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魔法学園フリザード  作者: 151A
再会の呪い
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後悔はしない


 夜が明けるぎりぎりまでリディアの様子を見ていたが、魘されることも無く、途中で目が覚めそうにもなかったのでセシルはそっと部屋を抜け出した。

 台所で朝ご飯の準備をしていたマーサに挨拶し、一度学園に戻ってからまた訪ねてくると告げて玄関を潜った。


 朝靄が漂う道を進み学園と街を繋ぐ魔法陣に辿り着きふっとため息を吐く。


 向こう側では学園の先生が待ち構え、捕縛されるかもしれない。

 有無を言わさず退学を言い渡され纏められた荷物を叩き付けられる事も有り得る。

 その覚悟はしていたはずなのに、いざとなると躊躇する己が滑稽で唇を歪めた。


 ギリッと奥歯を噛みもう一度大きく息を吐くとそっと目を閉じて魔法陣に足を踏み入れた。


 ふわりと足元が不安定になる。

 空気が震え鼓膜を圧迫する嫌な感覚に眉を顰めた。

 そして潮の匂いの混じった風を嗅ぎ身構えた。


 が拍子抜けするぐらい何もなかった。

 いつも通り。


「律儀というか……。お人好しというか」


 街よりも高い場所にある学園は風が強く少し肌寒い。

 朝露に濡れる芝生を抜け階段を下りて寮の扉を開くとまだ眠りを引きずっているのかシンッと静まり返っていた。


 いつもは浅ましい戦場の舞台となる食堂にも人気は少なく、諍いを避けるために早起きした少女が四人ほどいるだけだ。


 熱で早まった脈と同じ速さで疼くように傷が痛む。

 朦朧とした意識で階段を三階まで登り終えてセシルは部屋へ向かった。

 ノブは淀みなく動いて中へと招き入れてくれたが、既に起きていたフィリーが驚いたように振り返る。

 彼女がなにかを言おうするのを霞む目で眺めながらくずおれるようにして床に膝をつく。

 慌ててフィリーが駆け寄ってきて困惑気味にセシルの肩を抱いた。


「ちょっと!すごい熱」

「薬があるから……平気だよ」

「ひとまず私のベッドで寝て。水を持ってくるから」


 支えられてフィリーのベッドへと横たわり黄色のワンピースを翻して部屋を飛び出していくのを黙って見送った。


 まるで寝ていなかったかのように冷たく乱れてもいない布団もセシルの体温ですぐ温まる。

 小さく息を吐きながらもぞもぞと布団の中でポケットに手を突っ込みアイスバーグから貰った鎮痛解熱剤を取り出す。

 紙に包まれた粉薬は一応三日分処方されている。


「昨日はヘレーネも戻ってこなかったんだけど……なにがあったの?」


 水を汲んで戻ってきたフィリーが神妙な顔で問い詰める。

 だがセシルは水を受け取り粉薬を飲み下すと黙って目を閉じた。


「……セシル。血の臭いがするんだけど」

「生理」

「!?」


 息を飲む気配に薄目を開けてみると耳を赤くしたフィリーが視線を泳がせる。


 女同士でそれぐらいの会話は普通だ。

 恥ずかしがるにも過剰な反応は不自然だった。

 セシルが「ねえ、あんた」と首を持ち上げるとフィリーが布団を押えて首を振る。


「それならゆっくり寝てて。私は朝食を食べてくる」


 そそくさと立ち上がり足早に部屋を出て行く後姿を見送り、ひとりにされてセシルはようやくほっと人心地ついた。


「大丈夫……できるだけのことはやった」


 自分を納得させるように呟いて瞳を閉じると熱い瞼の裏にさっきまで見ていたリディアの寝顔が浮かんで――そして消える。


 後悔はしない。

 絶対に。



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