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救 出 同 盟 !!  作者: 山本徹湖
第1章
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20 愛されて、いた?

「……そんな良い名前を付けられるなんて、七星は愛されていたんだろうな」

 普段言葉数の少ないリエイトだけに一つ一つの言葉には重みがある。静かに話す彼の言葉は七星の胸に温かに沁みこんだ。


「愛されて、いた?」


 果たして、そうなのだろうか?

 全く思い出す事の出来ない家族や知人。それにどのような生活だったのかも……。

 どう感じ、どう生きていたのだろうか?

 


 ふとした瞬間、心の奥底からわっとばかりに焦燥感が襲いかかって来ることがある。

 それはもう癖のように押し寄せて来る感情の波は、元の世界でいつもこのような思考を繰り返していたのかと疑いを湧き起こらせるほどだ。


 何があったのだろう?


 疑問はあったが昔の事は全くといっていいほど思い出せないのだから、考えても仕方ないと自分に言い聞かせてきた。

 ……というより、本当は、考える事を今は避けていたかった。


 言い訳して片付けてるだけだ。

 逃げていたい……。

 目を、背けていたかった。


 もうこの世界に来て二年。

 訳も分からず右往左往していた時期は過ぎ、うすうす自分の思いに気付き始めていた。

 きっと、自分はこちらに来る前の事を思い出したくないのだ……。


 それは、心がイタイ事だから。


 苦しくて。悲しくて。惨めで、不愉快な事かもしれないから。

 そういう可能性が高そうだから……。




 だから……、今はいい。

 まだここで生きていく事に必死だし……。

 知らない事も山のようにある。


 考えない。

 考えては、いけない。


 無意識に言い聞かせていたように思う。

 暗い思考に沈み込み、闇に足元を掬われない為に、日々前だけを見て生きてきた。





 七星を見つめるリエイトの眼差しは、変わらず静けさを保っている。

「……」

 愛されていたなんてなかなか思えない、そんな七星を見透かすような眼差しだった。


「星とは夢がある。良い名だな。

 きっと、その……日々の生活の中でゆとりや夢を忘れない温かな心を持った人が、愛情を込めて付けてくれたんじゃないか?

 夜空にひときわ輝き、人々を導く星々……とても良い名だ」


「……そう、なのかな?」

 口の重いリエイトが自分を励まそうと一生懸命話してくれている事を感じる。嬉しかった。先程から表面上は平静さを保っているが、七星の心はじんわりとしていた。




「俺も記憶がないんだ」


「リエイト……」


 そう、確かライティアからだった、そのように聞いた事がある。

 幼い頃リエイトは、赤子のクロウリーを胸に抱き、西クレセンティアの王立養護院の門前に震えながら佇んでいた所を保護された、と。


「なんでクロウリーといたのか、どうしてその場所へ行ったのか、全然思い出せないのか?」

「ああ」


 七星は顔を曇らせた。

 思いが伝わったのか、リエイトは無言で頭を左右に振った。ダークブルーの髪が揺れる。


「リエイト?」

「そんなにたいした事ではない。俺はあまり昔の事が気にならない……。

 昔に囚われ拘って、過去ばかりを眺めて生き続け抜け、殻のような人生を送る人もいる。俺は、どう生きてきたのかは分からないが、それに比べたら却って身軽だし気楽だ。

 ……自分がどんな子ども時代そ過ごしてきたのか知らないが、何かを思い出した所で今の生活を変えるつもりもない」


 夜空に散りばめられた星々と波の音がそうさせるのだろうか、リエイトは饒舌だ。

「……そっか」

 リエイトの言葉は、静かだが重々しかった。

(そんなものなのだろうか?)

 七星が、怯え過ぎているだけなのかもしれない。

 話すリエイトは、無理をして強がっているようには見えなかった。


 どこかで思い悩んだ瞬間もあったかもしれない。

 でも剣の腕を怠らず磨く中で、自分の心も曇らないよう何かを乗り越えて来たのだろう。

 だから強い。皆を守り抜けるほどに。

「……俺はクロウリーが大人になるまで側で見守っていく。それだけは譲れないと思ってる。拘っているとすれば、そこだ」


 自分らしさを貫くリエイトは、星々に負けない光輝を放っているように感じられた。

 いつも皆の後ろから静かに見守ってくれ、何かあれば優しく包み込むように護ってくれる存在、それがリエイトだった。

 姿が見えるだけで安心出来るのはその為だろうか。

 一見穏やかに見えるが、ひとたび重量のある大剣を取ると腕力にものをいわせた豪快な剣裁きで、荒々しく頼もしかった。


 リエイトが過去に拘らず逞しく生きる姿から、学ぶ事は多い。

 クロウリーだって自分の出自が分からなくとも、明朗に生きている。



 二人は、なんて強い。

(俺も、負けてられねーな)

 

 七星は、再び星々を見上げた。

 空の全面が応援するかのように、一段と明るく煌々と輝いているように見えた。




 その時である。

 ドタ、バタ!

 バタン!!

 甲板の静謐を破るように、船内から誰かが勢いよく飛び出して来た。

 大きな物音にびくりとして七星達は目を見合わせ、それから音のした方向を見た。


 音の発信源はユノだった。

 二人に気付くと、はっとしたように駆け寄って来る。

「もう、何だよユノ?

 クロウリー達は寝てるんだから、静かにしてやってくれよな~」


「そんな呑気な事を言っている場合ではない、七星!

 大変だ! 大変な事になってしまったのだ! 俺は何と言う事をしてしまったのだろう! 

 小船をもう一度下ろしてくれ、頼む!!」


 余程慌てふためきながら飛び出して来たのだろう。

 ユノは、荒い息を繰り返しながら七星に食って掛かった。それはもう噛み付かんばかり勢いでがなり立てる。

「ああ? 何だよ、とにかく落ち着けって。お前顔近い」


 普段の彼らしくない勢いに圧された。銀の髪は乱れ表情は固く強張っている。

 今日はユノらしくない姿を何度も見ていた。

 宥めようとする七星を制し、ユノは言葉を続けた。

「あれをっ、あれを取り返さなければ大変な事になる。

 何故気付かなかったのか……くそっ」


 そう言うと、その場に蹲り頭を抱えてしまった。

 その後もぶつぶつと何事か呟いている。リエイトも不審そうにやり取りを見守っていた。

「……」

 七星は、難しい顔をしてリエイトを見た。

 ユノの様子から嫌な感じを受ける。リエイトも同様のようだ。


「ユノ、大変な事って何だよ? 俺達にもちゃんと分かるように説明してくれ」

 七星が、肩に手を置くとユノはしゃがんで頭を抱えたまま七星を見た。


「そうだな」

「?」

 がばっと立ち上がり、その勢いに驚いている七星の両肩に手を乗せぎゅっと掴んだ。

「いでっ」


「七星、先程プレジテーヌのミラノ皇子に渡した薬は本物の『慈母の光明』ではなかった」

「はっ? まじか!?」

「良く似た別の物を渡してしまったのだ」

「何だって!」

「……!」

 リエイトも固まっている。


 ミラノ達に渡したあの薬、まさか。……まさかまさか!!


「あ、あれは一口でも口にしたら死んでしまう、劇毒だ!!」


「ど、毒!?」


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