シャルド式簡単数学2
話し合いをするには到底向かない喧噪。ここマリナ酒場は国内最大級の旅の出発点だ。この国から旅に出ようとする者は、魔王の出現以来ここで目的地が一緒になる者同士を探すようになった。それはレイアたちとて例外ではない。
「やっぱりいないわね。ガレリアに向かおうなんて奇特な人々は」
「まあ、そうですね。それよりここの名物、ガーガー鳥の丸焼きは食べておかなきゃ損ですよ?」
「ねえシャルド。あなた何してるのかしら」
レイアが必死で旅の仲間を探す中、シャルドはテーブルについた丸焼きをほおばっていた。
「決まってるじゃないですか。祖国に別れを告げる儀式を」
「この世に別れを告げたくなければ、旅の仲間を見つけてきなさい」
シャルドはその言葉に彼らしからぬ行動、にやりと笑って見せた。
「レイア様。効率って言葉ご存知ですか?」
「な、何よいったい」
「レイア様が歩き回っている間に僕はここで丸焼きを奢ってもらいながら旅の仲間を見つけたんです」
「はあ? じゃあ、連れてきてみなさいよ!」
レイアが真面目に怒りをあらわにした。と、シャルドの脇から一人の男が様子を伺っていたかのようにするりと、レイアの前に立った。銀髪長身。がっしりとした体つきのその男は軍事国家と呼ばれたガレリアの民のようだった。拵えのよさそうな長剣を腰に差している。
「よう久しぶりだな、レイア」
彼の言葉を半ば無視して、レイアはシャルドをにらみつける。
「シャルド、よく聞きなさい。これは奢ってもらったのではなくて買収されたと表現するのよ」
「そんな言い方ひどいですよ。向こうから好意で呼びかけてくださったのに。ねえディナン王子」
どんな思惑があるのか知らない。そこにはかねてからの宿敵ディナンが堂々と立っていた。