◇王佐:エディア
王佐殿は見た目ピチピチでテンション三割り増しなアングラ風味。
王佐殿が登場なさると主に下ネタ度が上がりますよー。
「ただいまーっ!帰ったよっ!」
景気良く宰相殿の執務室の扉を開け放って登場なさったのが、側近その2こと王佐のエディア殿。
役割はほぼ秘書と言った方がわかりやすいかもしれない。
「おや、予定より一日早くありませんか?」
「ああ、うん。でも、故郷は堪能したし、予想外に荷物が増えたからね、一日早く帰って来ちゃったよ」
この方が言えば「てへっ☆」もお似合いです、見た目だけなら間違い無く側近三人の内一番若いので。
健康的なミルク色の肌にストロベリーピンクの巻き毛、瞳も同色…冗談のような色合いなものの、これで天然というのだから……。
元々は物凄く真っ赤で、魔族になってこの色合いに落ち着いたのだそう…それで落ち着いた内と?
「はいはい、まずはお土産!レヒト殿には各種宝石原石の詰め合わせ、研磨とかは自分で頼んでねっ!」
ドシャッとテーブルに置かれた重そうな包みを、宰相殿はさっそく開け始めていらっしゃいます。
…そう言えばお好きでしたね、宝石。
「ああ、小粒ですが何て質の良い……」
なかなか良質な物のようで…ああ、確か王佐殿の故郷は現在宝石の一大産地になっていましたか。
宰相殿の宝石好きは本能的な物だそうです…引っかかった方もいらっしゃるのでしょうが、今は聞き流して頂ければと。
「ユーリス君にはコ・レっ!」
そう言って私に渡されたのは…大きさの割にはやや軽めの…一抱え以上ある巨大な包みが一つ。
「いったい何を…?」
ふかっとしていて、なおかつ妙にずっしりと……。
「服だよ、服!流行の無いスタンダードなのから最新流行のまで纏めて色々!」
「……え?」
何故に?
「だって、次はユーリス君の番じゃないか、長期休暇」
「…ああ、そう言えば」
魔王側近には通常の五日に一度の休みに加え、何故か三年に一度は一ヶ月の長期休暇という謎の制度になっており…勿論理由は不明。
私の場合は此処に来てようやく三年、今回が初の長期休暇。
「その時に着る物要るよね?里帰りするって言ってたから買って来たんだ」
「普段着のチュニックにマントでも羽織れば良いかと思いますが…?」
飾り帯を革ベルトか革紐に変えそれに剣の一本でも吊し、大振りな鞄なりを提げれば、大体それで庶民の平均的な旅装の出来上がり…だったはず。
ほぼ軍隊生活だったから庶民的には少し怪しい、か?
「こだわり無さ過ぎ!」
「…と、言われましても、普通はそんなものでは?」
王佐殿も確かに元人間とは言え、そこは上級貴族の出身。対して私は下町育ちの母子家庭、さらに中身は…と言った具合なので常識が噛み合わない事もたまに。
「最低限チュニックには防刃対魔加工!マントには気配遮断と調温調湿!ブーツに重力軽減と軽量化…あ、ベースのブーツは当然抗菌防臭加工の安全靴ね?」
「………」
こだわりの方向が斜め上でした。
…と言うより、それは旅行向けの軽装ではなく、軽装に見せかけた白兵戦も可能な重装備では……。
「休暇なのですが…?」
「だからこそっ!私達は我が身が最大の資本にして唯一、気が緩んで怪我など厳禁!」
つまりその辺りを後付けで仕込んでも十分な質の物を仕入れて来たから、使えとおっしゃる…王佐殿?
「そもそも、半分はフェルディーン陛下からのご指示だからね」
「……は?」
という事は、お土産代金は半分陛下の懐から…?
「休暇中に着れるような服ユーリス君に用意してあげて欲しいって」
「そうでしたか」
妙な所で気が利いて、気を利かせて欲しい所でワザと羽目を外して下さるのが陛下ですから、余り不思議とは思わないものの…。
「しかし、いまいち解せないものが……」
明らかに量が多すぎる事と…包みを開いてみたら、私が着てもコスプレにしかならないような衣装がちらほら……。
「エディア殿、陛下が直々に選ばれましたか、これは?」
「そうだね、三分の一くらいは。でも、陛下が選ばれた物の方は良く知らないんだけど…」
中から一枚引っ張り出してお二人の前に広げれば…そうですよね、微妙に何とも言いづらい表情になりますよね?
一目で高級と判る白いローブなんて…。
「わーお、コレ着たらひょとしなくても体のラインくっきり?」
「上質のシルクですねぇ…。おそろしく着心地は良さそうですが、着る人を選びそうですねぇ」
襟や袖口に紺と金で縁取りのある、マーメイドラインの真っ白なシルクのローブ…何処ぞの王宮魔導師や神官の物と言った風情の逸品。
人間の場合、男性のローブ姿は魔法を使える目印でもあるので、魔族化しても魔法主体ではない私にとっては無用の長物とも言いますが。
「腿の辺りから下に隠しプリーツ…手が込んでるね」
「あ、見た目よりかなり動けますね、コレ。しかも、一カ所だけの紐留めと見せかけて隠しボタンですか…なかなか」
宰相殿、王佐殿、その辺りの構造はどうでも良いです、興味ありません。
「休暇中ついでに何処かに潜入して来いと言う事でしょうか?」
丸めて再度土産の包みに押し込み…後で自室で仕分けしなければ。
「あ、それ…多分、違う」
「は?」
先ほど淹れ直したお茶を手に、王佐殿があっさりと否定。
「分かんないかな?休暇用の服は言い訳だよ」
「…ですねぇ」
お二人共、何故そんな生ぬるい目で私を見るのですか?
「男なら…ほら、こういうのはさ!」
「ええ、ええ、わかりますよ、エディア殿」
そんなに力説して頂いて誠に申し訳ないのですが、私には思い付きません。
自分は男終了ですか?…あ、いえ、ある意味とっくに終了してはいますが。
「もうっ!脱がせたいから贈るのっ!男の下心の基本だってばー!」
「……………」
…そう言えば、そういう意見もありましたか。
私的には真逆の着せて飾って愛でる方面なもので…根本的な辺りで、自分の心は男には成れないようです。
差し当たり、長期休暇前に危険そうな衣装は全力でクローゼットの最奥に封印して行こうと思います。