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魔法学園フリザード  作者: 151A
ラティリスの毒
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未来へ⑥



「来たね」


 唐突にセシルが呟きにやりと笑って扉を振り返った。

 そして近づいてくる不穏な気配を部屋にいる全員が感じ取ったその時――音をたてて扉を開きその勢いのまま中央まで進みフィリエスがぎろりと机の前に立つセシルを睨みつけた。


 皺の寄ったシャツに、乱れた髪。

 美しい頬には枕では無い物を敷いていたのか、線のような形がついていた。

 右手には剣を持ち靴音を高らかに更に進んでいく。


「フィリエス兄さん」


 呼びかけたが、顔も洗わず身だしなみも整えずに現れたフィリエスは柳眉を逆立ててセシルの襟首を捕まえると「この、詐欺師め!」と罵った。

 右手に持っていた鞘を振り払うようにして抜くと喉元に刃を突き付けた。


「おはよう。いい夢見れた?」

「なにをぬけぬけと!」

「ちょっと!兄さん」


 セシルは危機的状態に居るのに煽るようにへらりと笑う。

 「貴様!」といきり立ちフィリエスが腕に力を加えようとするので、ノアールは慌ててその手に縋った。


 兄の激昂した様子にたじろぎながらも、ここで止めねばセシルの命が危ないので必死だ。


「……やはり、騙されたか。なにをしたか分からんが、流石レインだな。フィリエスとて手玉に取るとは」


 どうしてか愉快そうに肩を揺らして笑い、ヴィンセントがフィリエスに剣を引くように命令する。

 渋々剣を納めて下がるが視線は殺さんばかりにセシルに注がれていた。


「騙す?まさか。フィリエス、あたしはあんたの“ラティリスの毒”であんたの目の前で調合してあげたんだから。それを飲んで死ねなかったのなら、それは運が悪かったとしかいいようがないよ」

「なにかおかしな術でも使ったんじゃないのか!?」

「魔法は使ったけどね。でもそれは効果を消すための魔法じゃない。増強させるための魔法だよ。言いがかりはよしてくれる?」

「なんだと!?」

「ちょっと待って。セシル、一体どういうことか説明してくれないと」


 またしても詰め寄ろうとしたフィリエスを押し止めてノアールは間に入り、セシルに説明を求めた。


「いいよ。あたしはフィリエスの願いを叶える代わりに、ルーサラを推薦する書類を作ってもらった。いわれた通り目の前で毒薬を調合して、あたしは伯爵が持ってる書類を手に入れた。フィリエスは死ぬつもりで毒薬を飲んだけど――見ての通り。死ねなかったみたいだね」


 肩を竦めて悪びれもせずに笑っているセシルにノアールは酷く脱力する。

 フィリエスとセシルがしていた会話から、毒薬は“冬の森”でフィリエスが採取した“ラティリスの毒”を使ったのだろう。

 それを使って毒薬を作ったというのなら、どうしてフィリエスが生きているのか。


 死を呼ぶ猛毒の植物のはず。


 確実に死ねると信じて飲んだフィリエスは目が覚めて生きていると知り、逆上してここへ乗り込んできたのだろう。


「死ねなかったのはあたしのせいじゃないよ。フィリエスに未練があったんじゃない?」

「未練など無い!」

「そう?死ぬ前には、みな本当の願いを胸に抱く。純粋な願いを。フィリエスはノアールとルーサラの幸せを願ったじゃない。その瞬間それを見られないのが残念だって少しは思ったんじゃないの?」

「――!その口二度と開けぬようにしてやるっ」

「兄さん!」

「素直になりなよ。フィリエス」


 怒り狂っているフィリエスを更に挑発するかのように微笑みながら、セシルは緩んだ口を噤むことなく開いて言葉を吐き出す。

 ノアールは焦りながらフィリエスの怒りを鎮めるためにまずはセシルを黙らせることを選んだ。


「セシル、ちょっと黙ってて!リディア、セシルを」

「うん。分かった」


 はっと我に返りリディアは促されセシルの傍へ行き引きずるようにして壁際まで下がる。

 手を伸ばしてセシルの口を塞ぎ「ほんとに殺されちゃうから」と叱った。

 琥珀の瞳はキラキラと輝き反省など皆無の様子で、雄弁に誘っている視線をフィリエスへと投げる。


 ヴィンセントが苦笑いを浮かべてセシルを見て、続いてフィリエスへと悲しげな視線を投げた。


「フィリエス。どうやら私やお前のやり方は間違っていたらしい。後継者はルーサラに決めた。お前はここに書いている通りルーサラを支え、命と親愛を賭して周囲に等しく認められるように尽力を尽くせ」

「父上、私は!」

「命令だ。死ぬことは赦さん。ルーサラとラティリスのために生きる道しかお前には無い」

「どこまで、私を!」

「お前の罪は私の罪だ。お前を裁かねばならぬなら、私も同じ罪で裁かれなければならない。罪は消えん。そしてそれを購うために死より生きろ。その命をラティリスのために捧げ、皆が幸せに笑えるように働け。そして」


 椅子から立ち上がりヴィンセントは机を迂回して前に出る。

 ノアール、ルーサラ、フィリエスと眺めて頬を緩めた。


「お前たちが心から幸せだと思える場所を作れ。そうすればきっと私も、フィリエスも笑えるようになるはずだ」


 ノアールはフィリエスの手を掴み、力強く握った。

 そしてもう片方の手を伸ばしてルーサラの手も握ってひとつになる。


「僕達兄弟が力を合わせれば、きっとなんでもできる。人を繋げるのが得意なルーサラ兄さんがいて、優秀なフィリエス兄さんがいる。僕ができることは小さいけど、二人を信じる気持ちでは負けないし」

「フィリエス。どうか私を支えておくれ。私にはフィリエスが必要なんだ。フィリエスがいてくれれば恐いものなどなにもなくなる」

「フィリエス兄さん」

「フィリエス」


 二人がかりで呼びかけられフィリエスはノアールの手を振り解き、恐ろしい物を見るかのような目で見つめる。


「やめてくれ。兄弟ごっこはもうしたくない」

「ごっこじゃないよ。兄さんは本当の兄さんなのに」

「フィリエス。毒を飲んで一度は死んだんだ。これからは生まれ変わったと思って、セレスティア家の次男フィリエスとして生きておくれ」


 妾の子としてではなく、セレスティア家の正式な次男として。

 多くをいわなくてもフィリエスにはルーサラのいいたいことは正確に伝わる。

 その温かな目の見えぬルーサラの視線は体全体から発せられ、言葉より雄弁に彼の思いを伝えることができるのだから。


「本当に……いい加減に」


 「しろ」と終わる前にルーサラは両手を広げてフィリエスを抱き締めた。


「おい、放せ」


 身じろぐ背中を優しく子供をあやす様に叩かれて、フィリエスはその温もりに顔を歪ませルーサラの肩に額を押し付ける。


「私はずっとフィリエスとこうして心を開いて話したかった。でもお前は私を拒んでいたから。でも、もう遠慮は無しだ。これからはいいたいことはいう。私は人使いが荒いから覚悟しておくんだね」

「煩い。勝手に決めるな。私はまだ働くとはいっていない」

「ルーサラ兄さんになら、僕とフィリエス兄さんが望む世界を。笑って暮らせるラティリスを必ず作ってくれるから」


 だから安心して笑ってほしい。


 ノアールとルーサラのために幸せを願ってくれたフィリエスにも幸せへの道を与えられたら。


 諦めないでほしかった。


 フィリエスは押し黙り、ルーサラの肩でなにかを堪えるかのように、受け入れているかのようにも見えた。


 やがてゆっくりと息を吐き出し、力を抜いた。


「目の見えないと相手を私が侮らせ、抜け目のないフィリエスが相手を躍らせれば、どんな狸も恐くはないね」


 ラティリスの未来は明るいと笑ったルーサラにフィリエスは唸るような声で「……足を引っ張る真似はするなよ」とだけ応えた。


「善処するよ」


 ほっと胸を撫で下ろし、ノアールはセシルとリディアを見る。

「よかったね」と声に出さずに口の動きだけや目で伝えてくる友人に「ありがとう」と頷く。


 これでようやく長い後継者問題に決着が着いた。

 ノアールも逃げ回った問題が解決したことで安堵し、自分のすべきことへと目を向ける。

 やらなければならないことも多いが、やりたいことも沢山ある。心穏やかに王都へと帰ることができることが嬉しい。


 新しい未来へラティリスは今進みだしたのだ。



フィリエス「“確実に殺せる毒を調合する”といったくせにとんだペテン師だな」

セシル「ウソはついてないよ?過去のフィリエスは確実に殺せたんだから」

ルーサラ「たしかにね(笑)」

ノアール「詭弁だ」

リディア「ずるい」

セシル「ありがとう」


 ほめてないよ!という全力の無言の圧力をセシルは華麗にスルー!


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