お前がやらなきゃ誰がやる!
とある異世界。長らく平和だったそこは今、脅威にさらされていた。突如、魔王と名乗る存在が現れ、瞬く間に世界の半分を支配したのだ。これは彼の真の欲求と原因のお話。
「皆様。私が発言してもいいですか?」
よく透き通った少女の声。ざわめく各国の代表たちに向かってそれは放たれた。
「レイア姫。何か良策をお持ちなら言って御覧なさい」
その声は彼女を応援するものではない。小国の姫。一応、歴史と由緒ある国だから、会議の開催国にしてやっているのだ。そんな嘲りとどうせ大したことはないと言う驕りが、その返事を返した大国の元・王子の言葉だった。
「我が国に古より伝わる制度。剣を先頭に立って振るい、皆の旗となるべき存在を指定すればいいのです」
「何をバカなことを。勇者などになりたいものなどいるはずわけない。いるとしたら自殺志願者かなんかでしょうなあ」
彼の言葉にそこかしこから乾いた笑いが湧き起こる。元とは言え、大国の王子に逆らおうなどというものがこの場にいるはずもなかった。ただ一人を除いては……
「あんたのその剣は飾りなのかしら」
「な!」
「まあいいわ。私が『勇者』やるんだから、腰抜けなんかに出しゃばってきてもらっても困るのよ」
「レイア!」
彼女を止めたのは父である国王アルフレッドだった。この場を荒らしては、特に彼を怒らせては何もうまくいかない。彼女にはわからないが彼には分っていた。
「お前、そんな風に言って、この会議で認められるとでも?」
王子は怒りを抑えつつ尋ねる。
「今さら、あんたに媚び売るつもりなんてないわよ。数年前まで侵略しようとしていたくせに。あんたに認められるかどうかなんて私にはどうでもいいこと」
「いいだろう。彼女の意見賛同するものは立て!」
「少しお待ちください。まず二つに分けましょう。勇者を立てるかどうかと誰を勇者にするのかを」
アルフレッドはそう言った。一に、勇者を派遣するのは各国にとってメリットだと思う。
二にそんな危険な任務に彼女をつかせるわけにはいかない
「ん、まあ、確かにそうだな。ではまず『勇者』を派遣しようと思うもの!」
できるものならやってみろとばかりに王子は叫んだ。全員たった。
「では次に、勇者として誰を派遣するか!」
予想外の反応に彼はやけになってそういった。
「私でいいと言うもの立ちなさい!」
「待て、レイア!」
レイア姫の言葉を静止するアルフレッド。しかしながら、そこには立ち上がった全ての代表たちが、反射的に立ってしまったと言わんばかりに気まずそうな表情をしているばかりだった。