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逃亡

維心はため息を付いて、額に手を置いた。

維月はそれを見て、気遣わしげに身を寄せる。

「維心様…?やはり無理をなさっておるのではありませぬか。」

維心は首を振った。

「大丈夫よ。ただ、我が宮の方まで見えるゆえ、こちらとあちらで頭の中の整理が付かぬ。今少し、こちらの逃亡中の軍神達を見失っての…気を探っておる所だ。」

維月は首を振った。

「お疲れであるのはわかっておりまする。維心様は常と違っておられまするゆえ…。」

言ってしまってから、維月はごにょごにょと呟くように言った。だって、私も夜とても楽になったもの…維心様が長く眠って下さるから…。

維心はそれに気付かぬように微笑んだ。

「心配するでない。大丈夫だ。」

蒼はそれを見ていて、ヤバいと思った。維心が消耗して来ているのは、様子を見ていてわかる。常に力を使いっぱなしの状態で、あっちもこっちも結界を張っているのだ。しかも自分のホームグラウンドを離れている…龍は、やはり龍の宮が一番肌に合っていると聞いたことがあるのだ。

「維心様、やはり一気にかたを付けてしまいましょう。軍神達の居場所はわかりましたでしょうか?」

維心はじっと眉を寄せたが、首を振った。

「しばし待て。外には居らぬのか…気配が掴めぬ。」

そこへ、信明が息せき切って駆け込んで来た。

「王!」

蒼はびっくりして振り返った。

「信明?どうした、主がそのように慌てておるなど珍しい。」

信明は維心も同席しているのを見て取って、慌てて膝を付いた。

「失礼を致しました。急ぎ、お知らせせねばならぬことがございまして。」

蒼は期待を込めて信明を見た。

「申せ。」

信明は頭を上げた。

「はい。桜と話しておって知ったことでございまするが、あの魔法陣が刻まれた頚連を、鈴藍が身に付けておったのを見たと申しておりまする。」

蒼は慌てて立ち上がった。維心と目を合わせる。

「鈴藍か!」

しかし、鈴藍からあのペンダントは見つからなかった。どうして…。

その表情を見て、信明は頷いた。

「頚連はとても小さなものであったとのこと。おそらく下着の中なり、口の中なり隠すことは可能であったのではないかと。」

維心が弾かれたように立ち上がった。

「…宮の中に一人紛れ込んでおる!」と、足を戸口のほうへ向けた。「急げ!地下牢の辺りぞ!」

蒼は事態を悟って急いで飛んだ。続いて維心もそれに倣い、信明も後に続いたのだった。


利晋は、鈴藍を連れて、肩に紅雪を担いで宮から出て走っていた。飛ぶと、ここの軍神達に気取られてしまう。

牢の結界は、簡単に破る事が出来た。やはり、月の力はかなり弱くなっている…対して、自分は今気が充実して体が軽かった。常に半分ほどの気で動いて来た利晋にとって、ここは力を目一杯使える夢の地だった。

かなり森の奥まで走ったところで、鈴藍が息を切らせて利晋を見た。

「もう追っ手も追い付かぬでしょう。利晋…本当にここまで…」

鈴藍は、利晋を見た。利晋は頷いて、紅雪を肩からそっと降ろした。

「…これで我らの婚姻も、王が許してくださいまする。あなたも他の宮へ嫁ぐ必要はなくなる。この地に住めば、皆が幸福に暮らせるのです。我はそのためなら、どんな危険もおかしまする。」

鈴藍は、涙ぐんで利晋を見た。

「利晋…。」

利晋は、鈴藍を抱き締めた。

「このように命の危険も感じずに、あなたを抱き締める事が出来ようとは。鈴藍様…愛しておりまする。」

鈴藍は、利晋の背に腕を回した。

「利晋…!我こそよ…!愛しているわ。本当にこのまま、ここであなたと暮らせたなら…。」

利晋は言った。

「暮らせまするよ。我が何としてもこの地を手中におさめる。今少しです。」

鈴藍は、気を失っている紅雪を見た。

「でも…紅雪まで巻き込んでしまってはいけないわ。ねえ利晋、紅雪は帰してあげましょう。我らと同じ境遇でありながら、紅雪は我に同情して会いに来てくれていたのよ。」

利晋はじっと紅雪を見たが、首を振った。

「いいえ。鈴藍様、これは戦であるのです。我らは大半の軍神を捕えられて、今大変に不利なのです。我であっても、あなたお一人をあそこから助け出すのが精一杯であった。直に龍王に気取られまする。龍王の結界の中では、我らは常に監視されているようなものなのです。すぐに捕えぬのは、おそらく我らの動きを見るため。さあ、もう少し奥へ参れば、残りの軍神達が待っております。参りましょう。」

鈴藍はためらいがちに頷くと、再び紅雪を肩に担いだ利晋と共に、森の奥へと分け入って行った。


地下牢に駆け込んだ蒼達が見たのは、確かに鈴藍が入っていた空の牢と、床に落ちた見覚えのある扇だった。

「遅かったか。」

維心が言って、また気を探ろうと意識を集中する。蒼は扇を拾い上げ、それが紅雪の物であることを知った。

「…紅雪がここへ来たのだな。しかし、こうも簡単に月の戒めが解けるとは。」

やはり、十六夜の力は弱まっている。今は人型で居るのにエネルギーを使うのがもったいないと月へ戻ってここへ降りて来ないが、思うように力が降ろせなくてイライラしていることだろう。

維心が言った。

「気を遮断しておるな。我が追跡しておるのを知っておるらしい。ここの牢を破る為に一時的に膜を消さざるを得なかったのだろう。その瞬間に我が気取ったのだ…だが、また膜の中におる。紅雪を連れ去られたのなら、事態は悪い方向へ行っておるの。」

蒼は頷いた。しかし、十六夜は空から見ているはず。膜を被っていても、目視は出来るのだ。気を探れないだけで、目で探すことは出来る。蒼は十六夜に念を飛ばした。

「十六夜、見えてたか?」

十六夜から、遠くから聞こえるような念の声が返って来た。

《軍神が一人、紅雪を担いで鈴藍の手を引いて宮を出て走って行ったのを見たぞ。見えてるが何も出来ねぇんだ。まるで人の世に居た、お前達と過ごした時みたいだ。》

蒼はため息を付いた。

「今は見えるか?」

十六夜は答えた。

《見えない。森の中へ入って行ったが、木が邪魔でな。だが、森の木々から聞いたんだが、奥のほうに知らない一団が固まって座っているとさ。》

蒼はびっくりした。

「え、十六夜、木と話せたっけ?」

十六夜は面倒そうに言った。

《話すっていうか、こっちの意思を伝えたら、向こうから何か返って来たって感じだ。話すとは感覚が違うんでぇ。なんて説明したらいいかわからねぇ。》

維心が割り込んだ。

「では、木に聞いてくれ。どこの辺りにおる。」

十六夜は少し黙った。そして、言った。

《森の東、結界のぎりぎりの位置ぐらいだな、あいつらの言うところによると。そこに大きな銀杏の木があるんだが、その近くだ。》と、面倒そうに言った。《ああ、銀杏は話したくないらしくて答えないが、その近くのポプラが言うには、かわいそうだしなんとかしてやれとさ。こっちのほうがかわいそうだっての。》

蒼は顔をしかめた。植物は神と同じ、いや、もっとストレートだ。しかも、冷静に物を見ている。本当に境遇には同情の余地があるのかもしれない…。

維心が、踵を返した。

「どっちにしても捕えなければの。抵抗すれば殺すしかないがな。」

蒼は急いでその後を追った。

「待ってください、維心様。確かに捕えますが、殺すのは…。」

維心は歩きながら言った。

「まだそんなことを言っておるのか。我の結界もそろそろ弱まって来る頃。我とて力が無限にある訳ではないのだ。龍の宮の結界を緩める訳には行かぬゆえ、これ以上続くなら向こうの結界をこっちとつなげる必要がある。別にと申すなら、将維と分けて結界を張るなり、対策を取らねば。どちらにしても、このような不自然なことを長く続けることは出来ぬのだ。さっさとかたを付けてしまわねばの。」

蒼は下を向いた。確かにここを今守っているのは維心一人の力。その上維心は離れた龍の宮までがっつり守っている。両方ともにたくさんの神を抱え、それを一身に担っている状態なのだ。さすがに疲れが出て来ている頃だろう。

維心は蒼の様子を見て、ため息を付いた。

「…主は維月によく似ておるゆえ、考え方は分かる。なるべく命は取らぬようにする。だが今、我にも余裕がないゆえ、加減が出来ず殺してしまうやもしれぬのよ。そこはわかってもらわねばの。」

蒼はホッとして頷いた。そして急いで居間へ取って返し、李関と信明を呼んで、軍へ指示を出した。


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