シャルド式簡単数学
「そうだ。もう一度王宮に戻ってお金をもらいましょう」
「そうね、あなたがしたこと全て申し開きをしてからになるけどね」
くるりと踵を返した体勢でシャルドが固まる。
「レイア様、僕は一体どうすれば?」
「知らない。というより、まず何にお金を使ったの?」
「この指輪に500ゴールド。つまり半分ほどですね」
シャルドは自分の薬指にはめた指輪をレイアに見せる。
「もう半分は?」
「レイア様と言えど、申し上げるわけには参りません」
「そ。王宮戻ろうか」
「お願いします! それだけは勘弁してください」
シャルドは今までレイアの袖を引っ張ったことはない。従者として当然のことではあるのだが、初めてされて彼の意思が固いことだけはレイアにもわかった。
「はあ、分かったわよ。そのかわり全てが終わったら話してよ。シャルドよく聞いて。今から私たちは旅に出ます。お金が足りなくなったら、働いて稼がなければならなかったりします。いい? 私は勇者になった時点で、お姫様じゃないからね。まず、レイアと呼ぶこと」
「はいレイア様」
「……」
「あ、はい、わかったぜレイア」
シャルドが前歯にきらーんと光が入りそうな笑みで指を突出しポーズを決める。
「さて、まずは私たち二人で旅にでないとなりません」
「突っ込みはなしなんですね……」
ポーズを決めた指をむなしそうにひっこめる。
「その前にすることは?」
「装備を兵士に無償提供させましょう」
「よし、まずはあなたの身ぐるみ剥いで必要なお金を集めましょうか」
「ごめんなさい。冗談です。装備とか考えてみれば特にいらないことに気づきました」
「目的地を決めなきゃいけないわよね?」
「はい! それなら僕が昨夜最適だと思われるルートを考えてきました!」
地図を広げながら威勢の良い声を発するシャルドにレイアは思わず彼を見直した。
「王都がここで、魔王がいそうな建物がここです。その二点間を結んだ距離が最短! つまり最適なルートです」
「さすがシャルド。で、魔王がいそうな建物へはどの門からでればいいのかしら」
「それはレイアが考えることじゃないか」
王都と魔王の居場所の二か所が結ばれただけの図をしまいながら、あきれたような顔で鼻をならすシャルド。
「そうね、そうよね、さすがシャルドだわ」
どんなもんですといった顔をするシャルドに、もう何も聞かないことをレイアは誓うのだった。