国王の弱点
しばらくして会議は終わる。最大の問題にして唯一の懸念だった魔王への対処が決まったことで胸をなでおろした各国代表たち。そんな彼らに大国の元王子―今は魔王に侵略され半分以上の領土を失ったが―ディナンの抗議は伝わるはずもなく。
「レイア、この借りは必ず返すからな。いつか戦場で会おう」
ディナンはそう言い二人だけを残し会議場を出ていく。彼は魔王は敗れ自国が復権したのち、再びこの国を侵略すると宣言した。その言葉にレイアはため息を吐き出した。
「あの王子も妹のことなんてあきらめればいいのに」
彼の目的はレイアの妹、ティアにある。いや国王アルフレッドにあると言ってもよい。
アルフレッドは大国ガレリアからの婚姻の申し出を断ったのだ。ディナンは態度は尊大だが決して王子として不能ではない。ましてや相手は大国こちらは小国。結婚の申し出に政治的な異などあるわけがない。それでも断った。ティアの一言で。
『私は心に決めた方がいますから、ディナン様のところへは嫁げません』
そんな彼が今回の決議に対して黙っているはずはなかった。
「レイア、そろそろお前も結婚する年齢だと思う」
ディナンと先ほど一言二言話していたアルフレッドがレイアのもとへ来る。
「お父様。何が言いたいのですか?」
「ディナンにその気はないか聞いてみた」
その一言で全部アルフレッドの思惑はわかった。
「それで?」
さっきの言葉でその気などあるはずないと思っていたレイアは先を促す。
「あるそうだ。良かったではないかレイア。あの大国の王子が相手だ。何不自由なく暮らせるぞ」
「お父様。例えそれでも私は『勇者』ですから」
王子はやはり王子だった。ティアでなければ最悪レイアでもいいらしい。彼女は王子の扱いを一つ下げることに決めつつ、それでも譲れない任務だと告げる。
「お前でなくても強い人間はいるだろう」
「この国にですか? それは武術大会の勝者ですか? それとも魔術大会の勝者ですか?」
「別に一番強いものである必要はない」
娘を主催者にするのではなかったとアルフレッドは後悔していた。大会にはよくある特例試合。優勝者は毎回数秒のうちに地に倒れふし、彼女に見下ろされるのだから。
「そこまで言うならわかりました」
「そうかならばさっそくつたえて来よう」
「そうですね、ティアに伝えなければなりません。私がディナン王子のもとへ嫁ぐことになったと」
「そうだな……レイア、それはもう少し後でよくないか?」
「いいえお父様。ティアもショックを受けるなら早めのほうがいいかと」
と言ったとき、待ちきれなくなったのか外で待機していたらしいティアが会議室の中に入ってくる。
「あら、ちょうどいいところに」
「おお、ティア。実はレイアを『勇者』として任命することになった。喜べ、お前の憧れの姉が世界を救うのだ」
ガレリアの侵略戦争の時に、心を弱らせたアルフレッドはポツリとレイアにこぼしたことがある。『ティナに嫌われたら私は生きてはいけないだろう』
すべてレイアの思惑通りになった。
ディナンは確かに言いました。
「レイアを嫁にする。もちろんティナも嫁にする。全てが終わった(侵略も終わった)後で」