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魔法学園フリザード  作者: 151A
再会の呪い
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疑念


 誰もいない三階学生ホールの長椅子に座り、両足を投げだしてため息をひとつ。


 ホールの真ん中には学園長室と会議室のある最上階へと繋がっている職員専用の魔方陣がある。


 生徒には容易に近づくことができない最上階は西棟と本棟を繋いでいる。

 西棟には教師の研究室や重要書類が保管されている部屋や職員専用の食堂やサロンなどがあるという。

 学生課も西棟の二階にある。


「……多分そこにある」


 ぼんやりとホールの先にある学生食堂の方を眺めるが、春休みの為閑散としており扉に鍵がかけられている。


 セシルがいっているそことはもちろん食堂ではない。

 視線を動かして正面にあるトイレやその奥にある教員室も、薬学室も実験室も違う。


「どうやって忍び込むかが問題だな」


 顔を上に向けて天井を睨むがそんなことをしても道が開けるわけでもない。

 大体休み中にこんな所をうろうろしているだけでも先生達に見つけられれば咎められる。


 それでも学生ホールで愚図愚図しているのは、さっき忍び込んだ教員室で成果が得られなかったからだ。


 休み中は生徒同様に先生達も出勤しない。


 当番制で二、三人の先生が学園に来るが殆どの先生は自分の研究をしに西棟か各教科の部屋に詰めてしまう。


 よって教員室は無人であることが多い。


 忍び込むことは難しいことではなかった。

 ヘレーネとフィリーのクラス受け持っている先生の机から目ぼしい物を探したが二人の成績表ぐらいしか見つからない。


 鍵のかかっている一番下の引き出しを針金を使って開けて詳しい名簿を見つけたが不思議なことにヘレーネの分だけ載っていなかった。


「怪しすぎる」


 フィリーの出身地や母親の名前、生年月日や学園に入る前に通っていた学校の名前に成績などは知ることはできた。


 だがヘレーネの欄を必死に探すがどこにもない。

 一枚一枚丁寧に見ても最後まで出てこないのだ。


 まるで隠蔽されたかのように。


 学生ホールが薄闇に包まれ始めると、真ん中に描かれた魔方陣の光が強くなる。

 これ以上ここに居ても意味が無い。


 諦めて立ち上がるとトイレの前にある階段へと向かった。

 ゆっくりと下りながら、もうリディアは帰っただろうかと考える。

 人の気配のしない二階を過ぎて一階へと下りてからちらりと医務室を窺う。


「……犯人をノアールが見つけてくれるからね」


 無意識のうちにショートパンツのポケットを押えながら、帰っているかもしれないリディアにメッセージを送る。

 あの頼りなく、いまいち押しにかけるノアールをセシルは心の底から応援したかった。


 そうじゃないと困る。


 自分に託された仕事はあまりにも酷すぎる物だ。

 だからできるだけノアールの行動に期待したい。


 セシルは唇を噛んで正面玄関を出た。

 それから寄り道せずに中庭を突っ切って女子寮へと急いだ。


 あまり美味しくはない食事でも食いっぱぐれれば辛い。


 食べることに生きがいを感じているのは意外と男子より女子の方だと思う。

 毎回すさまじい競争をしながらおかずを奪い合う姿はとても男子には見せられない物だ。

 普段はお洒落に気を使い異性の目を気にして振る舞う仕草は形を潜めて、まるで悪鬼のような形相で牽制しあい罵る言葉は聞くに堪えない。


「ああ……悲しいかな。女の園」


 異性の目が無ければ途端に化けの皮が剥がれる女という浅ましい生き物が繰り広げる戦いが今日も開戦されている。

 扉を開いて玄関に入るとたちまち口汚い応酬がセシルの耳に入ってきた。

 右奥の食堂は騒がしい。


 混んでいるのを見てから少し時間をずらした方がいいと判断して階段を上る。

 三階の自分の部屋のノブを掴んで開けようとしたが動かない。


「は?なんで……」

「ごめんなさい!着替えてたから」


 慌てたように中から鍵を開けてフィリーが弁解する。

 確かに昼間来ていた桃色のワンピースから麻の部屋着に変わっていた。

 でも女同士でなぜ着替えるために鍵をかけるのか解らない。


「あんた……どんだけ恥ずかしがり屋なの」


 呆れて怒る気も失せる。

 元々怒るようなことでもないのだがフィリーは少し強張った顔で笑うと曖昧に濁す。


「そういえば風呂も一番最後に入ってるよね?」

「……私集団生活が苦手で。だから寮に入らずに下宿にしたから」


 どこか言い訳めいたように感じるがそういう人間もいるのだろうと理解してセシルも着ていた上着を脱ぎながら箪笥へと近づく。

 肌着も脱いでから箪笥から新しい襟付きのシャツを出して羽織る。


「あの……セシル」


 困ったような声がかけられて「なに?」と短く問うとフィリーが早口で「私ご飯食べて来るから」と逃げるように出て行った。


「人のを見るのも恥ずかしいのか」


 面倒くさいなと舌打ちしてからブーツを脱いで部屋履きに替える。

 机の前にある窓を開けて風を入れると潮の香りを運んできた。


 身を乗り出して街の方を眺めるとポツリポツリと明かりが灯り始めているディアモンドが見えた。

 街の時計塔の鐘が鳴り始め七回打ったところで止まる。

 街へと下りる魔方陣が効力を失い、校門には門番が魔法で呼び出されただろう。


 リディアの家のある方向を探してあたりを着ける。

 今頃は闇を恐れて部屋の中でじっとしているのだろうか。

 それともマーサの美味しい料理でも食べている頃か。


 セシルには与えられなかったあの優しくやわらかな腕と愛情がリディアを少しでも救ってくれればいいなと心から思う。



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