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婚約破棄の話を持ち掛けられた病弱な私、転生前の世界から持ち込んだキノコで分からせてみる

作者: 愛原ひかな
掲載日:2026/09/26


 豪華な貴族の一室で、私は激しい頭痛と共に目を覚ました。

 ベッドの上には、小さな白いキノコが散乱していた。


「けほっ……」


 目覚めはとても苦しかったが、無理矢理にでも頭を起こしてみる。

 部屋の中にある置き鏡に視線を向けると、サラサラの金髪にクリクリした水色の瞳の少女が、パジャマを着て映り込んでいた。


 可愛いけど、なにこの姿は。

 というか……あれ、生きている?

 ひとまず覚えている限りのことを思い出そうとした。


 たしか私は一度死んだはずだ。

 お昼を過ぎた頃。小雨の中、ひとり山菜採りに出かけておいしそうな白いキノコを手で掴み取り、そのまま食べてテンションがハイになって倒れ込んで天国のようなキノコの庭園が見えて……。


 どう考えても、白いキノコの名前はドクツルタケ。

 その毒によって気を失うと目の前に神様が出てきたはず……うろ覚えだけど。


 そこで私がお願いして……現在、ドクツルタケが目の前に散らばっている。


 哀れだな、私。


 まぁ、過ぎたことはどうでも良い。私は恐らく異世界にでも転生したのだろう。



「大丈夫か、リコレット!」


 若い男の声と激しい物音が聞こえると、部屋の扉が全開になっていた。


「ええっ……あなた様は……」

「俺はレオムだ。今はほっといてくれ」


 黒髪の男が淡々と自己紹介をしたように思えたが、なんだか無愛想だ。

 とても周りのことを見れるような目をしていないのである。


「でもまさかリコレットお嬢が、六歳のお子様だったなんて。紹介文章や文通の仲介に入っていたダルレギアム伯爵もとんだ失態をしたなっ!」


 見た目だけは美貌な男が、小声でブツブツ呟いていた。


「私って六歳なの?」

「ああ、そうだが」

「それって、どちら様からお聞きになられたのですか?」

「入口にいたメイドだよ。ソイツをハッタリ倒して問いかけると、リコレット嬢が実は六歳だってこととか病弱だってこととか全部話してくれた」

「ふーん」


 私は真面目そうに聞いていたが、よくよく考えてみたら。

 黒髪の男レオムがやったことって、単なる脅迫ではなかろうか。


「無礼なのは、あなた様でしょ。げほっ……」


 急にせき込む私。リコレット嬢は病弱ってメイドがいうくらいだから実際そうなのだろう。


「お体に障るぞ?」

「無礼な者に心配される筋合いなんかありません。というか、あなた様は目的があって押し掛けてきたんでしょ」

「ああ、ここに来たのは婚約破棄をするためだ」

「……なるほどです。では、このキノコを差し上げましょう。ひとくち食べたら今日のことは許します」

「キノコ?」


 眉にしわ寄せがきているレオムは、息を吞む。


「私、このとおり病弱だから恋愛事情なんて詳しくわかんなくて」

「ど、どういうことだ?」

「とりあえず私の気持ちをわかってくれます?」


 げほっ……頭をおろした私は速攻でベッドのなかに深く入り込んででうずくまる。


 体がしんどい自覚がある。

 けど、とりあえずレオムの行動は見過ごせないのでキノコでわからせたい。


「ちっ、わかったよ」


 これといった警戒心もなく、レオムはベッドから白いキノコをひとつ持ち上げた。


「婚約破棄のおとぎ話に、あったな。こういう展開が」

「……なになに?」

「はぁ、どこまで無知なんだが……」


 レオムはこれ以上のことは何も言わずに、白いキノコにかぶりつく。


 だいたいひと口サイズだろう。


 ……実に哀れだ。わからせるのには、じゅうぶんだ。


「うぐっ!?」


 レオムはすぐに倒れた。


「あら、どうしちゃったのかな?」


 私は体を上手く動かすと、ベッドの上から見下ろすような形で意識を失ったレオムを見た。


「げほっ……これで、婚約破棄の成立ね……」


「まったくそうだなあああっ!」


 ごっつーん。

 レオムのおでこと、私のおでこがかち合う。


「痛っ……!」


「ひでーな。お前も、ダルレギアム伯爵も」


 レオムはおでこの部分を右手で隠し、すごく痛がりそうにしながら私に憎悪の視線を浴びさせる。


 というかレオム生きてる?

 ドクツルタケを食べて、なんで?


「言っておくが俺に毒は殆ど効かぬ。そういう体質なんだ。……魔法で中和したくらいに今回はキツかったがな」

 レオムは、冷や汗をかいていた。

「すみませんね」

「まぁ、平気だよ。これで復讐心をもつのはお前ではなくお前の父親であるダルレギアム伯爵だけになったな。お前に関わることが知られると面倒なんだよ世間からロリコンって言われるし」

「ふむ、なるほどです」


 レオムはそれで良いのかと思いつつ、ひとまず婚約破棄のことは飲み込むことにした。

 異世界の恋愛事情なんて、よくわからない。


 そんなことよりも、転生したにも関わらず病弱な一面があるほうが心配なんだが……。

 私としては。


 ただ、レオムとは割と意気投合しやすそうではある。



◆



 後日、ダルレギアム伯爵が、二人の人物によって分からせられることになった。

 前世の世界から持ち込んだキノコ、身をもって味わいたまえ。



 ……私が異世界転生して分かったことは、魔法でキノコを生やせる能力を得たこと。


 正確には毒キノコの育成速度を著しく上げるものなんだけど、理屈なんでどうでも良い。


 なんで毒限定なのかって?

 異世界転生したきっかけに強く根付いているのかもしれない。


 あと恋愛のことはさっぱり掴めなかったけど……前世の私はキノコ一筋だったし、男にはあまり興味がなかった。



 それから十年後に本物の愛で二人が結ばれることを、この時はまだ知らなかった。


お読み頂きありがとうございます。★とかレビューいっぱいお願いします

恋愛ジャンルにチャレンジしたいと思って書きました。よろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
金髪にクリクリした水色の瞳の少女……!? とにかく見た目が絶対かわいい!!
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