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魔法学園フリザード  作者: 151A
ラティリスの毒
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船旅⑧



 軍港として名高いアリッサムの港は広く、沢山の商船が錨を下して停泊している。

 黒に赤の刺繍の入った制服を着た海兵達がきびきびと積み荷を検めていた。

 ここでは全ての船の積み荷を調べているらしい。

 旅船も例外ではなく乗客を一旦降ろしてから船の中を丁寧に調べ上げられる。

 リディア達が乗っていた船も同様で、船員達に誘導されるまま下船した。


 出向は一時間後になるらしいので、その間に街で夕食をとることにする。


「あれが軍船?」


 歩きながら港の端の方に三艘の大きな黒い船があるのを指差して誰にともなく尋ねると、答えてくれたのはセシルだった。


「そうだよ。あれが御自慢の軍船ポエティカスとミュゲ、ベルゲニア。ポエティカスは足が速くて陽動にむいてて、ミュゲは他のより一回り大きくて頑丈、しかも大砲が二十もついてる。ベルゲニアはフィライト国の技術を詰め込んだ最新鋭の軍船だってさ」


 いわれてみればどの船も同じようにしか見えなかったが、足が速いポエティカスは船首が尖っていて全体的に細いように思えた。

 ミュゲは確かに一番大きく船体が丸い。

 胴体に等間隔で穴が開いているからそこから大砲を出して撃ち出すのだろう。

 そして最新鋭の軍船ベルゲニアは二艘に比べて高さが無く、海上に出ている部分が少ししかない。

 一番手前側に停泊していたからその姿が見えたが、二艘の間に停泊していたら全く見えなかっただろう。


「まるで沈みかけた船みたい」

「そりゃそうだ。ベルゲニアは水面に潜って進む特殊な船だからな」

「潜って進むの!?」

「すごいでしょ?一体誰がそんな酔狂なことを考えたのか解らないけど、それを実現させてしまう研究塔の魔法使いと科学者達には不可能なことなんてないのかもしれないわね」


 ノアールが聞いたらきっとそわそわして、少しでも見せてもらえないだろうかといい出すかもしれない。

 きっとこの港にも下りたのだろうけれど、出発した時のあの様子ではそんな余裕も無かっただろう。


 せめて帰る時には遠くからでも見学できるだけの心の平穏さを取り戻せますようにと願うばかりだ。


「ロベルト=アイフェイオン閣下は軍人であり科学者だからな」


 このアリッサムを治めているのはローム王の信頼厚いロベルト=アイフェイオン公爵だ。

 右腕とも称されるアイフェイオン公爵は勇猛果敢な戦いぶりと、アリッサムの対岸にある“海賊の街”と呼ばれる島と友好条約を結ぶ等交渉事も巧いといわれている。

 海賊家業を生業にしているいわば自由民の島民とどのようにして交流をし、条約を結ばせたのか。

 多くを語らない公爵と元々口の堅い島民から経緯を聞くことはできない。


「最新鋭の軍船を作れるぐらいお金持ちなんだね」

「お金持ちとは少し違うかしらね」


 ヘレーネが苦笑して首を振る。


「違うの?」

「アリッサムを通る船は全てこの港に立ち寄らなければならないの。寄港せず通り過ぎたら罰金と罰則が科せられ、船を没収される」

「全部?寄らなきゃならないのを知らなくて通り過ぎようとしても捕まるの?」

「そう。知らなかったでは済まされない。船乗りは船に乗る前に必ず教え込まれる。アイフェイオン公爵に睨まれれば海に出ることができなくなるから」


 丁度食堂を見つけてライカが扉を開けて中をさっと眺めてから「ここにするか」と促したのでみんなで入る。

 夕食には少し早い時間だからか空いていて、一番奥のテーブルに座ると若い女性が直ぐにやって来た。


「いらっしゃい。今日のお勧めは鶏肉の香草焼きと豆のスープよ」

「じゃあそれを四人分お願い」


 注文すると女性は明るく笑うとすぐに去る。


「さっき港で制服を着た海兵が全部の船を見てたでしょ?」


 リディアが頷くとヘレーネは左の指を三本立てる。

 すらりとした右の人差し指でちょんと左の人差し指の頭を突く。


「大体三人一組で回ってるのだけど。一人は帳簿係。もう一人が捜索係。最後の一人が監視係。それでなにをするのかっていうと」

「積み荷に対しての税を計算して徴収する。しかもかなりの高額」


 ヘレーネの台詞を奪ってセシルが顔を顰める。

 逆にヘレーネはにこりと微笑んで頭を振った。


「無駄な税ではないはずよ。確かに高額だけど、その税は軍船の整備や訓練等の軍費に充てられる。アリッサムが他国よりも強力な力を保てれば、安全に航海できる。現に血気盛んな隣国ナクヤがフィライト国に攻めあぐねているのは、足の速い軍船を畏れているからよ」

「それに寄港した船の乗組員や客が街で落とす金も、懐を潤す一端を担うってんだからどこまでもがめつい」

「策士なのよ。もちろん領主はそうでなくちゃいけないんだけど」


 領主はみな策士でなくてはいけない。


 ノアールは頭がいいけれど、策を巡らして人を意のままに操るようなことはしないだろうし、そういうことをできるような人物ではないと思う。

 でも領主になるならば、そうあらねばならないとヘレーネはいう。


 勤勉で真面目なノアールは、納得はできなくても必要なら行動する。

 でもそれが苦しめる。純粋な彼の心は耐えられない。


 きっと。


「だめだ。考えれば考えるほどノアールにはなって欲しくない」

「リディ」


 セシルの琥珀の瞳が優しい色を湛えて見つめてくる。

 狡猾さや腹の探り合いなどノアールには無縁の物だ。

 そんな世界に渡してはだめだ。

 リディアの我儘かもしれないし、独り善がりの考えかもしれない。


 それでも。


「絶対にノアールを取り戻す」

「囚われのお姫様を二人で助け出そう」

「ちょっと。私たちはその仲間に入れてくれないの?」

「部外者は黙ってて」

「部外者って……ひどい」


 あっさりとヘレーネを部外者と切り捨ててセシルはリディアの手を握って「頑張ろう」と励ましてくれた。

 だから大きく頷いて、運ばれてきた意外に大盛りだった料理に閉口しながらも戦いを前に必死で手と口を動かした。


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