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魔法学園フリザード  作者: 151A
東方の魔術師
105/127

変化


 約束の時間に約束の場所へと向かうとそこには既に五つの人影が薄闇の中に浮かび上がっていた。時刻は深夜の鐘が物悲しく鳴った頃。そして場所は学園への入り口である登校用魔法陣のある広場。


「こんばんは」


 にこりと微笑んだのはグラウィンド公爵のひとり息子ザイル=グラウィンド。今日は帽子を被っていないので赤い巻毛が潮風に揺られている。


「ザイルさんお久しぶりです」


 頭を下げて挨拶するときょとんとした後で「こっちの方が年下なんだから呼び捨てで構わないのに」と口にする。そうはいうが四大公爵のひとりであるグラウィンドの子息を呼び捨てとは、いくらなんでも調子に乗り過ぎだろう。

 五つの人影のひとつはザイル。そして黒い服の男にラッシュと双清と呼んでいた少年達。それからフィルで全部だ。


「今日は、ガイさんは一緒じゃないんですね」

「いつも友達のいない根暗と一緒に居ると思われてるのは癪だなー」


 不服そうに呟いているが、ガイのことを嫌っているわけでは無いのは解る。友達がいない変人だといいながら、結局頼まれて図書塔へ本を借りに行ったりしているのだから。


「そういえば、ノアールも院に進みたいって聞いたけど。本気?」

「はい。そのために勉強頑張ります!」

「いやいや。駄目だって。そんなに真面目だとまた院の研究塔がカチカチの石頭ばっかりになっちゃうから。少し気を楽にして、院を目指してよ」

「え……?」


 院に進めるのは一握りの人間だけだ。勉強と魔法の才能だけでなく、新しい物を生み出せる企画力も必要になる。その院生を捕まえてカチカチの石頭ばかりだと言えるのはきっと学園長かザイルぐらいだろう。


「そういえば学園長は……?」

「母上は忙しいんだ。だから代理」


 胸を張って見せるザイルはやはりノアールよりも子供なのに、コーネリアの代理を任されるぐらいだから相当の使い手であるはずだ。きらりと金鎖のペンダントが月明かりに輝く。やはりそこには紫の大きな石。


 それは魔法道具だ。


「本当に他には誰もいないんだな」


 紅蓮は荷物を担ぎ直して不思議そうに辺りを見回すが、やはり他の人影も気配も見つけられずに首を傾げる。


「それだけ信頼されてるってことだろうなぁ」


 あっけらかんとレットソムが応じてザイルの前に出ると、優雅な仕草でお辞儀をし「ザイル様はお変わりなく。お会いできて光栄です」と見たことの無い様な笑顔で挨拶をする。


「相変わらずはお前もだろう便利屋」

「相変わらず、とは?」

「母上が無理難題ばかり押し付けおって!とお怒りだった」

「お怒りでしたか」

「母上を顎で使えるのは陛下と便利屋ぐらいだよ」


 肩を竦めてザイルは一段高くなっている移動用魔法陣へと近づく。既にそこには気を失ったままのラッシュと双清だった少年が座らされている。そして黒服の男はフィルと並んで魔法陣のギリギリ外側に立っていた。


「さてと。急な要求だったから新しく移動用の陣を作る暇がなかったから、創設者グラウィンドが築いた立派な陣を利用させてもらう。えっと、紅蓮だっけ?」


 名を呼ばれて紅蓮が「ああ」と返事をして頷く。それに手招きで陣の中に入るようにと示すと、黒服の男も中へと入りその後に紅蓮も続いた。


「向こうにはフィルが楔を打ってくれているらしいから、それを使ってこっちと繋げる。少々強引な移動になるから、それぞれ覚悟はしていてね。それから繋がった先が安全とは限らないからそれも頭に入れておいて」


 注意事項を伝えてザイルが「他になかったかな?」と首を傾げる。暫くう~んと唸っていたが「ま、いっか」と笑って流すとフィルに下がるようにと合図する。


「繋げるよ~」


 軽い口調が魔法の開始を告げた。紅蓮が魔方陣の中からこっちを見ている視線を受け止めてひとつ頷いて見せる。


 大丈夫だ。

 紅蓮は必ず双清を救い、そして争いをおさめて直ぐに帰ってくる。だから信じて彼の帰る場所をしっかりと守って待つのだ。


「紅蓮!気を付けて」


 口角を持ち上げて行ってらっしゃいと送り出す。ちゃんと笑顔になれていたのかは正直解らないが、満面の笑みで紅蓮が手を振って「行ってくる」と返してくれた。


「あんまり気負い過ぎんなよー」

「後、頼みます」


 レットソムには真剣な表情で頭を下げる紅蓮。

 魔方陣が光り輝いて、恒久魔法の中にベングルへの転移の魔法が組み込まれる。流れるような魔力と初めて耳にする古語の呪文が作用して学園以外の場所と繋がって行く。

 フィルが眩しそうに目を細めて「すごい」と呟く。

 元々ある魔法に新しい魔法を合わせる荒業はきっとグラウィンドの血筋じゃなければ出来ない芸当だろう。

 ザイルの胸の石がぐっと魔力を発して、あまりの負荷に耐えられずチリチリと震えて音をたてた。


「来た!」


 嬉しそうな声と共にぐにゃりと空間が歪む。その向こうに見たことの無い荒涼とした大地を見た気がした。

 そして力強い人々の熱気も。

 一瞬のうちに空間は閉ざされ、魔法陣の中にいた四人の姿も消えていた。

 呆気ないほどに別れは終わった。


「無事に移動完了したよ」

「お見事でした」


 レットソムが拍手で讃えると、ザイルは胸の魔法石を掴んで悲しそうに眉を下げた。その紫の石には大きな罅が入り、強く押せば粉々になってしまいそうだ。


「代償は大きかったみたいだけど」

「……このご恩にはいつか必ず報いてみせます」

「うん。期待してる」


 首からペンダントを外してから胸ポケットへと落とし、次に胸の合わせから書簡を取り出した。


「さて、フィル・ファプシス。これが正式な書類だよ」


 フィルに手渡された書簡を封じているのはグラウィンド公爵家の封蝋。それを恭しく受け取って「御希望の出立はいつ頃ですか?」と尋ねる。


「可能ならば明日の内に」

「それでは明日、ディアモンドを出ます」

「ちょっと!フィル、出立って何処に行くの?」


 紅蓮だけでなくフィルもどこかへと旅立つことになっているらしい。慌てて袖を引くと事も無げに「キトラスとの交換留学生として選ばれたんだ」と微笑む。

 それは罪を償うために出された交換条件としてなのかと勘繰っても仕方が無い。


「この前ホイスラー先生に呼び出されて是非にといわれていたから、今回のこととは関係ないからね。ノアールが心配するようなことはなにも無いんだ」

「……本当に?」

「うん」


 信じていいのだろうか。

 もやもやと胸が騒ぐ。


「それじゃ、ぼくは用意があるから帰るよ」


 いつものように笑ってフィルはザイルに深々と頭を下げてから、レットソムとノアールに会釈をして門へと歩いて行く。

 紅蓮はベングルへ、フィルはキトラスへ。リディアは学園を辞めて王立学園へと編入する。目まぐるしく周りの環境が変わっていくのに不安を感じて拳を握った。戦うことはノアールの役目ではない。ノアールがやらなければならないのは考えることだ。

 そして動くべき時は迷わずに行動すること。

 とにかく前へ進まなければならない。


「これからどうなるんだろう……」

「どうなろうとも、俺たちは一日一日を精一杯生きていくだけさ。それ以上のことはできん」

「そりゃそうでしょうけど」


 帰るぞと背を向けた所長の後を追って歩き出すとザイルもついてくる。そういえばザイルの家は何処にあるのだろうか。


「元々グラウィンドの屋敷だった物を学園に開放したから家は無いんだよ」

「家が無い!?」


 驚愕の事実に慄いていると「真に受けるな。王城の傍に屋敷がひとつ。それから旧市街地にひとつ。更に魔法使いギルドもグラウィンドの持ちもんだ」とレットソムがザイルを横目で睨む。

 子息は楽しげに鼻唄を歌っている。


「ノアール。目に見える物だけが真実とは限らない。目に見えない場所に隠れている物こそ重大な真実であるということを忘れないで」


 魔法使いギルドが見えてくるとザイルが走って玄関に入って行く。一階には灯りがついていたから誰かが待っていてくれたのだろう。


「俺たちは俺たちのできることだけしてりゃいいんだ。難しく考えるな」

「はい」


 ぽんと背中を叩かれてノアールは背筋を伸ばす。大きく息を吸って、懸命に生きることだけを胸に刻んで。


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