触れた世界の隅
掲載日:2026/03/11
枯れ葉みたいに
崩れていくかもしれないから
僕は触れない
綺麗な花だって
いつかは茶色く濁って
瑞々しさを失って
ボロボロになっていく
温かい花は
掌の冷たさに怯えている
解けてしまわないように。
柔らかな花は
触れるだけで崩れていく
壊れてしまわないように。
触れちゃだめ。
触れちゃだめだ。
掛けた呪文は偽り
暗い夜に伸ばした指先が
ほんの少し
やわい花びらに触れた
刹那
純白だったはずの花びらに
夕陽のような赤が滲み
花びらの先まで広がってゆく
赤はすぐに色褪せて
花は生を失う
ぴくりとも動かない
風に揺られても
歌わない
踊らない
笑うことすらしない
やがて夜は明け
太陽が世界を照らす
花びらは崩れた
強い光に顔を歪めて
さよならも告げずに
散っていった
掌に残ったのは
夕陽の赤でも
純白でもない
ただのぬくもりの抜け殻
触れた事実だけが
冷たい皮膚に染み込み
証拠はどこにもなかった
誰にも証明できなかった
僕はもう一度
震えた指を伸ばす
花のない茎だけの緑色
そこには何もない
けれど
確かに息をしていた
僕の知らない
世界の隅で
静かに息をしていた
ご覧いただきありがとうございました。
息をしていた。
誰かに届きますように。




