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魔法学園フリザード  作者: 151A
再会の呪い
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図書塔

改稿作業終了(2020年1月22日現在)。



 魔法と科学の国として名高いフィライト国の王都ディアモンドは大きな港を抱え、今日も多くの船舶が出入りしている。


 ノアールはその様子を海に弧を描くようにして張り出した絶壁――もっと詳しくいうならばそこにある魔法学園へと向かう階段――を上りながら横目で見ていた。


 日差しは暖かいが潮風を含む風は、ぼーっと眺めていれば身体が冷えてしまいそうなくらい強い。

 ただでさえ寝込むことが多いノアールには足を止めて眺める余裕もなかったし、腕に抱えた占星術の本を図書塔に返却しまた新しい本を借りるという楽しみの方が大事だ。


 それに寒さを我慢しなくても岩場に張りつくようにして建っている寮の部屋から綺麗に整備された街や青く美しいブリュエ城を高みから見下すことができる。


 そんな特権は魔法学園の生徒でなければ持てないのだと思うと誇らしくて自然と顔がにやけてしまうのだけれど。


 ずれ落ちそうになっている眼鏡を慌ててなおし階段を上り終えると砂を敷いたグラウンドに出る。図書塔は校舎を通り抜けたずっと奥にあるので、放課後にボール遊びに興じる学生たちの邪魔をしないようにしながら外廊下から中へと入った。


 ひんやりとした空気は左手にある地下へと降りる階段から、消毒液と薬草の匂いは近くの医務室から漂ってくる。


 しばらく進むと大きなホールと入口があり、両開きの扉が外向きに開かれたままにしてあるのはまだ門限がきていないからだ。

 扉の先には学園の門が聳えていて、その向こうに淡く光る登校用の魔方陣は鐘が七つなると光を失い、街と学園は完全に行き来ができなくなる。


 ノアールはそのまま進み入学式や卒業式、集会などに使われる大講堂へと続く通路を辿り、そこも通り過ぎていく。

 そして正面に見えてきたノアールの一番興奮する場所であり、知識の泉ともいえる図書塔へと勇んで駆けこんだ。


 古い紙とインクの匂い。

 シンッと静まり返った静謐な空気。


 ぐるりと取り囲むように置かれた本棚がノアールを押し潰しそうだ。


 図書塔は四階分の高さの細長い塔で、壁は丸くそれに合わせて置かれた棚が螺旋状に一番上まで続いている。天井は吹き抜けで見上げると吸い込まれそうになるほど。


「セレスティアくんは本当に勉強が好きなんだね」


 図書委員の二年生が受付で返却手続きをしながらにっこりと笑いかけてきた。

 金髪の巻き毛を二つに分けて結い、色の白い知的な頬を僅かに持ち上げて笑う笑い方はとても大人っぽい。


「勉強がしたくてここに入学したので。こんなにたくさんの本がいつでも手に取れるって環境はとても幸福です」

「この間のテストも一番だったね」


 そういえばと図書委員の少女が思い出したようにいう。

 上位三十番まではテスト後に名前が廊下に張り出られる。


 それを見たのだろう。


「優秀なんだね。将来が楽しみだな」

「ありがとうございます」


 謙遜ができるのは五位以下の人たちだけだ。

 あまりにも優秀すぎると謙遜も嫌味になる。

 それで妬まれても仕方がないし、一番だったのは頑張って努力してかちえたのだから素直に嬉しいし誇りたい。


 上級生はくすりと笑い「頑張ってね」と声をかけてから本の整理の作業へと戻る。


 ノアールも本棚へと向かいゆっくりと上がった。

 床は気づかないぐらいの傾斜で頂上へと上がっていて、本を探すのに夢中で気付いたらへとへとに疲れていたということもよくある。


 それに膨大な本を無闇に眺めて慎重に選んでいたら時間がいくらあっても足りない。

 ある程度の目星をつけて目的の場所へと脇目もふらずに向かった方が効率はいい。


「……あれ?」


 段差がつけられ小さな窓がある踊り場には四人掛けの書見台が置かれている。

 そこで勉強をする者もいれば読書をする者もいるのだが、そこに同級生の少女がいるのに気付きノアールは足を止めた。


 少女は開いた本を枕に俯せで眠っていた。

 薄茶色の髪が肩から落ちてノートの上に散らばっている。

 小さな右手にはペンが握られ、指の部分が無い皮手袋をはめた左手は額の下に敷かれていた。


 なんの勉強をしていたのか気になって、こっそりと近づきノートを覗き込んだ。

 丸っこい字が綴られているのを半分まで読んだところでその内容に驚く。そっと肘の下から本を抜き取ってタイトルを確かめて息を止めた。


 『魔法理論』の文字。


 ちらりと少女の様子を窺うが起きる気配は無い。ノアールは本をぱらぱらと眺めながら窓辺に寄ると光の粒子が窓越しに降り注ぎ瞬間目を閉じた。

 まぶたの裏側にうっすらと赤く光が透けて見える。


 耳の奥で少女が「知的好奇心だって感情からくるものでしょ?」と強気に問いただす声がふと甦った。



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