出発の朝は
「大変でしたねレイア様。床が水浸しで危うく溺れるかと思いましたよ」
にこにこしながらシャルドがレイアの後ろをついていく。
「嬉しそうねシャルド。お願いだから私が許可するまでしゃべらないでくれるかしら」
風邪を引いた猫みたいに一晩でやつれたレイアがいらだたしげにシャルドのでこを小突く。あれから妹は泣き疲れて眠るまで泣いた。そして異変に気付いた国王がやってくる。国費でティナの好きな菓子を買い占める。今回は国中で小麦と砂糖の価格が急騰した。
「レイア様。僕が話すのをやめたら、いったい何が残るんですか」
「そうね、何も残らないわね。口だけ切り離しておいてきたらティナも喜んだかしら」
「……怒ってます?」
シャルドはいつも以上に機嫌が悪いレイアに伺いを立てるように語りかけた。
無言で歩くレイア。帰ってくる足元からの力強い返答にシャルドは青ざめる。
「そうだ、レイア様。今日から出立ですよね。路銀もらってきたんで派手に出撃パーティーやりましょうよ」
「ええ。財布を今すぐ出しなさい。私が預かっておくから」
「えと、中は見ないで下さいよ」
中には幼いレイアの似顔絵が収まっているのだ。今ここで見られたら彼の命はないだろう。
「ええ、わかったわ。見てあげない」
その言葉にシャルドはショックを受けた顔をする。やはり見てほしいと言うふりだったのだ。彼を出し抜いたことでようやくレイアの溜飲はさがった。
「いい? このお金で私たちは魔王のところにたどり着かなきゃいけないの。命の次に大切なのは勇者の証なんかじゃなくて、お金なんだから」
「えー? お金なんて拾えばいいじゃないですか」
「そう簡単に落ちてないわよ!」
「な、なぜそれをもっと早く行ってくれなかったのですか……」
「何言ってるのよ! あんた従者でしょ? それくらい知ってて……ねえ、この財布とっても軽いんだけど」
しゃがみこんで僕はもうおしまいだとつぶやくシャルド。
「そうね、おしまいね」
こんなやつ連れてくるんじゃなかった、とレイアは後悔した。