩いた。

 だが肩を掴まれているからうまく力が入らない。

 こういう時の対処法は体術の授業で習ったが、身体を動かすことに関してはいつも以上に鈍臭くなってしまう自分を呪う。


「みんながリディアの胸が本物かどうか知りたがってるしさ。おれが確かめてみんなに教えてあげるから」

「っ余計なお世話!」


 どうしてみんなそんなにどうでもいいようなことを知りたがるのか。


「大丈夫。触るだけだから……」

「ちょ……やだっ!」


 肩を押えていた手が角度を変えて更に下がってくる。

 妙に温かい掌が気持ち悪くてベルナールの胸を押し返すがびくともしない。


「ほんと、やだってば!!」


 涙より吐き気が襲い、狂ったように叫び身を捩って抵抗する。

 チリチリと鳴る鈴の音にベルナールが舌打ちして右手で頭を押さえようと手を離した――その隙にリディアは斜め掛けしていた鞄を勢いよく振り回す。

 重い教科書の入った鞄が少年の腰に運よくぶつかり拘束が緩んだ。


「痛っ。待てって。頼む。ちょっと触らせてくれるだけでいいから!」


 そういわれて誰が触らせるか。


 心の中で罵ってリディアは必死で足を動かして本校舎の方へと駆けていく。


 医務室に行けばアイスバーグがいる。

そこまで行けば助かるから。


「リディア。ごめんって。謝るから」


 猫なで声が背後から追って来る。意外と近いことに戦慄しながら回廊を死ぬ気で走った。

 ここで追いつかれてしまったら、きっとただでは済まない。


 少年はリディアへの思いより、ノアールに対しての劣等感の方が強ように思えた。

 過去になにがあったのかは解らない。

 そもそもノアールとなにかあったわけでは無いだろう。

 ノアールのような優秀で女子に人気のあった少年と昔なんらかの問題があったのかもしれないが、冗談じゃない。


 リディアもノアールも関係ないではないか。

 勝手に巻き込まないで欲しい。


「捕まえた~」

「ひゃっ!」


 後ろから鞄の紐を掴まれてリディアの身体は後ろへと引き戻される。

 医務室の入り口が見えていてあと少しなのにと悔しがるが、その前にベルナールの手から逃れる方法を考えなければならない。


「アイスバー……!」


 叫べば聞こえるかもしれないと試せば後ろから口を塞がれ、同時に左手が回されて後ろから抱きすくめられた。


「あ。やっぱり腕の中にすっぽり納まる。いいなぁ」


 嬉々とした声と笑い声にぞっとする。

 やはり友達にもなれないし、付き合うこともできない。


「むー!」


 止めて欲しいのに言葉にはならないことがもどかしい。

 男には力では敵わないのだと見せつけられているようで心底腹が立つ。

 理不尽さに憤りを感じる。

 身勝手で独り善がりな想いに身震いするほどの嫌悪感が体中をいっぱいにした。


「いい加減にしとけ」

「うわっ!痛え!まじ、ぐうぅ!」


 ふと腕が緩んでリディアは慌てて離れた。

 振り返るとライカがベルナールの腕を後ろ手に捻り上げて、ぎりぎりと締め上げている。

 相変わらず足音も気配も無かった。

 だが助かったのだと認識してようやく安堵し涙が込み上げてくる。


「ちょっ!やめ!痛い!ぎゃあああ!」

「二度と変な真似できねぇようにしてやってもいいんだぞ」


 ミシミシと肩と肘の関節が音を立てるのを確かに聞いた。

 不自然に血管と筋が浮いて、肌の色も悪くなっている。


 本当に腕が壊れてしまう。


「ライカ!ライカ、止めて」


 恐くなり泣きながら縋るとライカが不満そうにリディアを見た。

 「これぐらいじゃ人間死なねぇから大丈夫だ」と更に体重をかけると、ベルナールは冷や汗を流して声も出せなくなる。


「お願い!ライカ、それ以上は」


 目の前で人間の腕が有り得ない方向に捻じ曲げられるのを黙って見ていられるほど図太い神経をしてはいない。

 だから見たくないのだと訴えるとライカは渋々手を離してベルナールを放り出す。


「お前なにされたか解ってんのか?」

「……解ってる、つもりだけど」


 きっとリディアが悪いのだろう。

 隙を見せたつもりは全くないが、常から自覚が足りないといわれているのでなんらかのきっかけを作ってしまったのかもしれない。


 地面に転がり肩を押えて苦しんでいる姿を見ているとなんだかどうでもよくなった。


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